ハンタウイルス感染症とリスクの捉え方
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7日前

ハンタウイルス感染症とリスクの捉え方

ハンタウイルス感染症とリスクの捉え方
クルーズ船でのハンタウイルス集団発生が注目を集めています。 新型コロナと比較されがちですが、 両者のキャラクターはほとんど"真逆"です。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」の第13回では、 感染症を正しく捉えるための 「リスクの2軸」 について解説します。 

リスクは2つのパラメータで考える

リスクを整理するうえで、 私がいつも使う軸があります。 FrequencyとConsequencesの2つです。 Frequencyはリスクの発生頻度、 Consequencesはひとたびそのリスクが発生したとき生じるダメージの大きさです。

身近な例で考えてみましょう。 自動車事故は年間多数発生しますが、 1件の事故が人命に与える影響は限定的です。 一方、 飛行機の墜落事故はまれな事象で、 発生頻度はずっと低い。 しかしひとたび起きれば、 乗客・乗員全員の命が失われかねません。

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写真はイメージです

このように、 リスクはこの2つのパラメーターで度量すると格段に理解しやすくなります。

ハンタウイルス : 感染しにくいが、 感染すると重篤

ハンタウイルスは1970年代から知られていますが、 発見国である韓国でさえ、 年間数百例レベルの症例しか報告されていません ( 「ハンタ」 とは、 ウイルスが発見された韓国の川の名前です)。

たった数年で数億・数十億規模のパンデミックを引き起こした新型コロナとは、 感染しやすさが極端に異なります。

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ところが、 一旦発症してしまうと様相が変わります。 南米のアンデスウイルス感染 (ハンタウイルスの一種) の死亡リスクは3~4割。 確立された治療法も存在しません。

「滅多に起きないが、 起きると怖い」 ——新型コロナとキャラクターが間逆なのが、 お分かりいただけるでしょうか。

クルーズ船アウトブレイクをどう見るか

2026年4月1日に出航したクルーズ船ですが、 ウイルスの潜伏期が6週間程度と非常に長く、 今後何人の感染が判明するかは予断を許しません。 (2026年5月14日時点で9人の感染者が判明)

クルーズ船という閉じた密な空間を長期間シェアする環境は、 感染症にとって格好の舞台です。 そのような環境下で1か月以上たっても患者数が一桁にとどまっているのは、 ハンタウイルスの感染力の低さを改めて示しています。

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繰り返しますが、 感染力が低くても、 ひとたび感染が成立すれば死亡リスクは高い。 WHOなど関係機関が全力でこの感染症を抑え込もうとするのは、 当然のことです。

「公衆衛生上のリスクではない」 は矛盾していない

「危険なウイルスだが、 公衆衛生上のリスクではない」 ——こうしたWHOのメッセージに混乱を感じる方もいるかもしれません。

しかしこれも、 FrequencyとConsequencesの2軸で考えれば矛盾しません。 本感染症のリスクは、 公衆衛生 (社会全体) レベルではなく、 あくまで個々の乗客・乗員レベルのものです。

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以前、 米国のメディアが 「ハンタのリスクはないと保証してよいのか (guarantee) 」 と専門家に食い下がる場面がありましたが、 そもそも質問の設定が失敗しています。 あらゆるリスクは 「あるかないか」 でいえば、 あるに決まっています。 第三次世界大戦や核爆弾のリスクだって、 ゼロではありません。

大切なのは 「ある・なし」 ではなく、 定量的に度量すること。 「リスクはある、 しかし極めて低い」 と考えることです。 Guaranteeのような 「幻想的安心」 を求めることの危うさを、 私たち医師は伝える立場にあります。

今後の焦点は 「二次感染を起こさないこと」

大切なのは二次感染を起こさないことで、 本稿執筆時点ではそれはまだ報告されていません。 乗客・乗員をどこまで厳格に隔離できるか、 長い潜伏期間にわたって隔離を完遂できるかが、 勝負の分かれ道になります。

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かつてのダイヤモンド・プリンセス号では、 隔離が上手くいかず二次感染が多数発生したことが多くの研究で明らかになっています。 新型コロナは 「ヒト・ヒト感染」 が主体ですから、 ヒトとヒトとの接触遮断に全力投球すべきでした。

しかし当時は、 床や手すりの消毒といった効果の低い方法に力が注がれてしまいました。 PCRのような検査体制や感染対策に当たる人員など、 物的・人的リソースの乏しさも問題でした。

今回は乗客・乗員数が少なく、 ヒトへの感染力も低い。 下船地であるカナリー諸島との当局とのリスク・コミュニケーションも概ね上手くいっているようで、 現時点では妥当な感染対策が展開されています。

この先の焦点は一点——これ以上、 新たな感染を発生させないことです。

日本にも存在するが、 ヒト感染はほぼない

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実は日本にもハンタウイルスが存在することが、 げっ歯類の研究で明らかになっています。 しかしヒトでの症例報告はこれまでありません。 これが韓国との大きな違いです。

もともと、 げっ歯類の尿がエアロゾル化して感染するとされるハンタウイルス感染症。 そのような状況が日本社会ではめったに生じないことが、 ヒト感染が稀有な理由と考えられます。

なお、 韓国などのハンタウイルスは腎疾患や出血熱を起こすタイプで、 肺疾患がメインの南米などののハンタウイルスとは臨床像が大きく異なります。 韓国で発生する型は死亡リスクは5%以下と低いことも付け加えておきます。

監修・執筆医

ハンタウイルス感染症とリスクの捉え方

略歴

島根医科大 (現・島根大) 卒。 沖縄県立中部病院研修医、 セントルークス・ルーズベルト病院 内科研修医を経て、 ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローに。 北京インターナショナルSOSクリニックを経て、 2004年に亀田総合病院で感染症科部長、 同総合診療・感染症科部長歴任。 2008年より現職。
「タイムマネジメントが病院を変える」 など著書多数。 米国内科専門医、 感染症専門医、 感染管理認定CIC、 渡航医学認定CTHなどのほか、 漢方内科専門医、 ワインエキスパート・エクセレンスやファイナンシャル・プランナーの資格をもつ。

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Q. ハンタウイルス感染の症状と経過は?

Q. ハンタウイルス肺症候群の致死率は?

Q. ハンタウイルスの治療法と予後は?

Q. ハンタウイルスの診断法と検査は?

Q. ハンタウイルスの主な感染経路は?

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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