概要
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

はじめに

癌治療に伴う口腔合併症には、 粘膜炎、 唾液の変化、 味覚の変化、 感染症、 歯肉出血などがある。 特に味覚の変化は、 食欲低下、 エネルギー摂取量の低下、 体重減少を来す可能性がある。 

本稿では癌治療に伴う味覚障害を概説する。

疫学

発症頻度

癌患者の味覚障害の有病率は20-86%と言われており¹⁾、 特に化学療法治療患者の有病率は56.3%、 放射線治療患者では66.5%、 化学放射線治療患者では76%と報告されている²⁾。

発症頻度は高く、 原因や対処法を理解しておく必要がある

発症時期

化学療法開始後から1週間程度で発症・悪化するが³⁾、 一般的に治療終了後に症状が改善²⁾。

1年後までには正常またはそれに近いレベルに戻るとされる²⁾

症状

味覚減退、 味覚消失、 解離性味覚障害 (甘みだけわからない等) 、 異味症・錯味 (異なる味に感じる) 、 悪味症、 味覚過敏、 自発性異常味覚 (口の中に何もないのに苦みを感じる) ⁴⁾

化学療法による味覚障害では、 塩味と酸味が最も影響を受けやすいとされる³⁾

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原因

化学療法や分子標的薬による味覚障害の原因として、 唾液中などを介して薬剤が口腔内に分泌されることによる味覚受容体への直接的な刺激などが挙げられる。 薬物除去後も持続するような味覚障害では、 味蕾への直接的な損傷によるものと考えられる⁵⁾。
  • 頭頸部への放射線療法は、 味細胞の直接的な損傷、 味蕾および唾液腺の損傷を介して、 味覚障害を引き起こす可能性がある⁶⁾。
  • 癌に対する治療 (放射線治療や外科的治療) に加えて、 炭水化物・脂質代謝の変化、 口腔微生物叢の変化、 口腔粘膜炎、 亜鉛欠乏、 唾液の量と組成の変化なども、味覚に影響を及ぼすとされる。 嗅覚障害も味覚を変化させる可能性があるう¹⁾³⁾。
  • 癌治療に伴う唾液腺機能低下や長期の免疫抑制による、 口腔カンジダ症も味覚障害を来す可能性がある⁵⁾。

関連する「抗癌剤」の例³⁾

関連する「分子標的薬」の例

検査⁴⁾

  • 血液検査:貧血の有無、 微量元素 (亜鉛、 銅、 鉄) 、 ビタミンB12など
  • 味覚機能検査:濾紙ディスク法、 電気味覚検査など
  • 唾液分泌検査

治療・対策

予防的口腔ケア

治療開始前からの口腔ケアは、 味覚障害の改善や、 味覚変化の出現を遅延させる¹⁾。

亜鉛剤の内服

低亜鉛血症 (<80μg/dL) の場合、 亜鉛剤の内服を行う⁷⁾。

抗真菌薬の使用

口腔カンジダ症を認めた場合は、 抗真菌薬の使用を検討する⁷⁾。

その他の対策

低亜鉛血症などの明らかな原因がない場合、 確率された治療法はないが、 症状に応じて下記が検討される。

  • 口腔乾燥への対策として人工唾液、 唾液腺 (耳下腺・顎下腺・舌下腺) のマッサージ
  • 口腔粘膜炎への対策
  • 氷片による口腔内の冷刺激⁸⁾
  • 栄養指導²⁾
  • 食事へのアドバイス (例:ガムやキャンディーを噛む。 調味料を加えたり、 増やすことで食品の味や風味を増強させるなど)⁵⁾
  • 心因的要素が強い場合は、 心療内科へのコンサルトも検討する。

参考文献

  1. Taste and smell disturbances in cancer patients: a scoping review of available treatments. Support Care Cancer. 2021 Jan;29(1):49-66. PMID: 32734392
  2. A systematic review of dysgeusia induced by cancer therapies. Support Care Cancer. 2010 Aug;18(8):1081-7. PMID: 20495984
  3. Taste and Smell Disorders in Cancer Treatment: Results from an Integrative Rapid Systematic Review. Int J Mol Sci. 2023 Jan 28;24(3):2538. PMID: 36768861
  4. 日本口腔外科学会マニュアル作成委員会、 社団法人日本病院薬剤師会、 重篤副作用総合対策検討会. 重篤副作用疾患別対応マニュアル薬物性味覚障害
  5. Oral complications of cancer and cancer therapy: from cancer treatment to survivorship. CA Cancer J Clin. 2012 Nov-Dec;62(6):400-22. PMID: 22972543
  6. Radiation-Related Alterations of Taste Function in Patients With Head and Neck Cancer: a Systematic Review. Curr Treat Options Oncol. 2018 Nov 9;19(12):72. PMID: 30411162
  7. 任智美 他. 味覚障害の基礎と臨床. 口腔・咽頭科 30:31-35, 2017.
  8. Functional effects of cold stimulation on taste perception in humans. Odontology. 2017 Jul;105(3):275-282. PMID: 27550339

最終更新日:2023年12月16日
監修医師:HOKUTO編集部監修医師

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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2023年12月16日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

はじめに

癌治療に伴う口腔合併症には、 粘膜炎、 唾液の変化、 味覚の変化、 感染症、 歯肉出血などがある。 特に味覚の変化は、 食欲低下、 エネルギー摂取量の低下、 体重減少を来す可能性がある。 

本稿では癌治療に伴う味覚障害を概説する。

疫学

発症頻度

癌患者の味覚障害の有病率は20-86%と言われており¹⁾、 特に化学療法治療患者の有病率は56.3%、 放射線治療患者では66.5%、 化学放射線治療患者では76%と報告されている²⁾。

発症頻度は高く、 原因や対処法を理解しておく必要がある

発症時期

化学療法開始後から1週間程度で発症・悪化するが³⁾、 一般的に治療終了後に症状が改善²⁾。

1年後までには正常またはそれに近いレベルに戻るとされる²⁾

症状

味覚減退、 味覚消失、 解離性味覚障害 (甘みだけわからない等) 、 異味症・錯味 (異なる味に感じる) 、 悪味症、 味覚過敏、 自発性異常味覚 (口の中に何もないのに苦みを感じる) ⁴⁾

化学療法による味覚障害では、 塩味と酸味が最も影響を受けやすいとされる³⁾

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原因

化学療法や分子標的薬による味覚障害の原因として、 唾液中などを介して薬剤が口腔内に分泌されることによる味覚受容体への直接的な刺激などが挙げられる。 薬物除去後も持続するような味覚障害では、 味蕾への直接的な損傷によるものと考えられる⁵⁾。
  • 頭頸部への放射線療法は、 味細胞の直接的な損傷、 味蕾および唾液腺の損傷を介して、 味覚障害を引き起こす可能性がある⁶⁾。
  • 癌に対する治療 (放射線治療や外科的治療) に加えて、 炭水化物・脂質代謝の変化、 口腔微生物叢の変化、 口腔粘膜炎、 亜鉛欠乏、 唾液の量と組成の変化なども、味覚に影響を及ぼすとされる。 嗅覚障害も味覚を変化させる可能性があるう¹⁾³⁾。
  • 癌治療に伴う唾液腺機能低下や長期の免疫抑制による、 口腔カンジダ症も味覚障害を来す可能性がある⁵⁾。

関連する「抗癌剤」の例³⁾

関連する「分子標的薬」の例

検査⁴⁾

  • 血液検査:貧血の有無、 微量元素 (亜鉛、 銅、 鉄) 、 ビタミンB12など
  • 味覚機能検査:濾紙ディスク法、 電気味覚検査など
  • 唾液分泌検査

治療・対策

予防的口腔ケア

治療開始前からの口腔ケアは、 味覚障害の改善や、 味覚変化の出現を遅延させる¹⁾。

亜鉛剤の内服

低亜鉛血症 (<80μg/dL) の場合、 亜鉛剤の内服を行う⁷⁾。

抗真菌薬の使用

口腔カンジダ症を認めた場合は、 抗真菌薬の使用を検討する⁷⁾。

その他の対策

低亜鉛血症などの明らかな原因がない場合、 確率された治療法はないが、 症状に応じて下記が検討される。

  • 口腔乾燥への対策として人工唾液、 唾液腺 (耳下腺・顎下腺・舌下腺) のマッサージ
  • 口腔粘膜炎への対策
  • 氷片による口腔内の冷刺激⁸⁾
  • 栄養指導²⁾
  • 食事へのアドバイス (例:ガムやキャンディーを噛む。 調味料を加えたり、 増やすことで食品の味や風味を増強させるなど)⁵⁾
  • 心因的要素が強い場合は、 心療内科へのコンサルトも検討する。

参考文献

  1. Taste and smell disturbances in cancer patients: a scoping review of available treatments. Support Care Cancer. 2021 Jan;29(1):49-66. PMID: 32734392
  2. A systematic review of dysgeusia induced by cancer therapies. Support Care Cancer. 2010 Aug;18(8):1081-7. PMID: 20495984
  3. Taste and Smell Disorders in Cancer Treatment: Results from an Integrative Rapid Systematic Review. Int J Mol Sci. 2023 Jan 28;24(3):2538. PMID: 36768861
  4. 日本口腔外科学会マニュアル作成委員会、 社団法人日本病院薬剤師会、 重篤副作用総合対策検討会. 重篤副作用疾患別対応マニュアル薬物性味覚障害
  5. Oral complications of cancer and cancer therapy: from cancer treatment to survivorship. CA Cancer J Clin. 2012 Nov-Dec;62(6):400-22. PMID: 22972543
  6. Radiation-Related Alterations of Taste Function in Patients With Head and Neck Cancer: a Systematic Review. Curr Treat Options Oncol. 2018 Nov 9;19(12):72. PMID: 30411162
  7. 任智美 他. 味覚障害の基礎と臨床. 口腔・咽頭科 30:31-35, 2017.
  8. Functional effects of cold stimulation on taste perception in humans. Odontology. 2017 Jul;105(3):275-282. PMID: 27550339

最終更新日:2023年12月16日
監修医師:HOKUTO編集部監修医師

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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