寄稿ライター
3ヶ月前
「医師の働き方改革」 と 「医療の質」 がトレード・オフの関係にあると考える人は多いです。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」 の6回目では、 その点を掘り下げます。
この考え方は 「一人ひとりの医師の労働時間が短くなれば、 助けられる人の命が助けられなくなる」 「医療の質をダウングレードし、 働き方改革を必要悪として遂行する」 というものです。 実は、 僕も昔は同じ考えでした。
ある有名な病院長が 「医師は1年365日働いて当たり前、 病院にいないことに罪悪感を覚える」 とのコメントを残していました。 多くの医師が同じように感じているでしょう。
僕も沖縄の病院で研修医をしていた時、 本当に週7日、 月月火水木金金で勤務をしていました。 年に1回、 2週間のバケーションをもらえるのですが、 これが楽しみで、 楽しみで。 まるで落語の 「藪入り」 ですね (笑)。
バケーションでは友人の住むミャンマーに行きました。 ミャンマー、 楽しかったな……。 そのとき気がつきました。 美しい国の人々の親切に触れて、 普段、 殺伐とした救急病院で自分がいかにギスギスと生きていたのかを。
自分に厳しい人は、 他人にも厳しいです。 「自分がこんなに頑張っているんだから、 周りもやって当然」 という態度になり、 患者さんにも厳しくなります。
深夜の救急外来に泥酔した患者さんが来院すると、 「この忙しい時にこの酔っぱらいが」 とつい思ってしまう。 それが態度に出てしまうのです。
忙しそうで、 イライラして、 ギスギスしている人には相談できません。 患者さんはもちろん、 コメディカルも相談できません。 こうして、 改善や提案の機会は失われていきます。
もちろん、 円滑なコミュニケーションも取れません。 コミュニケーションなくしてチーム医療はあり得ず、 つまりは 「医療の質」 が保てないのです。
医師1年目でそれに気づいた僕は、 「日本の医師の常識」 を根底から疑うことにしました。 1997年のことです。
翌年に渡米すると、 アメリカは医療の質改革が行われている真っ最中でした。 過剰な労働で疲弊した研修医が、 医療ミスで患者を死に至らしめたのです。 「医療の質担保のためには研修医の労働時間を制限せねばならない」 と分かったのです。
そう、 日本の働き方改革は、 アメリカからは20年以上遅れているのです。 しかも、 「働き方改革は医療の質を下げる」 と多くの人が勘違いをしています。
もちろん 「改革」 には色々な工夫は必要です。 これまでと同じやり方で労働時間だけ短くすれば、 医療の円滑な提供はできなくなるでしょう。 例えばチームの構成員が2人しかいない状態で、 夜間の新患を受け入れ続けながら 「働き方改革」 は当然できない相談です。
でも、 よく考えたらピッチャーが2人だけのプロ野球チームが強いわけがない。 2人で回している時点で 「質」 はもう毀損しているわけです。
ですから、 発想としては 「どうやってピッチャーのローテートをリーズナブルに行うか」 です。 当然、 無理して怪我をさせたらチーム力は落ちます。 怪我をさせないことも大事な 「質」 の担保です。 医療に置き換えるならば…もうお分かりですね。
詳しくは僕の著書 「一秒もムダに生きない」 (光文社新書) 、「悪魔の味方 米国医療の現場から」 (克誠社) を参考にしてみてください。
島根医科大 (現・島根大) 卒。 沖縄県立中部病院研修医、 セントルークス・ルーズベルト病院 内科研修医を経て、 ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローに。 北京インターナショナルSOSクリニックを経て、 2004年に亀田総合病院で感染症科部長、 同総合診療・感染症科部長歴任。 2008年より現職。
「タイムマネジメントが病院を変える」 など著書多数。 米国内科専門医、 感染症専門医、 感染管理認定CIC、 渡航医学認定CTHなどのほか、 漢方内科専門医、 ワインエキスパート・エクセレンスやファイナンシャル・プランナーの資格をもつ。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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