治療スケジュール
概要
監修医師

Tisa-cel:チサゲンレクルユーセル(キムリア®)

投与量コース投与日
CAR発現生T細胞として0.6×10⁸~6.0×10⁸個1-Day1

前投薬

Infusion reaction軽減のため、 投与30~60分前に抗ヒスタミン薬、 解熱鎮痛薬を投与.

その他

製造販売業者が提供する講習を受けた医療従事者が実施する.
投与の2日前までに必要に応じてリンパ球除去化学療法を行う.
サイトカイン放出症候群の緊急時に備えて、 トシリズマブの在庫を確保する.
細胞生存率を最大に保つため、 解凍してから30分以内に静脈内投与を完了する.
レジメン
Tisa-cel (Tisagen lecleucel)
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

薬剤情報

*適正使用ガイドは「ノバルティスファーマ株式会社」 の外部サイトへ遷移します.

主な有害事象

JULIET試験¹⁾より引用

投与後8週以内

  • 投与後30日以内の死亡 (3例;病勢進行)
  • サイトカイン放出症候群 (58%、 ≧Grade3 22%)
  • 感染症 (34%、 ≧Grade3 20%)
  • 投与後28日目までに回復しない血球減少症 (44%、 ≧Grade3 32%)
  • 神経系事象 (21%、 ≧Grade3 12%)
  • 発熱性好中球減少症 (15%、 ≧Grade3 15%)
  • 腫瘍崩壊症候群 (1%、 ≧Grade3 1%)

投与後8週以降

  • サイトカイン放出症候群 (0%、 ≧Grade3 0%)
  • 感染症 (39%、 ≧Grade3 18%)
  • 神経系事象 (5%、 ≧Grade3 3%)
  • 発熱性好中球減少症 (2%、 ≧Grade3 2%)
  • 腫瘍崩壊症候群 (0%、 ≧Grade3 0%)

特徴と注意点

作用機序

  • レンチウイルスベクターを用いて抗CD19キメラ抗原受容体 (Chimeric Antigen Receptor;CAR) をコードする遺伝子を患者自身のT細胞に導入したCAR発現生T細胞を構成細胞とする細胞加工製品である.
  • CD19を発現したがん細胞をCAR発現生T細胞が認識すると、 主要組織適合遺伝子複合体とは非依存的に導入T細胞の増殖、 活性化、 標的細胞に対する攻撃、 導入T細胞を持続させるシグナルが伝達され、 CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 、 濾胞性リンパ腫 (FL) に対し抗腫瘍効果を示すと考えられている.

適応疾患

  • 再発又は難治性のCD19陽性のB-ALL
  • 再発又は難治性のDLBCL
  • 再発又は難治性のFL

適格基準【DLBCL】

  • 再発または難治性のDLBCL
  • 以下1. 2. のいずれかの場合であって、 CD19抗原を標的としたCAR-T療法の治療歴がない、 かつ、 自家造血幹細胞移植の適応とならない又は自家造血幹細胞移植後に再発した患者
  1. 初発の患者では化学療法を2回以上再発の患者では再発後に化学療法を1回以上施行し、 化学療法により完全奏効が得られなかった又は完全奏効が得られたが再発した場合
  2. FLが形質転換した患者では通算2回以上の化学療法を施行し、 形質転換後には化学療法を1回以上施行したが、 形質転換後の化学療法により完全奏効が得られなかった又は完全奏効が得られたが再発した場合

白血球アフェレーシス

  • 十分量のTリンパ球を含む非動員末梢血単核球を採取し、 白血球アフェレーシス産物を凍結保存する.
*「ノバルティス白血球アフェレーシス参照マニュアル」 を参照.

リンパ球除去化学療法前の抗腫瘍療法 (ブリッジング療法)

  • Tisa-celの製造を待っている期間に患者の病態を安定させるため、 腫瘍量等に応じて抗腫瘍療法 (ブリッジング療法) を実施する.

JULIET試験におけるブリッジング療法》

  • 91.9%がブリッジング療法を実施
  • 多剤併用レジメン;CHOP療法、 GDP療法、 ICE療法、 DHAP療法 (リツキシマブ併用)
  • 単剤レジメン;トロホスファミドミド (国内未承認)、 ベンダムスチン、 メトトレキサート等

リンパ球除去化学療法【DLBCL】

  • Tisa-cel投与前にリンパ球数を減少させることで、 投与されたCAR発現生T細胞の生着と恒常性の維持に基づく生体内の増殖を促進させる.
  • Tisa-cel投与の2日前までに完了する. ただし、 Tisa-cel投与予定日前の1週間以内の末梢血白血球数が1,000/mm³未満等、 患者の状態により省略可能.
  • DLBCLに用いるリンパ球除去化学療法:シクロホスファミド 250mg/m²+フルダラビン 25mg/m²を3日間.
  • シクロホスファミドによるGrade 4の出血性膀胱炎の既往がある、 又はシクロホスファミドに抵抗性を示す場合のリンパ球除去化学療法:ベンダムスチン 90mg/m²を2日間.

投与時の注意事項

  • B型肝炎又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者は、 肝炎ウイルスが再活性化される可能性がある.
  • HIV感染者はウイルスが増加する可能性がある.
  • Tisa-cel受領時及び投与前に、 静注用バッグに貼付されたラベルの記載が患者本人の情報と一致していることを確認する.
  • Infusion reaction軽減のため、 Tisa-cel投与の約30~60分前に抗ヒスタミン薬と解熱鎮痛薬を投与する.
  • 生命を脅かす緊急事態を除き、 副腎皮質ステロイド薬は使用しない.
  • サイトカイン放出症候群 (CRS) の緊急時に備え、 トシリズマブを2回投与分以上準備する.
  • 静注用バッグは解凍終了後30分以内に静脈内投与を完了する.
  • 白血球除去フィルターは使用せず、 ラテックスフリーの点滴ルートを用いる.
  • 注入速度は約10~20mL/minとし、 投与前後に生理食塩水にてプライミングを実施する.
  • ジメチルスルホキシド (DMSO) 及びデキストランを含有しており、 アナフィラキシー等の過敏症反応を誘発する可能性がある.
  • HIV-1を基に開発されたレンチウイルスベクターを使用しているためHIV核酸増幅検査で偽陽性になることがある.
  • 移植のために血液、 臓器、 組織及び細胞を提供しないよう指導する.

副作用と対策【サイトカイン放出症候群;CRS】

  • 活性化されたT細胞により放出されるサイトカインによって引き起こされる全身性炎症反応.
  • 体内でのCAR発現生T細胞の増殖、 活性化及び腫瘍細胞の死滅の結果発現する.
  • Tisa-cel投与後1週間は患者の状態に注意し、少なくとも4週間は観察を継続する.
  • 症状:高熱、 悪寒、 筋肉痛、 関節痛、 悪心、 嘔吐、 下痢、 発汗、 発疹、 食欲不振、 疲労、 頭痛、 低血圧、 呼吸困難、 呼吸不全、 肺水腫、 頻呼吸、 低酸素症、 凝固障害、 心不全、 不整脈、 腎不全、 肝障害、 播種性血管内凝固症候群、 毛細血管漏出症候群、 血球貪食症候群、 マクロファージ活性化症候群、 急性呼吸窮迫症候群等.
  • DLBCL患者のCRSリスク因子:投与前の高腫瘍量.
  • CRS発現時期中央値 (範囲):3.0 (1-51) 日 (JULIET試験).
  • CRS持続期間中央値 (範囲):7.0 (2-30) 日 (JULIET試験).

《キムリア®点滴静注サイトカイン放出症候群管理アルゴリズム》

JULIET試験におけるCRS治療》

  • トシリズマブ投与:14% (1回投与:5%、 2回投与:9%).
  • トシリズマブ+副腎皮質ステロイド:10%.
  • 酸素吸入:42.2%.
  • 気管挿管:12.5%.
  • 高用量の昇圧剤:10.9%.
  • 透析:7.8%.
  • ICU入室:42.4%.

副作用と対策【神経系事象】

  • 発現メカニズムは不明. 多くは一過性であり、 ほとんどが支持療法もしくは治療を要せず症状が消失.
  • Tisa-cel投与後少なくとも8週間は自動車の運転及び危険を伴う行動に従事しないよう指導する.
  • 症状:脳症、 せん妄、 不安、 浮動性めまい、 振戦、 意識障害、 失見当識、 頭痛、 錯乱、 激越、 痙攣発作、 無言症、 失語症等.
  • 神経系事象発現時期中央値 (範囲):6日 (JULIET試験).
  • 神経系事象持続期間中央値 (範囲):13日 (JULIET試験).

副作用と対策【感染症】

  • 低γグロブリン血症又は無γグロブリン血症や重篤な遷延する血球減少に伴い、 細菌、 真菌、 ウイルス等による重度の感染症や発熱性好中球減少症が現れることがある.
  • 患者の易感染状態に応じた標準的な感染予防療法を実施する.

副作用と対策【低γグロブリン血症】

  • 正常なB細胞にもCD19が発現しているため、 一時的又は持続的にB細胞の枯渇が引き起こされ、 低γグロブリン血症を発症することがある.
  • CAR発現生T細胞が患者の体内で持続する限り、 低γグロブリン血症が持続する可能性がある.
  • 定期的に免疫グロブリンを測定し、 必要に応じて免疫補充療法を実施する.

副作用と対策【血球減少・造血器疾患】

  • Tisa-cel投与後28日目までに回復しないGrade 3以上の好中球減少症、 白血球減少症、 リンパ球減少症、 血小板減少症及び貧血が現れることがある.
  • 再生不良性貧血、 骨髄機能不全等を発症する可能性がある.
  • 血球減少には血液製剤、 骨髄増殖因子 (G-CSF等) 、 抗菌薬等の投与を実施する.
  • G-CSF製剤はCRSを悪化させる可能性があるため、 Tisa-cel投与後3週間以上経過、 又はCRSが発現している場合はCRSが回復するまでG-CSF製剤の投与は推奨されない.

関連する臨床試験の結果

JULIET試験¹⁾

概要

  • 単群、 国際共同第II相試験.
  • 再発又は難治性のDLBCL患者を対象にTisa-celの有効性および安全性を評価.
  • 対象:2レジメン以上の化学療法を施行した再発または難治性で、 自家造血幹細胞移植施施行後に再発または自家造血幹細胞移植非適応のDLBCL患者.
  • 投与量:CAR発現生T細胞として5.0×10⁸個 (用量許容範囲1.0×10⁸~5.0×10⁸個).

結果

  • 追跡期間中央値:14ヵ月 (0.1-26).
  • 奏効期間中央値:未達.
  • 奏効率 (部分奏効以上):部分奏効以上 52% (95%CI 42-62)、 完全奏効 40%、 部分奏効 12%.
  • 12ヵ月時点の奏効維持率:全患者 65% (95%CI 49-78)、 完全奏効 79% (95%CI 60-89).
  • 全生存期間中央値:12ヵ月 (95%CI -未達).
  • 12ヵ月時点の全生存率:全患者 49% (95%CI 39-59)、 完全奏効 90% (95%CI 74-96).
  • 安全性 (8週以内):CRS、 神経系事象、 感染症、 発熱性好中球減少症、 投与後28日目までに回復しない血球減少、 腫瘍崩壊症候群.

JULIET試験長期フォローアップ²⁾

結果

  • 追跡期間中央値:40.3ヵ月 (37.8-43.8).
  • 奏効率 (部分奏効以上):部分奏効以上 53% (95%CI 43.5-62.4)、 完全奏効 39%、 部分奏効 14%.
  • 奏効維持期間:未達.
  • 36ヵ月時点の奏効維持率:60.4% (95%CI 46.1-72.0).
  • 無増悪期間中央値:2.9ヵ月 (95%CI 2.3-5.2).
  • 生存期間中央値::11.1ヵ月 (95%CI 6.6-23.9).

参考文献

  1. N Engl J Med. 2019 Jan 3;380(1):45-56.
  2. Lancet Oncol. 2021 Oct;22(10):1403-1415.

最終更新:2022年12月24日
監修医師:HOKUTO編集部医師

レジメン
Tisa-cel (Tisagen lecleucel)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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キムリア®:CD19-CAR-T
2023年05月29日更新

Tisa-cel:チサゲンレクルユーセル(キムリア®)

投与量コース投与日
CAR発現生T細胞として0.6×10⁸~6.0×10⁸個1-Day1

前投薬

Infusion reaction軽減のため、 投与30~60分前に抗ヒスタミン薬、 解熱鎮痛薬を投与.

その他

製造販売業者が提供する講習を受けた医療従事者が実施する.
投与の2日前までに必要に応じてリンパ球除去化学療法を行う.
サイトカイン放出症候群の緊急時に備えて、 トシリズマブの在庫を確保する.
細胞生存率を最大に保つため、 解凍してから30分以内に静脈内投与を完了する.

概要

本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

薬剤情報

*適正使用ガイドは「ノバルティスファーマ株式会社」 の外部サイトへ遷移します.

主な有害事象

JULIET試験¹⁾より引用

投与後8週以内

  • 投与後30日以内の死亡 (3例;病勢進行)
  • サイトカイン放出症候群 (58%、 ≧Grade3 22%)
  • 感染症 (34%、 ≧Grade3 20%)
  • 投与後28日目までに回復しない血球減少症 (44%、 ≧Grade3 32%)
  • 神経系事象 (21%、 ≧Grade3 12%)
  • 発熱性好中球減少症 (15%、 ≧Grade3 15%)
  • 腫瘍崩壊症候群 (1%、 ≧Grade3 1%)

投与後8週以降

  • サイトカイン放出症候群 (0%、 ≧Grade3 0%)
  • 感染症 (39%、 ≧Grade3 18%)
  • 神経系事象 (5%、 ≧Grade3 3%)
  • 発熱性好中球減少症 (2%、 ≧Grade3 2%)
  • 腫瘍崩壊症候群 (0%、 ≧Grade3 0%)

特徴と注意点

作用機序

  • レンチウイルスベクターを用いて抗CD19キメラ抗原受容体 (Chimeric Antigen Receptor;CAR) をコードする遺伝子を患者自身のT細胞に導入したCAR発現生T細胞を構成細胞とする細胞加工製品である.
  • CD19を発現したがん細胞をCAR発現生T細胞が認識すると、 主要組織適合遺伝子複合体とは非依存的に導入T細胞の増殖、 活性化、 標的細胞に対する攻撃、 導入T細胞を持続させるシグナルが伝達され、 CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 、 濾胞性リンパ腫 (FL) に対し抗腫瘍効果を示すと考えられている.

適応疾患

  • 再発又は難治性のCD19陽性のB-ALL
  • 再発又は難治性のDLBCL
  • 再発又は難治性のFL

適格基準【DLBCL】

  • 再発または難治性のDLBCL
  • 以下1. 2. のいずれかの場合であって、 CD19抗原を標的としたCAR-T療法の治療歴がない、 かつ、 自家造血幹細胞移植の適応とならない又は自家造血幹細胞移植後に再発した患者
  1. 初発の患者では化学療法を2回以上再発の患者では再発後に化学療法を1回以上施行し、 化学療法により完全奏効が得られなかった又は完全奏効が得られたが再発した場合
  2. FLが形質転換した患者では通算2回以上の化学療法を施行し、 形質転換後には化学療法を1回以上施行したが、 形質転換後の化学療法により完全奏効が得られなかった又は完全奏効が得られたが再発した場合

白血球アフェレーシス

  • 十分量のTリンパ球を含む非動員末梢血単核球を採取し、 白血球アフェレーシス産物を凍結保存する.
*「ノバルティス白血球アフェレーシス参照マニュアル」 を参照.

リンパ球除去化学療法前の抗腫瘍療法 (ブリッジング療法)

  • Tisa-celの製造を待っている期間に患者の病態を安定させるため、 腫瘍量等に応じて抗腫瘍療法 (ブリッジング療法) を実施する.

JULIET試験におけるブリッジング療法》

  • 91.9%がブリッジング療法を実施
  • 多剤併用レジメン;CHOP療法、 GDP療法、 ICE療法、 DHAP療法 (リツキシマブ併用)
  • 単剤レジメン;トロホスファミドミド (国内未承認)、 ベンダムスチン、 メトトレキサート等

リンパ球除去化学療法【DLBCL】

  • Tisa-cel投与前にリンパ球数を減少させることで、 投与されたCAR発現生T細胞の生着と恒常性の維持に基づく生体内の増殖を促進させる.
  • Tisa-cel投与の2日前までに完了する. ただし、 Tisa-cel投与予定日前の1週間以内の末梢血白血球数が1,000/mm³未満等、 患者の状態により省略可能.
  • DLBCLに用いるリンパ球除去化学療法:シクロホスファミド 250mg/m²+フルダラビン 25mg/m²を3日間.
  • シクロホスファミドによるGrade 4の出血性膀胱炎の既往がある、 又はシクロホスファミドに抵抗性を示す場合のリンパ球除去化学療法:ベンダムスチン 90mg/m²を2日間.

投与時の注意事項

  • B型肝炎又はC型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者は、 肝炎ウイルスが再活性化される可能性がある.
  • HIV感染者はウイルスが増加する可能性がある.
  • Tisa-cel受領時及び投与前に、 静注用バッグに貼付されたラベルの記載が患者本人の情報と一致していることを確認する.
  • Infusion reaction軽減のため、 Tisa-cel投与の約30~60分前に抗ヒスタミン薬と解熱鎮痛薬を投与する.
  • 生命を脅かす緊急事態を除き、 副腎皮質ステロイド薬は使用しない.
  • サイトカイン放出症候群 (CRS) の緊急時に備え、 トシリズマブを2回投与分以上準備する.
  • 静注用バッグは解凍終了後30分以内に静脈内投与を完了する.
  • 白血球除去フィルターは使用せず、 ラテックスフリーの点滴ルートを用いる.
  • 注入速度は約10~20mL/minとし、 投与前後に生理食塩水にてプライミングを実施する.
  • ジメチルスルホキシド (DMSO) 及びデキストランを含有しており、 アナフィラキシー等の過敏症反応を誘発する可能性がある.
  • HIV-1を基に開発されたレンチウイルスベクターを使用しているためHIV核酸増幅検査で偽陽性になることがある.
  • 移植のために血液、 臓器、 組織及び細胞を提供しないよう指導する.

副作用と対策【サイトカイン放出症候群;CRS】

  • 活性化されたT細胞により放出されるサイトカインによって引き起こされる全身性炎症反応.
  • 体内でのCAR発現生T細胞の増殖、 活性化及び腫瘍細胞の死滅の結果発現する.
  • Tisa-cel投与後1週間は患者の状態に注意し、少なくとも4週間は観察を継続する.
  • 症状:高熱、 悪寒、 筋肉痛、 関節痛、 悪心、 嘔吐、 下痢、 発汗、 発疹、 食欲不振、 疲労、 頭痛、 低血圧、 呼吸困難、 呼吸不全、 肺水腫、 頻呼吸、 低酸素症、 凝固障害、 心不全、 不整脈、 腎不全、 肝障害、 播種性血管内凝固症候群、 毛細血管漏出症候群、 血球貪食症候群、 マクロファージ活性化症候群、 急性呼吸窮迫症候群等.
  • DLBCL患者のCRSリスク因子:投与前の高腫瘍量.
  • CRS発現時期中央値 (範囲):3.0 (1-51) 日 (JULIET試験).
  • CRS持続期間中央値 (範囲):7.0 (2-30) 日 (JULIET試験).

《キムリア®点滴静注サイトカイン放出症候群管理アルゴリズム》

JULIET試験におけるCRS治療》

  • トシリズマブ投与:14% (1回投与:5%、 2回投与:9%).
  • トシリズマブ+副腎皮質ステロイド:10%.
  • 酸素吸入:42.2%.
  • 気管挿管:12.5%.
  • 高用量の昇圧剤:10.9%.
  • 透析:7.8%.
  • ICU入室:42.4%.

副作用と対策【神経系事象】

  • 発現メカニズムは不明. 多くは一過性であり、 ほとんどが支持療法もしくは治療を要せず症状が消失.
  • Tisa-cel投与後少なくとも8週間は自動車の運転及び危険を伴う行動に従事しないよう指導する.
  • 症状:脳症、 せん妄、 不安、 浮動性めまい、 振戦、 意識障害、 失見当識、 頭痛、 錯乱、 激越、 痙攣発作、 無言症、 失語症等.
  • 神経系事象発現時期中央値 (範囲):6日 (JULIET試験).
  • 神経系事象持続期間中央値 (範囲):13日 (JULIET試験).

副作用と対策【感染症】

  • 低γグロブリン血症又は無γグロブリン血症や重篤な遷延する血球減少に伴い、 細菌、 真菌、 ウイルス等による重度の感染症や発熱性好中球減少症が現れることがある.
  • 患者の易感染状態に応じた標準的な感染予防療法を実施する.

副作用と対策【低γグロブリン血症】

  • 正常なB細胞にもCD19が発現しているため、 一時的又は持続的にB細胞の枯渇が引き起こされ、 低γグロブリン血症を発症することがある.
  • CAR発現生T細胞が患者の体内で持続する限り、 低γグロブリン血症が持続する可能性がある.
  • 定期的に免疫グロブリンを測定し、 必要に応じて免疫補充療法を実施する.

副作用と対策【血球減少・造血器疾患】

  • Tisa-cel投与後28日目までに回復しないGrade 3以上の好中球減少症、 白血球減少症、 リンパ球減少症、 血小板減少症及び貧血が現れることがある.
  • 再生不良性貧血、 骨髄機能不全等を発症する可能性がある.
  • 血球減少には血液製剤、 骨髄増殖因子 (G-CSF等) 、 抗菌薬等の投与を実施する.
  • G-CSF製剤はCRSを悪化させる可能性があるため、 Tisa-cel投与後3週間以上経過、 又はCRSが発現している場合はCRSが回復するまでG-CSF製剤の投与は推奨されない.

関連する臨床試験の結果

JULIET試験¹⁾

概要

  • 単群、 国際共同第II相試験.
  • 再発又は難治性のDLBCL患者を対象にTisa-celの有効性および安全性を評価.
  • 対象:2レジメン以上の化学療法を施行した再発または難治性で、 自家造血幹細胞移植施施行後に再発または自家造血幹細胞移植非適応のDLBCL患者.
  • 投与量:CAR発現生T細胞として5.0×10⁸個 (用量許容範囲1.0×10⁸~5.0×10⁸個).

結果

  • 追跡期間中央値:14ヵ月 (0.1-26).
  • 奏効期間中央値:未達.
  • 奏効率 (部分奏効以上):部分奏効以上 52% (95%CI 42-62)、 完全奏効 40%、 部分奏効 12%.
  • 12ヵ月時点の奏効維持率:全患者 65% (95%CI 49-78)、 完全奏効 79% (95%CI 60-89).
  • 全生存期間中央値:12ヵ月 (95%CI -未達).
  • 12ヵ月時点の全生存率:全患者 49% (95%CI 39-59)、 完全奏効 90% (95%CI 74-96).
  • 安全性 (8週以内):CRS、 神経系事象、 感染症、 発熱性好中球減少症、 投与後28日目までに回復しない血球減少、 腫瘍崩壊症候群.

JULIET試験長期フォローアップ²⁾

結果

  • 追跡期間中央値:40.3ヵ月 (37.8-43.8).
  • 奏効率 (部分奏効以上):部分奏効以上 53% (95%CI 43.5-62.4)、 完全奏効 39%、 部分奏効 14%.
  • 奏効維持期間:未達.
  • 36ヵ月時点の奏効維持率:60.4% (95%CI 46.1-72.0).
  • 無増悪期間中央値:2.9ヵ月 (95%CI 2.3-5.2).
  • 生存期間中央値::11.1ヵ月 (95%CI 6.6-23.9).

参考文献

  1. N Engl J Med. 2019 Jan 3;380(1):45-56.
  2. Lancet Oncol. 2021 Oct;22(10):1403-1415.

最終更新:2022年12月24日
監修医師:HOKUTO編集部医師

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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