能澤一樹 (名古屋市立大学大学院医学研究科共同研究教育センター臨床研究戦略部)
4ヶ月前
米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) の乳癌領域における注目演題について、 名古屋市立大学大学院医学研究科共同研究教育センター臨床研究戦略部先端医療・臨床研究開発学分野特任講師の能澤一樹先生にご解説いただきました。
今回、 乳癌領域ではプレナリーセッション (学会中でもっとも学問的に優れたインパクトのある研究発表) の報告はありませんでした。 しかしながら、 非常に興味深い演題が多数報告されましたので、 HOKUTOユーザーの皆様に共有します。
第一に、 参加者が非常に多いことが印象的でした。 昨年のASCOが約4万人であったようですが¹⁾、 今年はより熱気を感じる学会でありました。 各会場で満員が続出しており、 海外の有名なドクターですら着席できないという事態があったようです。
ポスター発表も国内学会とは熱気が違い、 通過することが難しいほどの人混みもしばしば見かけました。
乳癌領域では、 これからの臨床を変えうる研究として
❶ DESTINY-Breast06試験
❷ Post-MONARCH試験
❸ EMERALD試験
の試験結果が報告されました。
ASCO 2022では、 1~2回の前治療歴があるHER2低発現乳癌に対する抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカンの有効性を報告したDESTINY-Breast04試験²⁾がプレナリーセッションで報告され、 歴史的イベントになりました。 しかし、 今回はその時と比較して、 インパクトはやや劣っていたのかもしれません。
理由として、 DESTINY-Breast06試験においては
―の2点が挙げられます。 もちろん、 今後、 HER2低発現HR陽性転移再発乳癌の1次標準治療としてトラスツズマブ デルクスカンは推奨されることになると思いますが、 2次治療での使用も選択肢になるかもしれません。
現在、 HR陽性HER2陰性進行乳癌の1次治療はアロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬です。 2次治療では、 アロマターゼ阻害薬とは別の内分泌療法が選択されますが、 そこにCDK4/6阻害薬アベマシクリブを併用することの有効性は明らかにされていませんでした。 今回、 本試験において有意なPFSの延長を認めたことから、 1次治療でCDK4/6阻害薬を使用したとしても、 2次治療でのアベマシクリブ上乗せは有効であることが示されました。
ただし今回の試験では、 1次治療におけるCDK4/6阻害薬としてはパルボシクリブが59%の割合で選択されており、 必ずしも同じCDK4/6阻害薬を1~2次治療で使用しても良いか、 ということに関しては結論が出ていません。 現在、 西日本がん研究機構 (WJOG) によるWJOG14220B (AGAIN) 試験が国内において進行中で、 アベマシクリブの継続使用に関する有効性について報告される予定です。
再発・転移性のHER2陽性乳癌に対する標準治療は、 CLEOPATRA試験³⁾の結果をもって長らく抗HER2抗体ペルツズマブ+抗HER2抗体トラスツズマブ+ドセタキセルの3剤併用 (HPD) 療法でした。 しかしながら、 ドセタキセルでみられる副作用 (爪障害、 浮腫、 倦怠感、 脱毛、 など) により治療継続が難しい患者さんがいました。
そこで、 ドセタキセルに比べて副作用が軽いとされているエリブリンをトラスツズマブおよびペルツズマブと併用した3剤併用療法におけるHPD療法への非劣性を証明した研究がEMERALD試験です。
神奈川県立がんセンター乳腺外科部長の山下年成先生が発表され、 世界にそのインパクトを与えました。 今後日本および世界のガイドラインに本試験の結果がどのように記載・推奨されるのか、 非常に楽しみです。
¹⁾ ASCO23: An Insider’s Guide to Navigating the Meeting. April 26, 2023
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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