寄稿ライター
4日前

外国人患者の診療についてマイナス面が取り上げられることが多くなり、 私には違和感があります。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」の第12回では、 その点について考察します。
私は研修医時代を、 「人種のサラダボウル」 と呼ばれる米ニューヨークで過ごしました。 その後は中国・北京のインターナショナルクリニックで家庭医として勤務し、 在中外国人 (日本人を含む) の診療に携わってきました。
人種も言語も文化も異なる患者を診る経験は、 何より楽しいです。 視野が広がり、 医学的知識も深まります。 医師として確実に成長できます。

そのため、 医学生や研修医から 「海外で挑戦することに意味はありますか」 と問われれば、 私は迷わず 「イエス」 と答えます。 たとえ日本より医療資源が限られた国であっても、 「外に出る」 ことで得られる学びは大きいと感じています。
ニューヨークで内科の研修医になった際、 鎌形赤血球症の 「クライシス」 を初めて診ました。 X染色体を介する男性に多い疾患で、 黒人に多いのが特徴です。
教科書的な知識はありましたが、 どんな臨床像でどうやって治療するのかは全く知りませんでした。

コカインなど違法薬物の過量摂取で入院する患者もたくさん診ました。 日本ではまったく経験したことのない患者でした。 コカインでハイテンションになった患者に 「うるせー、 あっち行け!」 と怒鳴りつけられたときは途方に暮れたものです。
米国では英語を理解しない患者も多かったです。 スペイン語しか喋らない患者も多く、 私は懸命にスペイン語を勉強しました。 後に、 ペルーで熱帯医学の研修を受けた際、 スペイン語はとても役に立ちました。
診療以外の文化や宗教の学びも多かったです。 ユダヤ人、 イスラム教徒が食べて良いもの、 いけないもの。 そんな知識は全く持っていませんでした。

一口に 「イスラム教徒」 といっても、 その程度は様々で一般化は難しいものです。 ある中東の御婦人が受診してきた際、 夫が 「妻の体に手を触れてはならない」 と私に厳命しました。 「身体診察ゼロ」 で診療したのは初めてのことでした。
多くのイスラム教徒はそこまで厳格ではありませんが、 やはり女性は顔を見せてはくれません。 日本では、 「化粧をしていたら、 顔色が分からない。 外来では化粧はしないで」 と指示する医者は多いですが、 化粧どころの話ではないのです (笑)。
最近、 SNSで 「外国人患者を診るのは嫌だ。 診療に時間がかかって仕方がない。 迷惑だ」 などと投稿している医者を複数人見ました。 とても残念に思いました。

外国で病気になるのは心細いものです。 文化や言葉、 システムの違いにおののきながらも、 それでも体調が悪く医療者に助けてもらいたい――。 そう願って受診した当の主治医が 「お前なんて診たくない、 嫌いだ」 という態度だったらどうでしょう。
そもそも、 医療現場には 「喋ることができない」 患者さんなんてざらにいます。 外国人はそのバリエーションの一つに過ぎません。 そうした発語や聞き取りのできない患者さんでも工夫してコミュニケーションを取るのが医療者のあるべき姿でしょう。 貶めたり、 嫌ったりするなんてもっての外です。
私は先日、 日本がWHOから 「風疹排除」 の認定を受けたことを祝う会に出席しました。 会場には、 先天性風疹症候群 (CRS) をもつ当事者の方々が多く参加されていました。
CRSでは難聴を伴うことが多く、 発語が困難な場合もあります。 私も数名の方と、 手話通訳を介してお話ししました。

医学と公衆衛生は、 予防可能な不利益を着実に減らしてきました。 風疹には有効なワクチンがあり、 適切な接種体制と対策を継続すれば、 国家レベルでの排除は実現できます。 新たにCRSの子どもが生まれない社会をつくることは可能です。
それでも、 社会から不利な条件や不利益が完全になくなることはありません。 どれほど医学が進歩しても、 何らかの障害や制約を抱えて生きる人は存在し続けます。
予防と排除を目指すことと、 今を生きる当事者に向き合うことは、 別の責任です。 もし後者への温かいまなざしを失えば、 その時こそ日本医療の終焉の時だと思うのです。

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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