HOKUTO編集部
17日前

2026年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2026) では、 肺癌に関する重要な研究結果が数多く報告された。 近年は新薬の開発だけでなく、 長期フォローアップやサブグループ解析を通じて、 「どの患者に、 どの治療を選択するべきか」 という実臨床上の課題に答えるデータが増えてきている。
本稿では、 本邦で既に承認されている薬剤を中心に、 日常診療へのインパクトが大きいと考えられる演題を取り上げ、 その臨床的意義について考察したい。
未治療ALK陽性NSCLCへのロルラチニブ 7年PFS率55%
未治療ALK陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) を対象に、 ALK阻害薬のロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相CROWN試験のアップデートについて紹介する。
CROWN試験の5年フォローアップデータ⁴⁾はASCO 2024で報告され大きな注目を集めたが、 ASCO 2026では7年フォローアップの結果が報告された。
今回の解析においても、 ロルラチニブ群の無増悪生存期間中央値 (mPFS) は依然として未到達であり (95%CI 68.5ヵ月–NE)、 クリゾチニブ群の9.1ヵ月 (95%CI 7.4–10.9ヵ月) を大きく上回った。 さらに、 7年PFS率はロルラチニブ群55%、 クリゾチニブ群3%であった (下図)。

ロルラチニブの高い治療効果を裏付け
ロルラチニブ群のmPFSは少なくとも84ヵ月を超えていることになり、 これまでに報告されている分子標的治療の第III相試験の中でも極めて優れた長期成績といえる。 安全性についても、 新たな有害事象は認められず、 これまでの報告と一貫した結果であった。
これほど良好なPFSが得られているため、 現時点では全生存期間中央値 (mOS) は依然として未到達である。 一方で、 クリゾチニブやアレクチニブによる逐次治療後にロルラチニブを使用した場合でも、 最終的なOSは同等となる可能性があるとの議論もある。
しかしながら、 「初回治療開始から7年以上経過した時点でも半数を超える患者が無増悪生存を維持している」 という事実は極めて印象的であり、 ロルラチニブの高い治療効果を裏付ける重要な結果である。
ロルラチニブが第一選択となる時代に
参考までに、 他のALK阻害薬の第III相試験 (いずれもクリゾチニブ対照) の結果を以下に示す。 試験デザインや患者背景が異なるため直接比較はできないものの、 PFSの観点ではロルラチニブが他のALK阻害薬を上回る成績を示している。
さらに、 本邦で実施されたJ-ALEX試験⁶⁾では、 アレクチニブ群の5年OS率は60.9%と報告されている。 一方、 CROWN試験では7年時点でも55%の患者が無増悪生存を維持しており、 その長期治療成績は極めて良好である。 PFSとOSは直接比較できる指標ではなく、 また試験間比較には限界があるものの、 ロルラチニブが長期間にわたり病勢を制御できる可能性を強く示した点は臨床的に極めて意義深い。

現在、 本邦では5種類のALK阻害薬が使用可能であり、 初回治療でどのALK阻害薬を選択するかは重要な臨床課題となっている。
ALK阻害薬同士を直接比較した無作為化比較試験は存在しないため慎重な解釈は必要であるが、 現時点で得られているエビデンスを総合すると、 ロルラチニブは初回治療における第一選択薬として積極的に考慮すべき薬剤であり、 標準治療の一つとして位置付けられるべき時代に入ったと考えられる。

L858R変異NSCLC、 エルロチニブ+ラムシルマブ先行戦略は優越せず
REVOL858R (WJOG14420L) 試験は、 未治療EGFR変異陽性、 特にL858R変異を有するNSCLCを対象に、 オシメルチニブ単剤療法とエルロチニブ+ラムシルマブ併用療法を比較した第III相試験である。
本試験では、 エルロチニブ+ラムシルマブ併用療法における治療戦略成功期間 (time to failure of strategy) が主要評価項目とされた。 本評価項目はやや解釈が難しい指標ではあるものの、 結果として両群間に有意な差は認められなかった (中央値 14.8ヵ月 vs 16.6ヵ月、 HR 1.03、 95%CI 0.78–1.38、 p=0.49)。
また、 PFSおよびOSについても、 両群間に明らかな差は認められなかった (下図)。

L858R変異患者に特化した第III相試験
EGFR変異陽性NSCLCの中でも、 L858R変異はエクソン19欠失と比較してEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) の治療成績が不良であることが知られている。 そのため、 REVOL858R (WJOG14420L) 試験はL858R変異に焦点を当てた重要な第III相試験であり、 EGFR変異のサブタイプごとに治療戦略を検討する時代に入ったことを示す試験ともいえる。
特定のEGFR変異のみを対象とした第III相試験は世界的にも限られており、 肺癌における個別化治療がさらに進展していることを象徴する臨床試験である。
RELAY試験との違いが結果に影響した可能性
この結果を解釈するうえで重要なのは、 過去にエルロチニブ+ラムシルマブ併用療法の有効性を示したRELAY試験では、 脳転移を有する患者が除外されていた点である⁸⁾⁹⁾。
REVOL858R試験では約30%の患者が脳転移を有しており、 より実臨床に近い患者集団が対象となっていた。 この違いが、 今回の結果に影響した可能性がある。
VEGF依存性だけでは結果を説明できない
われわれは本試験の結果を解釈するため、 EGFR変異陽性NSCLCにおける血管内皮増殖因子 (VEGF) 関連遺伝子発現の解析結果を報告した¹⁰⁾。
RNA発現解析では、 L858R変異とエクソン19欠失の間で、 VEGF阻害薬の主要な標的であるVEGFA発現に明らかな差は認められなかった。 すなわち、 L858R変異であること自体がVEGF依存性を強く示すわけではない可能性が示唆される。
さらに、 EGFR-TKIの種類別に治療成績を評価すると興味深い結果が得られた。 第1世代または第2世代EGFR-TKIで治療された患者では、 VEGFA高発現はPFS不良と有意に関連していた。 一方、 オシメルチニブで治療された患者では、 VEGFA発現の高低によるPFSの明らかな差は認められなかった。
この結果は、 VEGF経路がEGFR-TKIの治療効果に与える影響は、 使用するEGFR-TKIの種類によって異なる可能性を示している。
血管新生阻害薬併用はバイオマーカー選択が鍵
これまで、 エルロチニブにベバシズマブまたはラムシルマブを併用する治療戦略は、 複数の第III相試験でPFS延長を示してきた。 しかし、 オシメルチニブ時代においては、 血管新生阻害薬の上乗せ効果は必ずしも明確ではない。
今回のREVOL858R試験の結果も、 オシメルチニブ単剤療法に対してエルロチニブ+ラムシルマブ併用療法が明確な優越性を示さなかったという点で、 現在の治療開発の方向性を再考させる結果である。
今後、 EGFR-TKIと血管新生阻害薬の併用療法をさらに発展させるためには、 単にEGFR変異サブタイプで患者を選択するだけでは不十分であり、 VEGF経路依存性やTP53共変異、 喫煙関連シグネチャーなどを含めた、 より精密な治療効果予測因子の同定が必要である。
特に、 オシメルチニブを含む第3世代EGFR-TKIが標準治療となった現在において、 血管新生阻害薬併用療法の位置付けは、 適切なバイオマーカーが同定されない限り、 今後さらに限定的になる可能性がある。
現時点で実臨床の治療選択は変わらない
本試験の結果は、 現時点の実臨床における治療選択を大きく変えるものではない。
EGFR変異陽性NSCLCの初回治療においては、 引き続きオシメルチニブ単剤療法、 FLAURA2¹¹⁾で示されたオシメルチニブ+化学療法、 MARIPOSA¹²⁾で示されたアミバンタマブ+ラゼルチニブなどの治療選択肢の中から、 患者背景や脳転移の有無、 併存疾患、 有害事象プロファイル、 治療目標を踏まえて個別に治療戦略を選択することが求められる。

脳転移を有する再発SCLCでもタルラタマブが良好な頭蓋内効果
2025年に報告されたDeLLphi-304試験の主要解析¹³⁾では、 プラチナ製剤治療後に再発した小細胞肺癌 (SCLC) に対し、 二重特異性T細胞誘導抗体であるタルラタマブが標準化学療法と比較してOSを有意に延長し、 新たな2次治療の標準治療として位置付けられた。
一方で、 タルラタマブについては、 どのような患者でより高い治療効果が期待できるのか、 また脳転移に対する有効性など、 実臨床で重要な課題が残されている。
ASCO 2026では、 ベースラインで脳転移を有する患者を対象としたpost hoc解析が報告された。 本解析では、 無症候性で安定した脳転移を有する患者において、 タルラタマブは標準化学療法と比較して中枢神経 (CNS) 病変の増悪あるいは死亡リスクを60%減少させ (HR 0.40)、 頭蓋内病変に対しても優れた抗腫瘍効果を示した。
さらに、 脳転移を有する患者におけるmOSは13.9ヵ月であり、 化学療法群の6.8ヵ月を大きく上回った (HR 0.51、 95%CI 0.34–0.74)。

頭蓋内病変に対する奏効も良好であり、 10mm以上の測定可能病変を有する患者では、 56%に30%以上の腫瘍縮小が認められた。 また、 頭蓋内病変の奏効期間および病勢コントロール期間も化学療法より長く、 タルラタマブが全身病変だけでなく脳転移に対しても持続的な抗腫瘍効果を有することが示された。
安全性についても、 脳転移を有する患者におけるGrade 3以上の治療関連有害事象は化学療法より少なく、 重篤な有害事象や治療中止率も低かった。 また、 神経学的有害事象や免疫エフェクター細胞関連神経毒性 (ICANS) の発現率は脳転移の有無によって大きく変わらず、 脳転移を有する患者でも概ね忍容性は良好であった。
脳転移患者にもタルラタマブの有効性を支持
今回の解析はpost hoc解析であり、 症例数も限られているため慎重な解釈は必要である。 しかし、 これまで脳転移を有する再発SCLC患者では化学療法以外の有効な選択肢が乏しかったことを考えると、 本解析の意義は極めて大きい。
未症候性あるいは安定した脳転移を有する患者に対しても、 タルラタマブを2次治療の第一選択として積極的に使用できることを裏付ける重要なエビデンスといえる。
今回のASCO 2026の結果は、 タルラタマブが再発SCLCにおける2次治療の標準治療であることを、 脳転移症例を含めてさらに強固に支持するものと考えられる。

【CROWN】未治療ALK陽性NSCLC、 ロルラチニブの7年PFS率55%で中央値未到達
【REVOL858R】L858R陽性未治療NSCLC、 エルロチニブ+ラムシルマブの有効性示せず

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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