HOKUTO編集部
2年前
本邦初となる「Onco-cardiology ガイドライン」の作成委員である徳島大学地域循環器内科学特任教授の山田博胤氏が、 同ガイドラインで設定された5つのClinical Questionの1つである「心エコー図検査」について、 第20回日本臨床腫瘍学会 (2023年3月) で解説した
Caner therapy-related cardiac dysfunctionの略で、 がん治療に伴う心筋障害と心不全のことを指す。 腫瘍循環器領域において、 がん関連血栓症(Cancer related thrombosis:CAT)と並ぶ二大疾患の一つとされる。
『腫瘍循環器診療ハンドブック』(2020年発刊)によると、 症状の有無にかかわらず、以下を認めるものとされている。
同氏によると、 GLSは、 CTRCDが顕在化する前の潜在性心筋障害を捉える心エコー図指標として、 最近注目されているものであるという。
このGLSについて、 以下のCQが設定された。
CQ1「がん薬物療法中の患者の定期的な心エコー図検査で、 GLSの計測が推奨されるか?」
対するステートメントは、以下のとおりである。
「GLSの計測が提案される」〔推奨の強さ:弱い、 エビデンスの強さ:C(弱)、 合意率:92%〕
GLSは、 心筋の長軸方向の心筋の歪み (収縮機能) をみる指標である。 前述のCQ1の推奨を決定する際に採択された、 GLSを検証したランダム化比較試験の論文は、 SUCCOUR試験 (J Am Coll Cardiol 2021; 77: 392-401) のみであった。
▼同試験の対象と方法
アントラサイクリン系薬剤による治療を受けたがん患者331例を対象に、 心保護治療の開始判断について以下の2群に割り付けた。
▼主要評価項目 LVEFの変化量の結果
両群で差を認めなかったものの、 GLSガイド下群ではLVEFガイド下群に比べて、 1年後のLEVF低下が有意に抑制されていた。
ただし最近、 同試験の追跡3年間の結果が報告されたが、 LEVF低下について、 両群で差は認められなかったという。
この点については、 同氏は、 その後GLS測定の有用性を示す研究結果は複数報告されており、 「今後エビデンスがさらに集積されれば、 推奨度が高まる可能性はある」と展望した。
また山田氏は、 同ガイドライにおけるもう一つの関連CQとして、 以下をあげた。
CQ9-1「心毒性のあるがん薬物療法を行う患者に対して定期的な心臓評価は推奨されるか?」
CQ9-1に対しては、次の通り記載された。
「心毒性のあるがん薬物療法開始時の心エコー図検査・バイオマーカー検査・心電図検査による評価は心不全予防のために推奨される」〔推奨の強さ;弱い、 エビデンスの強さ;C(弱)、 合意率;92%(11/12)〕
本件については、 すでに欧米では各学会からの提言や診療指針が公開されている。 また欧州心臓病学会 (ESC) が 2022年に発表した腫瘍循環器学では初となる診療ガイドラインでは、 心毒性のあるがん薬物療法中の患者の心エコー図検査において、 GLSはLEVFと並んで「推奨クラスⅠ」と高い推奨度が示されている。
同氏は、 このような欧米と日本のガイドラインの推奨度の違いについて、 「日本ではエビデンスが十分ではない状況に鑑み、 今回のガイドラインではこのような推奨度になっている」と説明した。
なお同氏は、 がん治療に伴う心毒性のリスクについて、 図のように、
「ベースラインのリスク判定をした上でのがん治療中の管理や治療後の長期フォローアップが大事。 最初のリスク判定が最も大事で、 高リスク例は治療中もフォローアップ時もリスクが高くなる。 まずはここを見極めたうえで、 CTRCDの発症を見逃すことなく、 早期に心保護治療を開始することが肝要だ」と指摘。
その際に、 GLSの測定が推奨されることを強調した。
図. がん治療に伴う心毒性のリスク
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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