概要
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 (監修医師:公益財団法人がん研究会 有明病院先端医療開発科 宮脇英里子先生/北野滋久先生)

1.ステロイド不応性irAEとは

中等症~重症のirAEは、 ときに致命的な転帰をたどることも報告されており早期発見と適切な管理が必要である。 Grade3以上の一部症例はステロイド不応性となる。

Gradeとステロイド投与

  • Grade 2のirAE:症例ごとに検討
  • Grade 3以上:基本的に全身性ステロイド投与を行われ、 概ね80%以上の症例は改善するが、 一部はステロイド不応性となる。

2.ステロイド不応性irAEの治療

基本的にはステロイド開始から48-72時間以内にGrade 1以下へ症状の改善を認めない場合、「ステロイド不応」と判断し速やかにインフリキシマブ他、 免疫抑制剤の追加投与を検討する。

 

ただし、 irAEに対する免疫抑制剤の使用報告は限定的であり、 現時点で臨床的な意義は確立されていないため、 各irAEに対する各免疫抑制剤の使用にあたっては各種ガイドライン¹⁾⁻³⁾や各薬剤の添付文書を参考にしながら適応を慎重に検討する必要がある。

皮膚障害の場合

重度皮膚有害反応 (下記参照) においてはステロイド不応性の場合にはIVIGやシクロスポリンの投与を考慮する。

  • sever cutaneous adverse drug reactions (SCAR)
  • スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症 (SJS/TEN)
  • 急性汎発性膿疱性発疹症 (AGEP)
  • 薬剤性過敏症症候群 (DIHS/DRESS)

肝障害の場合

ステロイド不応性の肝障害に対しては、 ミコフェノール酸モフェチル(MMF)が有効であったことが報告されている⁴⁾。 インフリキシマブは肝毒性があるため使用は原則的に不可である。

下痢/大腸炎の場合

内視鏡所見で中等症~重症と判断されれば、 より早期(ステロイド投与と同時)から免疫抑制剤の使用を検討する場合もある⁵⁾。 インフリキシマブまたはベドリズマブの有効例が報告されている⁶⁾⁻⁸⁾。 両薬剤の特性を考慮し使い分ける。

インフリキシマブ日和見感染症のリスクあり。 NYHA3度以上の心不全には使用不可である。

高齢者、 irAE心筋炎合併などには使用しにくい。
大腸炎以外のirAEを合併している症例は適応となりうる ※日和見感染のモニタリング必須

ベドリズマブ日和見感染症のリスクはない。 消化器への有効性に特化している(作用機序より)

irAE大腸炎だけの症例はよい適応

肺臓炎の場合

ステロイド不応性の肺臓炎に対しては、 IVIGやシクロフォスファミドが有効であったことが報告されている⁹⁾¹⁰⁾。 現在、 前向き試験で有効性を検討している (NCT04438382)。

3.免疫抑制剤と日和見感染予防

免疫抑制剤を長期間 (1カ月以上) 使用する際には、 日和見感染予防と日和見感染の早期発見・早期治療が重要。

免疫抑制剤はリンパ球 (特にT細胞) の機能を低下させるため、 好中球数に関連なく日和見感染のリスクを上昇させることに注意を要する。

個々の病状に合わせ日和見感染に対する予防的薬剤、 検査の種類、 頻度などは検討する¹¹⁻¹³⁾。

注意すべき感染症

ニューモシスチス (PCP) 肺炎、 サイトメガロウイルス感染症、 真菌感染、 ヘルペスウイルス感染、 結核、 HBVなど。

PCP肺炎予防

バクタ、 アトバコン、ベナンバックスなど使用。

早期発見のためのモニタリング

治療開始前

T-SPOT (結核菌特異的IFNγ) 検査、 HBs抗原、 HBc抗体、 HBs抗体

治療開始後

アスペルギルス抗原、β-Dグルカン、サイトメガロアンチゲネミア(C7-HRP)を定期測定

4.irAE回復後のICI再開

  • Grade 2:再開可能
  • Grade 3以上:慎重に投与再開を検討(肺臓炎の場合は中止)
  • Grade 4:永続的に中止
ただし、 ホルモン補充により症状コントロールができている内分泌関連のirAEの場合には再開を検討可

参考文献

  1. 日本臨床腫瘍学会編. がん免疫療法ガイドライン第2版. 金原出版社, 東京, 2019
  2. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021 Dec 20;39(36):4073-4126.PMID: 34724392
  3. NCCN Guidelines Insights: Management of Immunotherapy-Related Toxicities, Version 1.2020. J Natl Compr Canc Netw. 2020 Mar;18(3):230-241.PMID: 32135517
  4. Programmed cell death-1 pathway inhibitors in genitourinary malignancies: specific side-effects and their management. Curr Opin Urol. 2016 Nov;26(6):548-55.PMID: 27517638
  5. AGA Clinical Practice Update on Diagnosis and Management of Immune Checkpoint Inhibitor Colitis and Hepatitis: Expert Review. Gastroenterology. 2021 Mar;160(4):1384-1393.PMID: 33080231
  6. Cancer Immunotherapy with Anti-CTLA-4 Monoclonal Antibodies Induces an Inflammatory Bowel Disease. J Crohns Colitis. 2016 Apr;10(4):395-401.PMID: 26783344
  7. Clinical, Endoscopic, and Histologic Characteristics of Ipilimumab-Associated Colitis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 Jun;14(6):836-842.PMID: 26748223
  8. Colonic ulcerations may predict steroid-refractory course in patients with ipilimumab-mediated enterocolitis. World J Gastroenterol. 2017 Mar 21;23(11):2023-2028.PMID: 28373768
  9. Steroid-refractory PD-(L)1 pneumonitis: incidence, clinical features, treatment, and outcomes. J Immunother Cancer. 2021 Jan;9(1):e001731. PMID: 33414264
  10. Success and failure of additional immune modulators in steroid-refractory/resistant pneumonitis related to immune checkpoint blockade.J Immunother Cancer. 2021 Feb;9(2):e001884. PMID: 33568350
  11. 一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン, サイトメガロウイルス感染症 第5版. 2022
  12. 日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン, 造血細胞移植後の感染管理 第4版. 2017
  13. 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編. B型肝炎治療ガイドライン 第4版. 2022

最終更新:2023年2月15日
監修:公益財団法人がん研究会 有明病院先端医療開発科 宮脇英里子先生/北野滋久先生

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2023年12月16日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 (監修医師:公益財団法人がん研究会 有明病院先端医療開発科 宮脇英里子先生/北野滋久先生)

1.ステロイド不応性irAEとは

中等症~重症のirAEは、 ときに致命的な転帰をたどることも報告されており早期発見と適切な管理が必要である。 Grade3以上の一部症例はステロイド不応性となる。

Gradeとステロイド投与

  • Grade 2のirAE:症例ごとに検討
  • Grade 3以上:基本的に全身性ステロイド投与を行われ、 概ね80%以上の症例は改善するが、 一部はステロイド不応性となる。

2.ステロイド不応性irAEの治療

基本的にはステロイド開始から48-72時間以内にGrade 1以下へ症状の改善を認めない場合、「ステロイド不応」と判断し速やかにインフリキシマブ他、 免疫抑制剤の追加投与を検討する。

 

ただし、 irAEに対する免疫抑制剤の使用報告は限定的であり、 現時点で臨床的な意義は確立されていないため、 各irAEに対する各免疫抑制剤の使用にあたっては各種ガイドライン¹⁾⁻³⁾や各薬剤の添付文書を参考にしながら適応を慎重に検討する必要がある。

皮膚障害の場合

重度皮膚有害反応 (下記参照) においてはステロイド不応性の場合にはIVIGやシクロスポリンの投与を考慮する。

  • sever cutaneous adverse drug reactions (SCAR)
  • スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症 (SJS/TEN)
  • 急性汎発性膿疱性発疹症 (AGEP)
  • 薬剤性過敏症症候群 (DIHS/DRESS)

肝障害の場合

ステロイド不応性の肝障害に対しては、 ミコフェノール酸モフェチル(MMF)が有効であったことが報告されている⁴⁾。 インフリキシマブは肝毒性があるため使用は原則的に不可である。

下痢/大腸炎の場合

内視鏡所見で中等症~重症と判断されれば、 より早期(ステロイド投与と同時)から免疫抑制剤の使用を検討する場合もある⁵⁾。 インフリキシマブまたはベドリズマブの有効例が報告されている⁶⁾⁻⁸⁾。 両薬剤の特性を考慮し使い分ける。

インフリキシマブ日和見感染症のリスクあり。 NYHA3度以上の心不全には使用不可である。

高齢者、 irAE心筋炎合併などには使用しにくい。
大腸炎以外のirAEを合併している症例は適応となりうる ※日和見感染のモニタリング必須

ベドリズマブ日和見感染症のリスクはない。 消化器への有効性に特化している(作用機序より)

irAE大腸炎だけの症例はよい適応

肺臓炎の場合

ステロイド不応性の肺臓炎に対しては、 IVIGやシクロフォスファミドが有効であったことが報告されている⁹⁾¹⁰⁾。 現在、 前向き試験で有効性を検討している (NCT04438382)。

3.免疫抑制剤と日和見感染予防

免疫抑制剤を長期間 (1カ月以上) 使用する際には、 日和見感染予防と日和見感染の早期発見・早期治療が重要。

免疫抑制剤はリンパ球 (特にT細胞) の機能を低下させるため、 好中球数に関連なく日和見感染のリスクを上昇させることに注意を要する。

個々の病状に合わせ日和見感染に対する予防的薬剤、 検査の種類、 頻度などは検討する¹¹⁻¹³⁾。

注意すべき感染症

ニューモシスチス (PCP) 肺炎、 サイトメガロウイルス感染症、 真菌感染、 ヘルペスウイルス感染、 結核、 HBVなど。

PCP肺炎予防

バクタ、 アトバコン、ベナンバックスなど使用。

早期発見のためのモニタリング

治療開始前

T-SPOT (結核菌特異的IFNγ) 検査、 HBs抗原、 HBc抗体、 HBs抗体

治療開始後

アスペルギルス抗原、β-Dグルカン、サイトメガロアンチゲネミア(C7-HRP)を定期測定

4.irAE回復後のICI再開

  • Grade 2:再開可能
  • Grade 3以上:慎重に投与再開を検討(肺臓炎の場合は中止)
  • Grade 4:永続的に中止
ただし、 ホルモン補充により症状コントロールができている内分泌関連のirAEの場合には再開を検討可

参考文献

  1. 日本臨床腫瘍学会編. がん免疫療法ガイドライン第2版. 金原出版社, 東京, 2019
  2. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021 Dec 20;39(36):4073-4126.PMID: 34724392
  3. NCCN Guidelines Insights: Management of Immunotherapy-Related Toxicities, Version 1.2020. J Natl Compr Canc Netw. 2020 Mar;18(3):230-241.PMID: 32135517
  4. Programmed cell death-1 pathway inhibitors in genitourinary malignancies: specific side-effects and their management. Curr Opin Urol. 2016 Nov;26(6):548-55.PMID: 27517638
  5. AGA Clinical Practice Update on Diagnosis and Management of Immune Checkpoint Inhibitor Colitis and Hepatitis: Expert Review. Gastroenterology. 2021 Mar;160(4):1384-1393.PMID: 33080231
  6. Cancer Immunotherapy with Anti-CTLA-4 Monoclonal Antibodies Induces an Inflammatory Bowel Disease. J Crohns Colitis. 2016 Apr;10(4):395-401.PMID: 26783344
  7. Clinical, Endoscopic, and Histologic Characteristics of Ipilimumab-Associated Colitis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 Jun;14(6):836-842.PMID: 26748223
  8. Colonic ulcerations may predict steroid-refractory course in patients with ipilimumab-mediated enterocolitis. World J Gastroenterol. 2017 Mar 21;23(11):2023-2028.PMID: 28373768
  9. Steroid-refractory PD-(L)1 pneumonitis: incidence, clinical features, treatment, and outcomes. J Immunother Cancer. 2021 Jan;9(1):e001731. PMID: 33414264
  10. Success and failure of additional immune modulators in steroid-refractory/resistant pneumonitis related to immune checkpoint blockade.J Immunother Cancer. 2021 Feb;9(2):e001884. PMID: 33568350
  11. 一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン, サイトメガロウイルス感染症 第5版. 2022
  12. 日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン, 造血細胞移植後の感染管理 第4版. 2017
  13. 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編. B型肝炎治療ガイドライン 第4版. 2022

最終更新:2023年2月15日
監修:公益財団法人がん研究会 有明病院先端医療開発科 宮脇英里子先生/北野滋久先生

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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