本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
薬剤情報
*適正使用ガイドは「ノバルティスファーマ株式会社」 の外部サイトへ遷移します.
主な有害事象
ELARA試験 (E2202試験)¹⁾より引用
骨髄抑制
- 好中球減少症 (33.0%、 ≧Grade3 32.0%)
- 貧血 (24.7%、 ≧Grade3 13.4%)
- 血小板減少症 (16.5%、 ≧Grade3 9.3%)
- 白血球数減少 (17.5%、 ≧Grade3 12.4%)
- リンパ球減少症 (4.1%、 ≧Grade3 4.1%)
- 発熱性好中球減少症 (10.3%、 ≧Grade3 10.3%)
主な有害事象
- サイトカイン放出症候群 (48.5%、 ≧Grade3 0.0%)
- 神経系事象 (37.1%、 ≧Grade3 3.1%)
- 感染症 (18.6%、 ≧Grade3 5.2%)
- 下痢 (17.5%、 ≧Grade3 1.0%)
- 便秘 (13.4%、 ≧Grade3 0.0%)
- 悪心 (12.4%、 ≧Grade3 2.1%)
- 嘔吐(7.2%、 ≧Grade3 0.0%)
特徴と注意点
作用機序
- レンチウイルスベクターを用いて抗CD19キメラ抗原受容体 (Chimeric Antigen Receptor;CAR) をコードする遺伝子を患者自身のT細胞に導入したCAR発現生T細胞を構成細胞とする細胞加工製品である.
- CD19を発現したがん細胞をCAR発現生T細胞が認識すると、 主要組織適合遺伝子複合体とは非依存的に導入T細胞の増殖、 活性化、 標的細胞に対する攻撃、 導入T細胞を持続させるシグナルが伝達され、 CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 、 濾胞性リンパ腫 (FL) に対し抗腫瘍効果を示すと考えられている.
適応疾患
- 再発又は難治性のFL
- 再発又は難治性のCD19陽性のB-ALL
- 再発又は難治性のDLBCL
適格基準【FL】
- 再発又は難治性のFL
- 以下1. 2. のいずれかの場合であって、 CD19抗原を標的としたCAR-T療法の治療歴がない患者
- 初発の患者で全身治療を2回以上施行し、奏効が得られなかった又は再発再発した場合
- 再発の患者は再発後に全身療法を1回以上施行し、 奏効が得られなかったまたは奏効が得られたが再発した場合
白血球アフェレーシス
- 十分量のTリンパ球を含む非動員末梢血単核球を採取し、 白血球アフェレーシス産物を凍結保存する.
*「ノバルティス白血球アフェレーシス参照マニュアル」 を参照.
リンパ球除去化学療法前の抗腫瘍療法 (ブリッジング療法)
- Tisa-celの製造を待っている期間に患者の病態を安定させるため、 腫瘍量等に応じて抗腫瘍療法 (ブリッジング療法) を実施する.
《ELARA試験 (E2202試験)¹⁾におけるブリッジング療法》
- 45.4%がブリッジング療法を実施
- 副腎皮質ステロイド単剤、 放射線療法、 リツキシマブ等
リンパ球除去化学療法【FL】
- Tisa-cel投与前にリンパ球数を減少させることで、 投与されたCAR発現生T細胞の生着と恒常性の維持に基づく生体内の増殖を促進させる.
- Tisa-cel投与の2日前までに完了する. ただし、 Tisa-cel投与予定日前の1週間以内の末梢血白血球数が1,000/mm³未満等、 患者の状態により省略可能.
- FLに用いるリンパ球除去化学療法:シクロホスファミド 250mg/m²+フルダラビン 25mg/m²を3日間.
- シクロホスファミドによるGrade 4の出血性膀胱炎の既往がある、 又はシクロホスファミドに抵抗性を示す場合のリンパ球除去化学療法:ベンダムスチン 90mg/m²を2日間.
投与時の注意事項
- B型肝炎又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者は、 肝炎ウイルスが再活性化される可能性がある.
- HIV感染者はウイルスが増加する可能性がある.
- Tisa-cel受領時及び投与前に、 静注用バッグに貼付されたラベルの記載が患者本人の情報と一致していることを確認する.
- Infusion reaction軽減のため、 Tisa-cel投与の約30~60分前に抗ヒスタミン薬と解熱鎮痛薬を投与する.
- 生命を脅かす緊急事態を除き、 副腎皮質ステロイド薬は使用しない.
- サイトカイン放出症候群 (CRS) の緊急時に備え、 トシリズマブを2回投与分以上準備する.
- 静注用バッグは解凍終了後30分以内に静脈内投与を完了する.
- 白血球除去フィルターは使用せず、 ラテックスフリーの点滴ルートを用いる.
- 注入速度は約10~20mL/minとし、 投与前後に生理食塩水にてプライミングを実施する.
- ジメチルスルホキシド (DMSO) 及びデキストランを含有しており、 アナフィラキシー等の過敏症反応を誘発する可能性がある.
- HIV-1を基に開発されたレンチウイルスベクターを使用しているためHIV核酸増幅検査で偽陽性になることがある.
- 移植のために血液、 臓器、 組織及び細胞を提供しないよう指導する.
副作用と対策【サイトカイン放出症候群;CRS】
- 活性化されたT細胞により放出されるサイトカインによって引き起こされる全身性炎症反応.
- 体内でのCAR発現生T細胞の増殖、 活性化及び腫瘍細胞の死滅の結果発現する.
- Tisa-cel投与後1週間は患者の状態に注意し、少なくとも4週間は観察を継続する.
- 症状:高熱、 悪寒、 筋肉痛、 関節痛、 悪心、 嘔吐、 下痢、 発汗、 発疹、 食欲不振、 疲労、 頭痛、 低血圧、 呼吸困難、 呼吸不全、 肺水腫、 頻呼吸、 低酸素症、 凝固障害、 心不全、 不整脈、 腎不全、 肝障害、 播種性血管内凝固症候群、 毛細血管漏出症候群、 血球貪食症候群、 マクロファージ活性化症候群、 急性呼吸窮迫症候群等.
- FL患者のCRSリスク因子:不明.
- CRS発現時期中央値 (範囲):4.0 (1-14) 日 (ELARA試験 (E2202試験)).
- CRS持続期間中央値 (範囲):4.0 (1-24) 日 (ELARA試験 (E2202試験)).
《キムリア®点滴静注サイトカイン放出症候群管理アルゴリズム》
《ELARA試験 (E2202試験)におけるCRS治療》
- トシリズマブ投与:34.0% (1回投与:17.0%、 2回投与:10.0%).
- 副腎皮質ステロイド:6.4%.
- 酸素吸入:19.1%.
- ICU入室:6.4%.
副作用と対策【神経系事象】
- 発現メカニズムは不明. 多くは一過性であり、 ほとんどが支持療法もしくは治療を要せず症状が消失.
- Tisa-cel投与後少なくとも8週間は自動車の運転及び危険を伴う行動に従事しないよう指導する.
- 症状:脳症、 せん妄、 不安、 浮動性めまい、 振戦、 意識障害、 失見当識、 頭痛、 錯乱、 激越、 痙攣発作、 無言症、 失語症等.
- 神経系事象発現時期中央値 (範囲):9日 (ELARA試験 (E2202試験)).
- 神経系事象持続期間中央値 (範囲):2日 (ELARA試験 (E2202試験)).
副作用と対策【感染症】
- 低γグロブリン血症又は無γグロブリン血症や重篤な遷延する血球減少に伴い、 細菌、 真菌、 ウイルス等による重度の感染症や発熱性好中球減少症が現れることがある.
- 患者の易感染状態に応じた標準的な感染予防療法を実施する.
副作用と対策【低γグロブリン血症】
- 正常なB細胞にもCD19が発現しているため、 一時的又は持続的にB細胞の枯渇が引き起こされ、 低γグロブリン血症を発症することがある.
- CAR発現生T細胞が患者の体内で持続する限り、 低γグロブリン血症が持続する可能性がある.
- 定期的に免疫グロブリンを測定し、 必要に応じて免疫補充療法を実施する.
副作用と対策【血球減少・造血器疾患】
- Tisa-cel投与後28日目までに回復しないGrade 3以上の好中球減少症、 白血球減少症、 リンパ球減少症、 血小板減少症及び貧血が現れることがある.
- 再生不良性貧血、 骨髄機能不全等を発症する可能性がある.
- 血球減少には血液製剤、 骨髄増殖因子 (G-CSF等) 、 抗菌薬等の投与を実施する.
- G-CSF製剤はCRSを悪化させる可能性があるため、 Tisa-cel投与後3週間以上経過、 又はCRSが発現している場合はCRSが回復するまでG-CSF製剤の投与は推奨されない.
関連する臨床試験の結果
概要
- 単群、 国際共同第II相試験.
- 再発又は難治性のFL患者を対象にTisa-celの有効性および安全性を評価.
- 対象:18歳以上かつグレード1、 2、 3Aで以下の①~③のいずれかに該当するFL患者.なお、活動性の中枢神経浸潤のある患者は除外.
① 二次治療以降の全身療法 (抗CD20抗体及びアルキル化剤を含む) に対して難治性又は二次治療以降の全身療法終了後6ヵ月以内に再発
② 抗CD20抗体による維持療法 (上記、 2ライン以上の治療終了後) の実施中又は終了後6ヵ月以内に再発
③ 自家HSCT後に再発
- 投与量:CAR発現生T細胞として0.6×10⁸~6.0×10⁸個 (体重問わず).
結果
- 追跡期間中央値:9.9ヵ月.
- 完全奏効率:69.1% (95%CI 58.5-78.3).
- 全奏効率 (CR+PR):86.2% (95%CI 77.5-92.4).
- 奏効維持率 (9ヵ月):76.0%.
- 奏効持続期中央値:未到達.
- 無増悪生存率 (9ヵ月):67.0%.
- 全生存率 (12ヵ月):95.3%.
参考文献
- Nat Med. 2022 Feb;28(2):325-332.
最終更新:2023年5月13日
監修医師:HOKUTO編集部医師