HOKUTO編集部
4ヶ月前
EGFR-TKIは、 抗腫瘍効果の向上や耐性克服に向けた第1-3世代の開発を経て、 現在、 進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療において重要な役割を果たしている。 一方、 EGFR遺伝子変異陽性NSCLCは、 早期に対する根治を目標とした標準治療を行っても再発しやすい傾向があり、 新たな治療戦略の開発が求められてきた。 第65回日本肺癌学会では、 EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療展望について、 神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長の加藤晃史氏が発表した。
II~IIIA期の非扁平上皮NSCLC完全切除例に対する術後補助療法としてCDDP+VNR療法とCDDP+PEM療法を比較したJIPANG試験において、 両群の無再発生存期間(RFS)の生存曲線は、 EGFR変異陽性/陰性例で逆転し¹⁾、 かつEGFR変異陽性例ではより予後不良でプラチナ製剤併用療法のみで十分な効果が得られない可能性が示された²⁾。
また、 II~IIIA期のNSCLC完全切除例に対する術後補助療法として第1世代EGFR-TKI (ゲフィチニブ) とCDDP+VNR療法を比較したIMPACT試験では、 主要評価項目である無病生存期間 (DFS) は両群で差はなく、 プラチナ製剤併用療法の代わりとしてゲフィチニブの有用性の可否を判断する明確な根拠は得られなかった³⁾。
これらの試験結果から、 EGFR変異例に対する術後療法においては、 EGFR阻害薬と化学療法の両方が必要であることが示唆された。
その後、 Stage IB-IIIAで完全切除されたEGFR変異陽性NSCLC(組み入れ時に術後化学療法治療歴を許容)に対する術後療法として、 プラセボを対照に、 第3世代EGFR-TKIオシメルチニブ(最大3年投与)の有効性および安全性を評価した第III相国際共同二重盲検無作為化比較試験ADAURAが実施された。
主要評価項目であるII-IIIA期におけるDFS中央値 (HR 0.23[95%CI 0.18-0.30])、 および副次評価項目である全集団(Stage IB-IIIA)におけるDFS中央値 (HR 0.27[95%CI 0.21-0.34]) は、 いずれもオシメルチニブ群で著明かつ有意な改善が示された(データカットオフ : 2022年4月11日)⁴⁾。
また、 最終OS解析 (データカットオフ : 2023年1月27日) において、 Stage II-IIIAおよび全集団(Stage IB-IIIA)の5年OS率は、 いずれも有意な改善が示された (いずれもHR 0.49、 p<0.001)⁵⁾。 ただしサブグループ解析において、 EGFR変異(Exon 19del / L858R)別のプラセボ群に対するOSのHRは、 Exon 19delが0.35(95%CI 0.20-0.59)、 L858Rが0.68(95%CI 0.40-1.14)と、 L858R変異例では若干、 効果が弱い傾向が見られた⁵⁾。
ADAURA試験の結果を基に、 現在、 Stage II-IIIのNSCLCを中心に、 術後療法としてオシメルチニブが国際的に広く使用されている。 しかしその一方で、 L858R変異例に対する治療アプローチが今後の課題であり、 さらなる研究報告が待たれる状況だ。
『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、 同時化学放射線療法 (CRT) 後に抗PD-1抗体デュルバルマブによる地固め療法を行うことが強く推奨されている⁶⁾。 この根拠となる試験として、 CRT後に病勢進行 (PD) が認められなかった切除不能なStage IIIのNSCLCに対する地固め療法としてのデュルバルマブの有効性を、 プラセボを対照に評価した第Ⅲ相国際共同二重盲検無作為化比較試験PACIFICがある。
アップデートされた報告(データカットオフ : 2021年1月11日)において、 5年OS率はデュルバルマブ群で42.9%、 プラセボ群で33.4%、 5年無増悪生存期間 (PFS) 率はそれぞれ33.1%、 19.0%と良好な結果が得られ⁶⁾、 デュルバルマブが標準治療として確立された。
一方、 サブグループ解析において、 EGFR/ALK変異陽性例 (EGFR変異陽性患者35例、 ALK変異陽性患者8例) のプラセボ群に対するOSのHRは0.85(95%CI 0.37-1.97)と、 Stage IIIのEGFR変異陽性例における有効性は明確でなかった⁷⁾。
こうした背景を踏まえ、 次に説明するLAURA試験が設定された。
CRT後に病勢進行 (PD) がない切除不能なStage IIIのEGFR変異陽性NSCLCに対する地固め療法としてのオシメルチニブの有効性を、 プラセボを対照に評価した第Ⅲ相国際共同二重盲検無作為化比較試験LAURA試験がある。
中間解析 (データカットオフ : 2024年1月5日) において、 主要評価項目であるPFS中央値は、 オシメルチニブ群で有意に改善した (39.1ヵ月[95%CI 31.5ヵ月-NC] vs 5.6ヵ月[3.7-7.4ヵ月]、 HR 0.16[0.10-0.24]、 p<0.001) ⁸⁾。 この結果から、 PACIFIC試験で明確ではなかったStage IIIのEGFR変異陽性例に対する有効性が確認され、 今後のOSの結果が期待されている。
LAURA試験の中間解析結果より、 オシメルチニブが新たな標準治療として有用であることが示唆された。 一方で、 プラセボ群のPFS中央値の低さから、 CRTの意義については議論が必要である。 また、 有害事象 (AE) として放射線肺臓炎が両群ともに最も多く報告され、 オシメルチニブ群、 プラセボ群でそれぞれ48%、 38%に認められたが、 そのほとんどがGrade1/2で管理可能であった⁸⁾。
加藤氏によれば、 EGFR変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブ療法については、 局所進行例だけでなく、 早期例、 およびさらに早期である術前療法の意義を評価する以下のような臨床試験が進行中であるという。
早期(Stage IA2-IA3)で完全切除されたEGFR変異陽性NSCLCに対する術後療法として、 オシメルチニブの有効性および安全性を、 プラセボを対照に評価した第Ⅲ相国際共同二重盲検無作為化比較試験⁹⁾。
切除可能なEGFR変異陽性NSCLCに対する術前療法としてのオシメルチニブ単独療法または化学療法併用の有効性および安全性について、 化学療法単独を対照に3群間で比較評価した第Ⅲ相国際共同二重盲検無作為化比較試験¹⁰)。
オシメルチニブ療法の課題として、 加藤氏は 「投与期間終了後の再発」 を挙げ、 課題解決のためには主に以下の3点が重要であると説明した。
ドライバー遺伝子やPD-L1、 分子的残存病変(MRD)などの診断・治療戦略に関わるバイオマーカーを用いた評価は不可欠である。 ADAURA試験の分子的残存病変 (MRD) 解析では、 画像診断に基づく無病生存期間 (DFS) イベントより4.7ヵ月先行してMRD+が検出された。 また、 MRDおよびDFSイベントの68%が術後オシメルチニブの投与期間終了後に発現したことが報告されている¹⁰⁾。
MRDを基に可能な限り早期段階で再発を予測し、 対応することも重要となる。
また、 現在日本では術後療法としてのオシメルチニブ投与期間について、 ADAURA試験の結果に基づき、 3年が推奨されている⁶⁾が、 その一方で前述のように、 投与期間終了後に再発などのDFSイベントが増加する傾向があるため¹¹⁾、 海外では投与期間を5年とした研究が進行中である。
今後は適切な投与期間や、 臨床試験で適応外とされた患者群に対する治療意義についてのエビデンス構築が期待される。 また投与期間の再評価に関連して、 長期的な安全性プロファイルや経済的アセスメントの検討も必要になる。
FLAURA試験の日本人サブセット解析において、 日本人集団におけるオシメルチニブ群のOS中央値は全患者の結果と大きな違いがなかったが、 両群の生存曲線は27ヵ月頃に逆転し、 オシメルチニブ vs 第1世代EGFR-TKIの12ヵ月生存率は97%/94%、 24ヵ月生存率が86%/78%、 36ヵ月生存率が59%/63%だった¹²⁾。
日本の実臨床において、 オシメルチニブ療法が世界の報告と同等の効果を示すかについては、 今後慎重に追究する必要がある。
最後に加藤氏は 「EGFR変異早期および局所進行NSCLCに対し、 もはやオシメルチニブは標準治療となった。 今後は日本のリアルワールドデータを積み上げていくことが、 今後、 日本で安全にオシメルチニブ療法を行うためには非常に重要である」 と総括した。
¹⁾ J Clin Oncol. 2020; 38: 2187-2196.
²⁾ Cancer Sci. 2022; 113: 287-296.
³⁾ J Clin Oncol. 2022; 40: 231-241.
⁴⁾ J Clin Oncol. 2023; 41: 1830-1840.
⁵⁾ N Engl J Med. 2023; 389: 137-147.
⁶⁾ 肺癌診療ガイドライン-悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む- 2024年版
⁷⁾ J Clin Oncol. 2022; 40: 1301-1311.
⁸⁾ N Engl J Med. 2024; 39: 585-597.
⁹⁾ Clin Lung Cancer. 2023; 24: 376-380.
¹⁰⁾ Future Oncol. 2021; 17: 4045-4055.
¹¹⁾ J Clin Oncol. 2024 42(16_suppl):8005-8005.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。