HOKUTO編集部
2年前
〔編集部から〕食道がんは代表的な難治がんの1つとされてきましたが、 近年、 複数の治療を組み合わせた集学的治療の開発が進んでいます。 そこで今回、 消化器内科、 消化器外科、 放射線領域における"Young Opinion Leader"の3氏にご参集いただき、 局所進行食道がんの集学的治療について、 議論してもらいました。 最終回となる本回のテーマは、 「切除不能 (Ⅳa期) な局所進行食道がんの集学的治療」です。 ぜひご一読ください。
❶ 根治的CRTと導入DCF療法の比較: JCOG1510試験が進行中で、 その結果が待たれる。
❷ 根治的CRTと免疫療法の併用: SKYSCRAPER-07、 KUNLUN、 KEYNOTE 975試験などが進行中。
❸ 線量の議論: 食道がんでは、 線量を50Gy以上にするメリットは議論の余地がある。
❹ 根治的CRT後の手術と導入DCF療法後の手術の違い: 根治的CRT後の手術がより厳しいとされる。
❺ 「ボーダーライン」という概念: 欧米と日本の定義の違いが集学的治療の解釈を難しくしている。
山本 切除不能な局所進行食道がんに対する現在の標準治療は、 根治的化学放射線療法 (CRT) ですが、 今後の開発動向はどのように展望されますか。 放射線療法 (RT) を基軸とした場合の治療開発の問題点や今後の期待などについても教えてください。
柏原 切除不能な局所進行食道に対しては、 現在本邦で実施中の根治的CRT と導入DCF療法後のコンバージョン手術を比較するJCOG1510試験が進行中であり、 同試験の結果次第という状況です。
一方で、 根治的CRTと免疫療法を併用する治療法の開発も世界中で進められています。
SKYSCRAPER-07試験
根治的CRT後に進行していない切除不能な食道扁平上皮がん患者を対象に、 抗PD-L1抗体アテゾリズマブ + 抗TIGIT抗体tiragolumab併用投与とアテゾリズマブ単剤投与を比較
KUNLUN試験
切除不能な食道扁平上皮がん患者を対象に、 根治的CRTとの同時併用での抗PD-L1抗体デュルバルマブの投与をプラセボを対照に比較
KEYNOTE 975試験
切除不能な食道扁平上皮がん患者を対象に、 根治的CRTとの同時併用での抗PD-1抗体ペムブロリズマブの投与をプラセボを対照に比較
山本 線量についての議論はいかがでしょうか。
柏原 T4 (周囲組織に浸潤する腫瘍) に対するRTのデータは少ないですが、 食道がんにおけるメタ解析のデータでは、 50Gy以上の線量増加は無益であることが報告されています。 特に大規模なランダム化比較試験では、 ほぼネガティブな結果になっています。
RTによる心臓の晩期障害も重要視されるようになってきており、 食道がんでは、 線量を50Gy以上にするメリットはあまりないと考えられます。
山本 根治的CRT後のサルベージ手術と、 導入DCF療法後のコンバージョン手術では違う点はありますか?
石山 やはり導入DCF療法後の手術よりも、 根治的CRT後の手術の方が、 手術としては厳しい印象があります。 食道と大動脈との境界なども非常に分かりにくく、 正直なところヒヤヒヤしながら手術を行なっているのが現状です。
また導入DCF療法後ではリンパ節郭清を伴う手術を行いますが、 根治的CRT後では気管血流の温存の観点からリンパ節郭清を選択的に行なっていて、 術式を少し変えています。
山本 そのお話をうかがうと、 やはり強力な導入化学療法でコンバージョン手術に持っていった方が日本式の質の高い手術〔3領域郭清 (頸部・胸部・腹部) 〕の効果が最大限発揮できるように思いますね。
石山 そうですね、 導入DCF療法後に腫瘍縮小効果がかなり得られた場合にも、 3領域郭清は必須だと思います。 3領域郭清も含めたものがコンバージョン手術であり、 徹底的な郭清が重要だと考えています。
石山 ちなみにここでいう「切除不能な局所進行がん」というのは、 いわゆるT4bだと思いますが、 本邦では現在進行中のJCOG1510試験でも、 “明らかなT4b”と“いわゆるT4疑い”の症例は分けて検討もされると思います。 一方、 欧米では、 こうしたボーダーラインという概念がないように感じます。
どっちつかずで微妙 (=ボーダーライン) という表現は日本人の感覚かもしれません。 ゴリゴリのT4bはわれわれからすると手術に移行するのは難しく、 腫瘍量が多いT3からT3brまでが集学的治療で根治を目指せるところだと思っています。
そのため、 海外のデータでT4b症例で集学的治療の効果が高かったという報告も出ていますが、 実際にはT3brが多く含まれている可能性はあると思います。 こうした欧米と日本の定義の違いの問題なども考慮すると、 背景因子がそろっていないと、 集学的治療の解釈は難しいところはありますね。
また食道がんは、 合併切除できる臓器が本当に少ない、 という問題もあります。 当然ですが心臓は取れないですし、 気管も、 大動脈も原則取れない。 切除できるものは、 心外膜や肺の一部などで、 一番知りたい気管浸潤や大動脈浸潤があるのかに対し、 本来ならば合併切除して病理診断で判断できるものが食道ではできない、 という点が真の深達度診断が困難な理由です。
山本 今回新たに規約で規定されたT3brが加わったことで、 T4bとT3brにおける各種治療法の効果の違いの検討は必須でしょう。 特に今後の治療開発の軸となり得るJCOG1510試験でどのような結果になるか、 一研究者としても非常に興味があります。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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