免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能異常 (以下甲状腺irAE) は、 抗PD-1、抗PD-L1抗体で頻度が高く、 抗CTLA-4抗体単独では稀。 臨床試験メタアナリシスの報告は以下の通り¹⁾。
・甲状腺機能亢進症:2.9%
・甲状腺機能低下症:6.6%
実臨床においては11.9~13.5%などとさらに高頻度に見られることが報告されている²⁻⁴⁾。
亢進症→低下症 (しばしば永続)
他の甲状腺機能異常症とは異なる特徴的経過をたどることが知られており、 甲状腺機能亢進症の後に甲状腺機能低下症を続発し、 機能低下症はしばしば永続的となる⁵⁾。 ただし、 甲状腺機能亢進症を経ず機能低下症に至る例も見られる。
抗PD-1または抗PD-L1抗体の単剤療法の場合²⁾
・甲状腺機能亢進症:ICI開始後 2~6週
・甲状腺機能低下症:ICI開始後 12週以降
ただし、 近年普及しているICIと化学療法の併用では、 遅発性に発症する例が報告されている⁶⁾。
<甲状腺機能亢進症>
甲状腺irAEに見られる亢進症は、 バセドウ病と異なり、 自然軽快し症状に乏しいのが一般的。
・特異的:心悸亢進症状(動悸、息切れ)や心房細動
・非特異的:倦怠感、 嘔気、 腹痛など
前者にはβ遮断薬による対症療法を行いつつ、 十分な安静を確保することも重要。
<甲状腺機能低下症>
甲状腺機能低下症に対してはレボチロキシンNaを処方するが、 甲状腺機能低下症に至った場合には永続性となり、 治癒しないことが一般的であるため、 処方は積極的に開始した方が良い⁵⁾。
また急速に機能低下が進行することが多く、
💊レボチロキシンNa 50µg/日
から開始して、 変化が遅れるTSHを指標とするよりも、 速やかに変化するFT4が正常範囲になるように調整した方がうまくいきやすい。
✅TSH ✅FT4 (✅FT3)
異常があれば投与前に内分泌専門医に確認。
✅FDG-PETでの甲状腺への集積²⁾
✅抗TPO抗体 ✅抗Tg抗体⁷⁾
上記の抗体陽性の場合、 発症確率50%程度となるため要注意。 ただし投与禁忌ではない。
💬抗PD-1または抗PD-L1抗体を用いる場合、 甲状腺irAEが約8人に1人の割合で発症する。
💬発症した場合、 半数以上がレボチロキシンNa内服が生涯必要となる甲状腺機能低下症に至るが、 内服を継続すれば日常生活に差し支えず、 治療継続も可能である。
✅TSH ✅FT4 (✅FT3)
レジメンに応じ、4~6週毎にチェック
<甲状腺機能亢進症>
FT4↑(正常上限以上)、 TSH↓(正常下限以下)
好発時期のICI開始後2~6週に発症した場合、 甲状腺irAEである可能性が非常に高い。バセドウ病を除外するためTSHレセプター抗体 (TRAb) を測定し、 陰性であることを確認しておく。
TRAb陽性であった場合
鑑別診断および治療が難しいため、 内分泌代謝科専門医へ紹介した方が良い。
発症リスクである抗TPO抗体、 抗Tg抗体
陽性例も陰性例もあり、 鑑別には有用でない。
<甲状腺機能低下症>
FT4↓(正常下限以下)、 TSH↑(正常上限以上)
一般的には甲状腺機能亢進症の後に続くが、 亢進症を経ず機能低下症に至る例も見られる。
甲状腺超音波検査にて内部が強く低エコーであれば、 甲状腺irAEとして典型的。
また、 甲状腺irAE発症時にもFDG-PETで甲状腺に集積を認める。
レボチロキシンNaを通常量で開始
PS低下があり、 ハイリスクの場合
レボチロキシンNa 25µg/日など少量で開始
甲状腺irAE発症は予後良好の予測因子である (ただし確定しているのは非小細胞肺癌のみ)²⁾。
甲状腺irAEを発症すると、 下垂体irAEを始めとした他臓器のirAEも高頻度に合併するため、 慎重なフォローが必要である。
最終更新:2023年2月15日
監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能異常 (以下甲状腺irAE) は、 抗PD-1、抗PD-L1抗体で頻度が高く、 抗CTLA-4抗体単独では稀。 臨床試験メタアナリシスの報告は以下の通り¹⁾。
・甲状腺機能亢進症:2.9%
・甲状腺機能低下症:6.6%
実臨床においては11.9~13.5%などとさらに高頻度に見られることが報告されている²⁻⁴⁾。
亢進症→低下症 (しばしば永続)
他の甲状腺機能異常症とは異なる特徴的経過をたどることが知られており、 甲状腺機能亢進症の後に甲状腺機能低下症を続発し、 機能低下症はしばしば永続的となる⁵⁾。 ただし、 甲状腺機能亢進症を経ず機能低下症に至る例も見られる。
抗PD-1または抗PD-L1抗体の単剤療法の場合²⁾
・甲状腺機能亢進症:ICI開始後 2~6週
・甲状腺機能低下症:ICI開始後 12週以降
ただし、 近年普及しているICIと化学療法の併用では、 遅発性に発症する例が報告されている⁶⁾。
<甲状腺機能亢進症>
甲状腺irAEに見られる亢進症は、 バセドウ病と異なり、 自然軽快し症状に乏しいのが一般的。
・特異的:心悸亢進症状(動悸、息切れ)や心房細動
・非特異的:倦怠感、 嘔気、 腹痛など
前者にはβ遮断薬による対症療法を行いつつ、 十分な安静を確保することも重要。
<甲状腺機能低下症>
甲状腺機能低下症に対してはレボチロキシンNaを処方するが、 甲状腺機能低下症に至った場合には永続性となり、 治癒しないことが一般的であるため、 処方は積極的に開始した方が良い⁵⁾。
また急速に機能低下が進行することが多く、
💊レボチロキシンNa 50µg/日
から開始して、 変化が遅れるTSHを指標とするよりも、 速やかに変化するFT4が正常範囲になるように調整した方がうまくいきやすい。
✅TSH ✅FT4 (✅FT3)
異常があれば投与前に内分泌専門医に確認。
✅FDG-PETでの甲状腺への集積²⁾
✅抗TPO抗体 ✅抗Tg抗体⁷⁾
上記の抗体陽性の場合、 発症確率50%程度となるため要注意。 ただし投与禁忌ではない。
💬抗PD-1または抗PD-L1抗体を用いる場合、 甲状腺irAEが約8人に1人の割合で発症する。
💬発症した場合、 半数以上がレボチロキシンNa内服が生涯必要となる甲状腺機能低下症に至るが、 内服を継続すれば日常生活に差し支えず、 治療継続も可能である。
✅TSH ✅FT4 (✅FT3)
レジメンに応じ、4~6週毎にチェック
<甲状腺機能亢進症>
FT4↑(正常上限以上)、 TSH↓(正常下限以下)
好発時期のICI開始後2~6週に発症した場合、 甲状腺irAEである可能性が非常に高い。バセドウ病を除外するためTSHレセプター抗体 (TRAb) を測定し、 陰性であることを確認しておく。
TRAb陽性であった場合
鑑別診断および治療が難しいため、 内分泌代謝科専門医へ紹介した方が良い。
発症リスクである抗TPO抗体、 抗Tg抗体
陽性例も陰性例もあり、 鑑別には有用でない。
<甲状腺機能低下症>
FT4↓(正常下限以下)、 TSH↑(正常上限以上)
一般的には甲状腺機能亢進症の後に続くが、 亢進症を経ず機能低下症に至る例も見られる。
甲状腺超音波検査にて内部が強く低エコーであれば、 甲状腺irAEとして典型的。
また、 甲状腺irAE発症時にもFDG-PETで甲状腺に集積を認める。
レボチロキシンNaを通常量で開始
PS低下があり、 ハイリスクの場合
レボチロキシンNa 25µg/日など少量で開始
甲状腺irAE発症は予後良好の予測因子である (ただし確定しているのは非小細胞肺癌のみ)²⁾。
甲状腺irAEを発症すると、 下垂体irAEを始めとした他臓器のirAEも高頻度に合併するため、 慎重なフォローが必要である。
最終更新:2023年2月15日
監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 助教 山内一郎先生
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
がん薬物療法における治療計画をまとめたものです。
主要論文や適正使用ガイドをもとにした用量調整プロトコール、 有害事象対応をご紹介します。
なお、 本ツールは医師向けの教育用資料であり、 実臨床での使用は想定しておりません。 最新の添付文書やガイドラインを必ずご確認下さい。
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