亀田総合病院
30日前
亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー科の専門医が、 リウマチ・膠原病診療に関わるさまざまな疑問とそのTipsについて、 分かりやすく解説します (第7回解説医師 : 小田修宏先生)。
昨今、 IgG4関連疾患 (IgG4 related disease; IgG4RD) の疾患概念の普及に伴い、 血清IgG4を測定する機会が増えています。 しかし 「IgG4上昇=IgG4RDの確定診断」 ではないため、 解釈に戸惑う場面も少なくありません。 本稿ではIgG4が上昇していた時の考え方を解説します。
IgG4はIgG1~IgG4のサブクラスの1つで、 健常人の中ではもっとも血中濃度が少ないIgGサブクラスと言われています。
IgGサブクラスはIgG4RDの発見まであまり注目されておらず、 いまだに解明されていないところも多いものの、 IL-4/IL-13などのTh2型免疫反応によって産生が促進されるため、 アレルギーと関連があると考えられています。 またIgG4自体の補体活性化能は低く、 IgG4RDにおいてもその病原性に関しては議論が続けられています。
IgG4が上昇していた場合、 IgG4RDを考えたくなりますが、 IgG4RDでは基本的に 「なんらかの臓器に」、 「(多くの場合) 複数で」、 「形質細胞浸潤あるいは線維化病変を形成する」 ため、 まずはIgG4RDとしての臓器病変がないかどうかを評価する必要があります。
2019年に発表された米国リウマチ学会 (ACR) /欧州リウマチ学会 (EULAR) のIgG4RD分類基準¹⁾では、 膵臓、 胆管、 眼窩、 涙腺、 唾液腺、 後腹膜、 腎臓、 肺、 大動脈、 硬膜、 甲状腺のうち1つ以上の臓器に病変を有することが登録基準 (entry criteria) となっています。
また、 実臨床でも造影CTなどを用いて、 前出の臓器においてIgG4RDに特徴的な像がないか、 下記の包含基準 (inclusion criteria) を中心に確認します。
ただし、 IgG4RD診断のカットオフ値として用いられる≧135mg/dLは、 過去に行われたシステマティックレビュー/メタ解析の結果では感度87.2%・特異度82.6%と、 特異度は不十分であることが示されています²⁾。
正常上限値の2倍のカットオフ値 (270-280mg/dL) では特異度は94.8%まで上昇しますが、 感度は63%まで低下するため、 IgG4の値のみで診断することは困難です。 実際にIgG4が正常上限値の5倍以上と著明に上昇していた患者層においても、 IgG4のIgG4RDに対する陽性的中率は75%であり、 25%は他疾患と診断されているため注意が必要です³⁾。
以上より、 IgG4RDの診断においては、 IgG4RDに典型的な臓器病変の確認、 および可能な限り生検を用いて確定診断をつけることが重要です。
2019ACR/EULAR分類基準を用いたIgG4RD診断では、 除外基準 (exclusion criteria) として以下のような疾患を除外することが求められています。 これらは、 IgG4陽性形質細胞浸潤やIgG4上昇をきたしうる、 注意すべき疾患です。
特にANCA関連血管炎(AAV)はIgG4RDと共通した部位(後腹膜・腎臓・肺・硬膜など)に病変をきたしやすく、 AAVを疑った場合にはIgG4RDを、 IgG4RDを疑った際にはAAVを考えることが重要です。
好酸球性肉芽腫性血管炎 (EGPA) はIgG4が上昇し、 ANCAが陰性の場合もあり、 特にIgG4RDとの区別が難しいことがあります。 またIgG4RDは補体が低下する場合もあり、 全身性エリテマトーデス (SLE) やシェーグレン症候群との鑑別も重要です。
これらの疾患以外で特に鑑別が難しいのは多中心性キャッスルマン病です。 一般的にIgG4RDはCRP上昇が乏しいとされており、 そこで鑑別は可能であるものの、 実臨床ではCRP上昇を伴うようなIgG4RDも散見されます。 そのため、 治療の反応性をみながら診断を深めていくこともあります。 ほかにはエルドハイム・チェスター病やロサイ・ドルフマン病などの組織球症も覚えておくと良いでしょう。
また多発性骨髄腫やリンパ腫をはじめとした悪性腫瘍、 アレルギー、 アトピー、 喘息でもIgG4の上昇がみられることもあります。
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¹⁾ Arthritis Rheumatol. 2020 Jan;72(1):7-19
²⁾ Medicine (Baltimore). 2016 May;95(21):e3785.
³⁾ J Rheumatol. 2023 Mar;50(3):408-412.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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