寄稿ライター
1年前
医師の働き方改革が2024年4月に始まりますが、 長時間労働が当たり前のようになってしまっている医師は多いでしょう。 連載 「Dr. 岩田による医師のためのタイムマネジメント」 の2回目では、 その背景などを掘り下げます。
日本は労働時間がやたら長い (フルタイムの労働者に限る) ですが、 その中には「待ち時間」など生産性が低い、 あるいはない時間があるのです。
医局の前の廊下にたくさんの製薬企業の関係者が立っているのを見たことがないでしょうか。 MRと呼ばれる営業職の方が多いのですが、 彼らは医師との面会をひたすら廊下で待っているのです。 僕はあれを見るのが大嫌いです。
MRさんは大企業に就職したインテリで、 多くは薬剤師などの資格も持っています。 そういう有能な人物が自分の時間を無駄に費やして廊下でただ立っているのです。 真夏はクーラーも効かず、 西日のきつい場所でもネクタイを締め、 スーツを着て待っているわけです。
MRさんにしんどい仕事をさせているのに、 平気でいる医師の無神経さにも腹が立っています。 医師の中にはMRさんを下に見て、 平気でタメ口をきいたり、 長時間待たせて謝罪一つしなかったりする人もいます。
僕は案外、 こういう礼儀作法にはうるさく、 部下にはきちんと敬語を使うよう指導しています。 自分より若い方に対しても敬語が基本です。
さて、 ご存知の通り医師の労働時間もとても長いですが、 大いに疑問です。 僕は赴任した海外の医療機関では、 夕方には大半の医師が仕事を終えて帰路につくからです。
もちろん当直の医師は夜を徹して仕事をするのですが、 なぜ日本の医師だけ夜遅くまで働いているのか、 ずっと疑問でした。
その理由はたくさんあるので、 詳細は拙著「タイムマネジメントが病院を変える」 (中外医学社) をお読みいただきたいですが、 特に問題なのは「日本の医師は残業を当たり前だと思っている」ことです。 悪質なものでは、 わざとダラダラと夜遅くまで残業する確信犯的な“残業代泥棒”すらいます。
日本では終身雇用の企業が多いですが、 医師は同じ病院で勤め上げる人は少なく、 たいていは医局人事であちこちの医療機関を渡り歩きます。 無駄な残業代は組織にとっては損失なのですが、 医師にとっては「そんなの関係ねえ」。 最悪の場合、 その病院が潰れても医師は困らないのです。 資格を持っており、 職探しには困らない。
この「甘えの構造」のために、 “残業代泥棒”をしても痛くも痒くもないわけです。 普通なら病院長なり理事長なりが適切な指導をして労働態度を改めさせるべきですが、 医局人事のために「実質的な」雇用のステークホルダーは大学の教授なのです。 その教授の機嫌を損ねたら医師が引き揚げられ、 診療そのものがストップしかねません。
医局制度にもメリットはありますが、 全体的には時代遅れなシステムであり、 うちの医局はこの手の派遣システムを全廃しています。 いわゆる民間医局にも普及しつつあるので、 今後は昭和な大学人事は消滅することでしょう (するべきです)。
島根医科大 (現・島根大) 卒。 沖縄県立中部病院研修医、 セントルークス・ルーズベルト病院 内科研修医を経て、 ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローに。 北京インターナショナルSOSクリニックを経て、 2004年に亀田総合病院で感染症科部長、 同総合診療・感染症科部長歴任。 2008年より現職。
「タイムマネジメントが病院を変える」 など著書多数。 米国内科専門医、 感染症専門医、 感染管理認定CIC、 渡航医学認定CTHなどのほか、 漢方内科専門医、 ワインエキスパート・エクセレンスやファイナンシャル・プランナーの資格をもつ。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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