概要
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 

1.CIPNの定義

本稿では、がん薬物療法に伴う副作用として頻度の高い「化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN*) について、 ガイドラインの記載を交え概説する。

* Chemotherapy-induced peripheral neuropathy

症候学的分類

①感覚神経障害

しびれあるいは感覚鈍麻 (numbness)、 チクチク感 (tingling)、 疼痛 (pain) などと表現される自覚症状を認める。 特に手足の末梢側で発症し手袋や靴下を履いている部分に症状の表出が多く、 glove and stocking型と呼ばれる。

②運動神経障害

四肢遠位部優位の筋萎縮と筋力の低下や弛緩性麻痺が生じる。 四肢の腱反射の低下や消失がみられ、 遠位にいくほど顕著となる。 CIPNの場合、 運動神経障害のみで存在することはほとんどみられないため、 感覚障害をまったく伴わない運動神経障害が出現した場合は、 他の疾患を念頭においた精査が必要である。

③自律神経障害

血圧、 腸管運動、 不随意筋に障害が発生し、 排尿障害や発汗異常、 起立性低血圧、 便秘、 麻痺性イレウスなどがみられることがある。 一般的に、 感覚神経障害、 運動神経障害と比較し発生率は低いとされる。

病理組織学的分類

2. CIPNの鑑別

CIPN発症の可能性のある抗がん剤の投与前に、 患者から既往歴等の問診を行い必要に応じて身体診察所見を行うことで、 以下の疾患を除外しておくことが望ましい。

糖尿病性末梢神経障害、 遺伝性ニューロパチー(シャルコー・マリー・トゥース病など)、 アルコール依存症に伴う末梢神経障害、 ギラン・バレー症候群、 傍腫瘍性ニューロパチーなど

3. CIPNのリスク因子

CIPNのリスク因子として、 糖尿病、 アルコール依存症、 非アルコール性肝障害、 低栄養状態が指摘されている¹⁾。

4. CIPNの評価

定量的評価、 医療者による評価、 患者報告による評価など、 CIPNの評価は多岐にわたるが、 最も有用性の高い評価は、 患者報告とされる。

定量的評価

▼感覚機能評価

静的触覚閾値評価として、 セメスワインスタインモノフィラメントを用いる。

二点識別覚評価として、 ディスクリミネーターを用いる。

振動覚評価として、 音叉を用いる。

▼運動機能評価

移動能力の評価として、 Timed Up and Goや6分間歩行テストを用いる。

▼電気生理学的検査

電気生理学的検査は、 CIPNの検査としてカットオフ値は明確になっていないが、 神経伝導検査による感覚振幅が特異的に下がる。

医療者による評価

▼CTCAE

米国 National Cancer Institute(NCI)で作成されたCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 5.0 が広くもちいられている。

しかし、 CTCAEのGrade分類では、 医療従事者の解釈が加わるためCIPNが過小評価されている可能性が指摘されている²⁾。

>>CTCAE ver5で詳細を確認する

▼DEB-NTC

オキサリプラチン起因性末梢神経障害に特化したDebiopharm社の神経症状-感覚性毒性基準。 オキサリプラチンの国内の使用成績調査におけるCIPNの評価基準として用いられた評価指標であり、 発現の有無、 症状の期間、 機能障害の有無で分類される。

>>HOKUTO計算ツールで詳細を確認する

患者報告による評価

▼PRO-CTCAE

既存のCTCAEにPatient-Reported Outcomes (PRO)の要素を導入し、 患者の自己評価に基づき有害事象を測定し、 より正確度と精度の高い評価を行うシステムとして、 米国NCIによって開発された。

▼PNQ

患者の主観的な症状を感覚性、 運動性の両面で評価でき、 具体的な活動の支障も把握できる評価指標である。

▼QLQ-CIPN20、 FACT-Ntz

PROのうち最も使用される評価尺度である。 信頼性、 妥当性が検証されており、 NCIの専門家会議において臨床試験で使用することが推奨されている。

複合評価 (TNS)

定量的評価と自覚症状指標を含む複合総合評価指標である。

5. 原因薬剤

代表的な薬剤と発症頻度

6. 治療マネジメント

予防

▼推奨されること

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

▼推奨されないこと

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

治療

CIPNの根本的な治療法がないため、 原因となる抗がん薬の投与の延期、 減量、 あるいは中⽌が現実的なマネジメントである。

▼推奨されること

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

▼推奨されないこと

参考文献

1). Stubblefield MD et al. A prospective surveillance model for physical rehabilitation of women with breast cancer: chemotherapy-induced peripheral neuropathy. Cancer. 2012; 118: 2250-60.

2). Basch E. The missing voice of patients in drug-safety reporting. N Engl J Med. 2010; 362:865-9.

3).がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版 日本がんサポーティブケア学会編

最終更新日:2023年12月16日
監修医師:HOKUTO編集部監修医師

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化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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Chemotherapy induced peripheral neuropathy
2023年12月16日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。 

1.CIPNの定義

本稿では、がん薬物療法に伴う副作用として頻度の高い「化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN*) について、 ガイドラインの記載を交え概説する。

* Chemotherapy-induced peripheral neuropathy

症候学的分類

①感覚神経障害

しびれあるいは感覚鈍麻 (numbness)、 チクチク感 (tingling)、 疼痛 (pain) などと表現される自覚症状を認める。 特に手足の末梢側で発症し手袋や靴下を履いている部分に症状の表出が多く、 glove and stocking型と呼ばれる。

②運動神経障害

四肢遠位部優位の筋萎縮と筋力の低下や弛緩性麻痺が生じる。 四肢の腱反射の低下や消失がみられ、 遠位にいくほど顕著となる。 CIPNの場合、 運動神経障害のみで存在することはほとんどみられないため、 感覚障害をまったく伴わない運動神経障害が出現した場合は、 他の疾患を念頭においた精査が必要である。

③自律神経障害

血圧、 腸管運動、 不随意筋に障害が発生し、 排尿障害や発汗異常、 起立性低血圧、 便秘、 麻痺性イレウスなどがみられることがある。 一般的に、 感覚神経障害、 運動神経障害と比較し発生率は低いとされる。

病理組織学的分類

2. CIPNの鑑別

CIPN発症の可能性のある抗がん剤の投与前に、 患者から既往歴等の問診を行い必要に応じて身体診察所見を行うことで、 以下の疾患を除外しておくことが望ましい。

糖尿病性末梢神経障害、 遺伝性ニューロパチー(シャルコー・マリー・トゥース病など)、 アルコール依存症に伴う末梢神経障害、 ギラン・バレー症候群、 傍腫瘍性ニューロパチーなど

3. CIPNのリスク因子

CIPNのリスク因子として、 糖尿病、 アルコール依存症、 非アルコール性肝障害、 低栄養状態が指摘されている¹⁾。

4. CIPNの評価

定量的評価、 医療者による評価、 患者報告による評価など、 CIPNの評価は多岐にわたるが、 最も有用性の高い評価は、 患者報告とされる。

定量的評価

▼感覚機能評価

静的触覚閾値評価として、 セメスワインスタインモノフィラメントを用いる。

二点識別覚評価として、 ディスクリミネーターを用いる。

振動覚評価として、 音叉を用いる。

▼運動機能評価

移動能力の評価として、 Timed Up and Goや6分間歩行テストを用いる。

▼電気生理学的検査

電気生理学的検査は、 CIPNの検査としてカットオフ値は明確になっていないが、 神経伝導検査による感覚振幅が特異的に下がる。

医療者による評価

▼CTCAE

米国 National Cancer Institute(NCI)で作成されたCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 5.0 が広くもちいられている。

しかし、 CTCAEのGrade分類では、 医療従事者の解釈が加わるためCIPNが過小評価されている可能性が指摘されている²⁾。

>>CTCAE ver5で詳細を確認する

▼DEB-NTC

オキサリプラチン起因性末梢神経障害に特化したDebiopharm社の神経症状-感覚性毒性基準。 オキサリプラチンの国内の使用成績調査におけるCIPNの評価基準として用いられた評価指標であり、 発現の有無、 症状の期間、 機能障害の有無で分類される。

>>HOKUTO計算ツールで詳細を確認する

患者報告による評価

▼PRO-CTCAE

既存のCTCAEにPatient-Reported Outcomes (PRO)の要素を導入し、 患者の自己評価に基づき有害事象を測定し、 より正確度と精度の高い評価を行うシステムとして、 米国NCIによって開発された。

▼PNQ

患者の主観的な症状を感覚性、 運動性の両面で評価でき、 具体的な活動の支障も把握できる評価指標である。

▼QLQ-CIPN20、 FACT-Ntz

PROのうち最も使用される評価尺度である。 信頼性、 妥当性が検証されており、 NCIの専門家会議において臨床試験で使用することが推奨されている。

複合評価 (TNS)

定量的評価と自覚症状指標を含む複合総合評価指標である。

5. 原因薬剤

代表的な薬剤と発症頻度

6. 治療マネジメント

予防

▼推奨されること

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

▼推奨されないこと

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

治療

CIPNの根本的な治療法がないため、 原因となる抗がん薬の投与の延期、 減量、 あるいは中⽌が現実的なマネジメントである。

▼推奨されること

エビデンスの推奨度は、 A (強)、 B (中)、 C (弱)、 D (⾮常に弱い)

▼推奨されないこと

参考文献

1). Stubblefield MD et al. A prospective surveillance model for physical rehabilitation of women with breast cancer: chemotherapy-induced peripheral neuropathy. Cancer. 2012; 118: 2250-60.

2). Basch E. The missing voice of patients in drug-safety reporting. N Engl J Med. 2010; 362:865-9.

3).がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版 日本がんサポーティブケア学会編

最終更新日:2023年12月16日
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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