パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
著者

寄稿ライター

5ヶ月前

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
某施設の抗菌薬の使い方があまりに酷く、 閉口しています。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」の第11回では、  「パターン認識にしないための抗菌薬適正使用」 について考察します。

ピペラシリン・タゾバクタムの乱用

特に気になるのがピペラシリン・タゾバクタム (ピプタゾ) の乱用です。

ピペラシリン・タゾバクタムは、 緑膿菌に活性を持つペニシリン系抗菌薬ピペラシリンにβ-ラクタマーゼ阻害薬のタゾバクタムを配合した広域抗菌薬。 グラム陽性菌、 緑膿菌を含むグラム陰性菌、 嫌気性菌にも活性があり、 「ハズレが少ない」 のが特徴です。

広域でハズレが少ない抗菌薬は、 薬剤耐性菌を選択しやすいという諸刃の剣な側面を持っています。 特に市中感染においてはピペラシリン・タゾバクタムが必要な患者はそう多くありません。

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

ところが、 件の施設では、 この抗菌薬があれやこれやの市中感染に使用され続けています。 ピプタゾが尿路感染に、 市中肺炎に、 蜂窩織炎に使われ、 骨髄炎や関節炎にも使われています。 まるで 「なんとかの一つ覚え」 です。

ほかに適切な抗菌薬があるのに…

尿路感染の最大の原因菌は大腸菌です。 あとはESBL産生菌が市中でどのくらいの頻度で発生しているかがポイントとなります。 細かい議論はここでは端折りますが、 大多数の症例ではセフトリアキソンやセフメタゾールが適切なエンピリカルな抗菌薬となり、 後に感受性を見てセファゾリンなどにDe-escalationできることも多いです。

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

市中肺炎であればセフトリアキソン単剤、 あるいはセフトリアキソンにアジスロマイシンやミノサイクリンを足す方法で大多数の症例をカバーできます。 蜂窩織炎や骨関節の感染症であれば多くはセファゾリンがファーストチョイスの抗菌薬となることでしょう。

思考プロセスが存在していない

医者がなぜその抗菌薬を目の前の患者に使うのか――。 その思考プロセスが見えないことが多いです。 見えないのはアタリマエで、 そもそも思考プロセス自体が存在していないのです。

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

発熱患者で感染症っぽかったら、 とりあえず培養検査をとってピプタゾ。 こういうパターン認識であり、 ハウツーなのです。

抗菌薬に限らず、 医療の多くはパターン認識にて 「ハウツー」 です。 我々は研修医の頃から 「こういうときはああやっとけ」 と上級医に教わり、 忠実に遂行することで評価されてきました。 ハウツー上等なのです。

知恵を絞って個性的な治療をすれば 「勝手なことをするな」 と逆に評価を下げてしまいかねません。 没個性的であることが優れた研修医の証なのです。

日本も米国も 「パターン認識」

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

だから、 僕は日本における研修医の評価システムを全く信用していません。 EPOCだのEPOC2だの、 全部 「上司の覚えが良いかランキング」 に過ぎないと思っています。

では、 海外なら良いかというと、 必ずしもそうでもありません。 僕がニューヨークで内科研修医をしていた時、 「T&T」 (ティーアンドティー) がERで流行っていました。 漫才コンビの名前などではなく、 タイメンティンとトブラマイシンのことです。

タイメンティンはticarcillin clavulanateという抗菌薬で、 要するにほとんど 「ピプタゾ」 と同じです。 当時は緑膿菌にアミノグリコシドを併用して 「ダブルカバー」 をするのが流行っていたため、 トブラマイシンを使うのです。 これでT&T。 まさにパターン認識であり、 「ハウツー」 です。

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

アメリカの医学教育は日本よりもはるかに優れているでしょう。 平均的な医師の臨床力でいうならば、 明らかにアメリカに軍配が上がります。 何を持って 「臨床力」 とするか、 にもよりますが。

しかし、 悲しいかな、 アメリカは医療訴訟大国です。 日本とは比べ物にならないくらい頻繁に、 人は訴え、 訴えられます。 「人と違う」 ことをやれば訴訟の言質を与えかねず、 「とりあえずT&T」 になりがちなのです。 ERは特に訴訟リスクが高いので*¹⁾。

幸い、 日本はアメリカに比べると極めて訴訟リスクが低い国です。 少し古いデータですが、 アメリカの医療過誤訴訟は日本の100倍も多いのです!*²⁾

神戸大病院は…

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

ところで、 神戸大学病院は 「大学病院であるにも関わらず」 極めて抗菌薬が適切に使用されている医療機関です。

WHOが提唱するAWaRe分類において、 厚労省はAccess抗菌薬の使用率が60%以上であることを抗菌薬適正使用の一つの目安にしています*³⁾。 日本の医療機関の平均はわずか23.23%。 全く目標に届いていませんが、 神大病院は60%を超えています。

特殊な疾患や治療が多い大学病院だってちゃんとやればこのくらいできるのです。 件の医療機関も医師の大半は大学病院からの派遣です。 医師の能力の差ではなく、 仕組みの差なのだと思います。

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用
写真はイメージです

逆に言うと、 日本の抗菌薬適正使用はまだまだ伸びしろがあり、 もっとちゃんとできるはずなのです。

まずは 「とりあえずピプタゾいっとけ」 を止めること。 改善のための第一歩はここだと思っています。 みなさんのお勤めになる施設はいかがですか?

監修・執筆医

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用

略歴

島根医科大 (現・島根大) 卒。 沖縄県立中部病院研修医、 セントルークス・ルーズベルト病院 内科研修医を経て、 ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローに。 北京インターナショナルSOSクリニックを経て、 2004年に亀田総合病院で感染症科部長、 同総合診療・感染症科部長歴任。 2008年より現職。
「タイムマネジメントが病院を変える」 など著書多数。 米国内科専門医、 感染症専門医、 感染管理認定CIC、 渡航医学認定CTHなどのほか、 漢方内科専門医、 ワインエキスパート・エクセレンスやファイナンシャル・プランナーの資格をもつ。

出典

*¹⁾ Ferguson B, Geralds J, Petrey J, Huecker M. Malpractice in Emergency Medicine—A Review of Risk and Mitigation Practices for the Emergency Medicine Provider. The Journal of Emergency Medicine 2018; 55:659–665.

*²⁾ Kitano M. What’s the Difference? Comparison of American and Japanese Medical Practice. The Keio Journal of Medicine 2007; 56:96–101.

*³⁾ 国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター : AWaRe分類は抗菌薬適正使用支援ツールの1つ 最新のAMR対策と診療報酬加算 (2024/10/30)

関連コンテンツ

  1. ムダな残業、会議が多すぎる件について
  2. 嬉々として残業する医師
  3. 「働き方改革」 は単なる労働時間カットではない
  4. 改革を拒む抵抗勢力たち
  5. 言えない組織は、弱い組織
  6. 働き方改革は、 医療の質を下げるのか?
  7. そろそろ地方会は廃止した方が良い
  8. 「定期接種」 「任意接種」 の区別はただの詭弁
  9. PubMedの未来
  10. 撤退戦のすゝめ

パターン認識にしないための抗菌薬適正使用

ポストのGif画像
パターン認識にしないための抗菌薬適正使用の全コンテンツは、医師会員限定でアプリからご利用いただけます*。
*一部のコンテンツは非医師会員もご利用いただけます
臨床支援アプリHOKUTOをダウンロードしてご覧ください。
今すぐ無料ダウンロード!
こちらの記事の監修医師
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
QRコードから
アプリを
ダウンロード!
パターン認識にしないための抗菌薬適正使用