治療スケジュール
概要
監修医師

BLM:ブレオマイシン(ブレオ®)

投与量コース投与日
10mg/m² 点滴静注1~Day 8
(最大15mg)--

ETP:エトポシド(ラステット®)

投与量コース投与日
200mg/m² 点滴静注1~Day 1~3

ADM:アドリアマイシン(アドリアシン®)

投与量コース投与日
35mg/m² 点滴静注1~Day 1

CPA:シクロホスファミド(エンドキサン®)

投与量コース投与日
1,250mg/m² 点滴静注1~Day 1

VCR:ビンクリスチン(オンコビン®)

投与量コース投与日
1.4mg/m² 点滴静注1~Day 8
(最大2.0mg)--

PCZ:プロカルバジン(プロカルバジン®)

投与量コース投与日
100mg/m² 経口1~Day 1~7

PSL:プレドニゾロン(プレドニン®)

投与量コース投与日
40mg/m² 経口1~Day 1~14

前投薬

5-HT3受容体拮抗薬を使用.

その他

1コースは21日間.
ADMやVCRは静注も可. 各施設の運用方針による.
リスクに応じてDay 4よりG-CSF皮下注を検討.
レジメン
増量BEACOPP

薬剤情報

主な有害事象

GHSG HD9試験¹⁾より引用.

骨髄抑制

  • 貧血 (Grade≧3 66%)
  • 白血球減少 (Grade≧3 98%)
  • 血小板減少 (Grade≧3 70%)

重大な有害事象

  • 感染症 (Grade≧3 22%)
  • 嘔気 (Grade≧3 20%)
  • 脱毛症 (Grade≧3 79%)

その他

  • 粘膜炎 (Grade≧3 8%)
  • 呼吸器障害 (Grade≧3 4%)
  • 消化器障害 (Grade≧3 4%)
  • 神経障害 (Grade≧3 4%)
  • 皮膚障害 (Grade≧3 3%)
  • 疼痛 (Grade≧3 9%)

特徴と注意点

  • 増量BEACOPP療法は、 標準量BEACOPP療法のうちETP、 ADM、 CPAを増量し、 治療強度を高めたレジメンである.
  標準法:ETP 100mg/m²、 ADM 25mg/m²、 CPA 650mg/m²
  増量法:ETP 200mg/m²、 ADM 35mg/m²、 CPA 1,250mg/m²
  • 60歳以下の進行期ホジキンリンパ腫に対する治療選択肢の一つ.

進行期ホジキンリンパ腫におけるエビデンス

  • GHSG HD9試験ではCOPP/ABVDと比べ、 増量BEACOPPの治療成功割合、 全生存割合は有意に優っていた. しかし、 管理可能であったものの、 有害事象は増量BEACOPPに高頻度に発生した. また、 ABVDとCOPP/ABVDが同等の有効性を示すかは不明である¹⁾.
  • EORTC 20012試験において、 ABVD8コースと増量BEACOPP4コース+標準量BEACOPP4コース (BEACOPP4+4) は、 EFS、 OSにおいて同等であった²⁾.
  EFS:無イベント生存率 OS:全生存率
  • 以上より、 増量BEACOPPのABVDに対する優位性は示されているとはいえない³⁾.
  • 日本人に対する増量BEACOPP療法の有効性、 安全性のデータは十分でなく、 臨床試験での実施が望ましい³⁾.
  • 海外ではABVD2コース後のinterim PET (iPET-2) 陽性例への増量BEACOPPへの切り替えが治療選択肢となりうることが示されている⁴⁾⁵⁾.
  • 現在JCOG1305試験においてInterim PET陽性例に対する増量BEACOPP療法6コースの有用性が検討されている⁶⁾.

感染対策

  • 発熱性好中球減少症のリスクに応じてday 4よりG-CSF皮下注を考慮.
  • ST合剤の予防内服を考慮 (特にG-CSFを使用する際).
  • HBV再活性化リスクを考慮し、 適切なスクリーニング検査とモニタリングを行う.

各薬剤の副作用と対策

  • ブレオマイシンは間質性肺炎・肺線維症などの肺障害のリスクがあり、 累積上限量は300mg.
  • ドキソルビシンは壊死性抗がん剤であるため、 血管外漏出に注意.
  • ドキソルビシンには累積心毒性があるため、 累積上限量は500mg/m².
  • シクロフォスファミドは出血性膀胱炎のリスクがあるため、 水分摂取を励行し排尿を促す.
  • ビンクリスチンによる末梢神経障害や便秘・腸閉塞に注意.
  • プレドニゾロンによる各種合併症 (特にコントロール困難な糖尿病や出血性消化性潰瘍) に注意.
  • 腫瘍量が多い場合、 腫瘍崩壊症候群が出現するため、 十分な予防が必要.

関連する臨床試験の結果

GHSG HD9試験 ¹⁾

概要

  • ホジキンリンパ腫1201人に対する第3相試験
  • COPP-ABVD群260名、 標準量BEACOPP群469名、 増量BEACOPP群466名
  • 3群間での FFTF率、 全生存率、 毒性を比較
  FFTF:診断から治療不成功までの期間

結果

  • 追跡期間中央値:COPP-ABVD群72ヵ月、 BEACOPP群54ヵ月、 増量BEACOPP群51ヵ月.
  • 5年FFTF率:COPP-ABVD群69%、 BEACOPP群76%、 増量BEACOPP群87%.
  ※COPP-ABVD群 vs BEACOPP群 p=0.04、 BEACOPP群 vs 増量BEACOPP群 p<0.001、 COPP-ABVD群 vs 増量BEACOPP群 p<0.001.
  • 5年全生存率:COPP-ABVD群83%、 BEACOPP群88%、 増量BEACOPP群91%.
  ※COPP-ABVD群 vs BEACOPP群 p=0.16、 BEACOPP群 vs 増量BEACOPP群 p=0.06、 COPP-ABVD群 vs 増量BEACOPP群 p=0.002.
  • 予後判定サブグループ解析では、 COPP-ABVDと比較して、 標準量及び増量BEACOPPの方が、 早期進行率が低く、 FFTF率及び全生存率が高かった.
  • 早期進行率は標準量に比べ増量BEACOPPで有意に低かった.
  • 血液毒性は、 COPP-ABVDや標準量BEACOPPに比べ、 増量BEACOPPで大幅に増加したが管理可能であった.
  • 本試験により、 増量BEACOPPは、 COPP-ABVDよりも腫瘍制御および全生存率が高いことが示され、 60歳までの成人にとって有力な治療選択となることが示唆された.
  • 10年フォローアップ解析でも同様に増量BEACOPP療法の有用性が示されている⁷⁾.

参考文献

  1. N Engl J Med. 2003 Jun 12;348(24):2386-95.
  2. J Clin Oncol. 2016 Jun 10;34(17):2028-36.
  3. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版補訂版
  4. J Clin Oncol. 2016 Jun 10;34(17):2020-7.
  5. N Engl J Med. 2016 Jun 23;374(25):2419-29.
  6. JCOG1305 プロトコール概要
  7. J Clin Oncol. 2009 Sep 20;27(27):4548-54.

最終更新:2021年12月30日
執筆:牛久愛和総合病院薬剤センタ- 秋場孝則
監修医師:東海大学血液腫瘍内科 扇屋大輔

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増量BEACOPP
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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増量BEACOPP

ブレオマイシン、エトポシド、アドリアマイシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン
2023年06月07日更新

BLM:ブレオマイシン(ブレオ®)

投与量コース投与日
10mg/m² 点滴静注1~Day 8
(最大15mg)--

ETP:エトポシド(ラステット®)

投与量コース投与日
200mg/m² 点滴静注1~Day 1~3

ADM:アドリアマイシン(アドリアシン®)

投与量コース投与日
35mg/m² 点滴静注1~Day 1

CPA:シクロホスファミド(エンドキサン®)

投与量コース投与日
1,250mg/m² 点滴静注1~Day 1

VCR:ビンクリスチン(オンコビン®)

投与量コース投与日
1.4mg/m² 点滴静注1~Day 8
(最大2.0mg)--

PCZ:プロカルバジン(プロカルバジン®)

投与量コース投与日
100mg/m² 経口1~Day 1~7

PSL:プレドニゾロン(プレドニン®)

投与量コース投与日
40mg/m² 経口1~Day 1~14

前投薬

5-HT3受容体拮抗薬を使用.

その他

1コースは21日間.
ADMやVCRは静注も可. 各施設の運用方針による.
リスクに応じてDay 4よりG-CSF皮下注を検討.

概要

薬剤情報

主な有害事象

GHSG HD9試験¹⁾より引用.

骨髄抑制

  • 貧血 (Grade≧3 66%)
  • 白血球減少 (Grade≧3 98%)
  • 血小板減少 (Grade≧3 70%)

重大な有害事象

  • 感染症 (Grade≧3 22%)
  • 嘔気 (Grade≧3 20%)
  • 脱毛症 (Grade≧3 79%)

その他

  • 粘膜炎 (Grade≧3 8%)
  • 呼吸器障害 (Grade≧3 4%)
  • 消化器障害 (Grade≧3 4%)
  • 神経障害 (Grade≧3 4%)
  • 皮膚障害 (Grade≧3 3%)
  • 疼痛 (Grade≧3 9%)

特徴と注意点

  • 増量BEACOPP療法は、 標準量BEACOPP療法のうちETP、 ADM、 CPAを増量し、 治療強度を高めたレジメンである.
  標準法:ETP 100mg/m²、 ADM 25mg/m²、 CPA 650mg/m²
  増量法:ETP 200mg/m²、 ADM 35mg/m²、 CPA 1,250mg/m²
  • 60歳以下の進行期ホジキンリンパ腫に対する治療選択肢の一つ.

進行期ホジキンリンパ腫におけるエビデンス

  • GHSG HD9試験ではCOPP/ABVDと比べ、 増量BEACOPPの治療成功割合、 全生存割合は有意に優っていた. しかし、 管理可能であったものの、 有害事象は増量BEACOPPに高頻度に発生した. また、 ABVDとCOPP/ABVDが同等の有効性を示すかは不明である¹⁾.
  • EORTC 20012試験において、 ABVD8コースと増量BEACOPP4コース+標準量BEACOPP4コース (BEACOPP4+4) は、 EFS、 OSにおいて同等であった²⁾.
  EFS:無イベント生存率 OS:全生存率
  • 以上より、 増量BEACOPPのABVDに対する優位性は示されているとはいえない³⁾.
  • 日本人に対する増量BEACOPP療法の有効性、 安全性のデータは十分でなく、 臨床試験での実施が望ましい³⁾.
  • 海外ではABVD2コース後のinterim PET (iPET-2) 陽性例への増量BEACOPPへの切り替えが治療選択肢となりうることが示されている⁴⁾⁵⁾.
  • 現在JCOG1305試験においてInterim PET陽性例に対する増量BEACOPP療法6コースの有用性が検討されている⁶⁾.

感染対策

  • 発熱性好中球減少症のリスクに応じてday 4よりG-CSF皮下注を考慮.
  • ST合剤の予防内服を考慮 (特にG-CSFを使用する際).
  • HBV再活性化リスクを考慮し、 適切なスクリーニング検査とモニタリングを行う.

各薬剤の副作用と対策

  • ブレオマイシンは間質性肺炎・肺線維症などの肺障害のリスクがあり、 累積上限量は300mg.
  • ドキソルビシンは壊死性抗がん剤であるため、 血管外漏出に注意.
  • ドキソルビシンには累積心毒性があるため、 累積上限量は500mg/m².
  • シクロフォスファミドは出血性膀胱炎のリスクがあるため、 水分摂取を励行し排尿を促す.
  • ビンクリスチンによる末梢神経障害や便秘・腸閉塞に注意.
  • プレドニゾロンによる各種合併症 (特にコントロール困難な糖尿病や出血性消化性潰瘍) に注意.
  • 腫瘍量が多い場合、 腫瘍崩壊症候群が出現するため、 十分な予防が必要.

関連する臨床試験の結果

GHSG HD9試験 ¹⁾

概要

  • ホジキンリンパ腫1201人に対する第3相試験
  • COPP-ABVD群260名、 標準量BEACOPP群469名、 増量BEACOPP群466名
  • 3群間での FFTF率、 全生存率、 毒性を比較
  FFTF:診断から治療不成功までの期間

結果

  • 追跡期間中央値:COPP-ABVD群72ヵ月、 BEACOPP群54ヵ月、 増量BEACOPP群51ヵ月.
  • 5年FFTF率:COPP-ABVD群69%、 BEACOPP群76%、 増量BEACOPP群87%.
  ※COPP-ABVD群 vs BEACOPP群 p=0.04、 BEACOPP群 vs 増量BEACOPP群 p<0.001、 COPP-ABVD群 vs 増量BEACOPP群 p<0.001.
  • 5年全生存率:COPP-ABVD群83%、 BEACOPP群88%、 増量BEACOPP群91%.
  ※COPP-ABVD群 vs BEACOPP群 p=0.16、 BEACOPP群 vs 増量BEACOPP群 p=0.06、 COPP-ABVD群 vs 増量BEACOPP群 p=0.002.
  • 予後判定サブグループ解析では、 COPP-ABVDと比較して、 標準量及び増量BEACOPPの方が、 早期進行率が低く、 FFTF率及び全生存率が高かった.
  • 早期進行率は標準量に比べ増量BEACOPPで有意に低かった.
  • 血液毒性は、 COPP-ABVDや標準量BEACOPPに比べ、 増量BEACOPPで大幅に増加したが管理可能であった.
  • 本試験により、 増量BEACOPPは、 COPP-ABVDよりも腫瘍制御および全生存率が高いことが示され、 60歳までの成人にとって有力な治療選択となることが示唆された.
  • 10年フォローアップ解析でも同様に増量BEACOPP療法の有用性が示されている⁷⁾.

参考文献

  1. N Engl J Med. 2003 Jun 12;348(24):2386-95.
  2. J Clin Oncol. 2016 Jun 10;34(17):2028-36.
  3. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版補訂版
  4. J Clin Oncol. 2016 Jun 10;34(17):2020-7.
  5. N Engl J Med. 2016 Jun 23;374(25):2419-29.
  6. JCOG1305 プロトコール概要
  7. J Clin Oncol. 2009 Sep 20;27(27):4548-54.

最終更新:2021年12月30日
執筆:牛久愛和総合病院薬剤センタ- 秋場孝則
監修医師:東海大学血液腫瘍内科 扇屋大輔

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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