HOKUTO編集部
1年前
2016年に刊行された「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン」(編:日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)が、 2023年7月に改訂された。 同ガイドラインの主な改訂点と概要について、 第28回日本緩和医療学会における神戸大学附属病院緩和支持治療科・特命教授の山口崇氏の講演から紹介する。
タイトルを「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン」から「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン」に変更した。 前タイトルの「呼吸器症状」では扱う範囲が広範すぎるので「呼吸困難」に絞った。 一方、 対象疾患は今後がん以外にも拡大する心づもりで「がん患者」から「進行性疾患患者」に変更した。
「非薬物療法」についての推奨を、 がん患者以外にも当てはまるよう内容を改めた。
一方「薬物療法」に関する推奨は、 「がん患者」の「呼吸困難」に絞った。 推奨作成にあたっては、 エビデンスの系統的レビュー/メタ解析をあらためて実施し()、 原則としその結果に基づいた。
前回に比べ薬物療法の順序が詳細に記された。
コルチコステロイド適応あり
コルチコステロイド全身投与 → モルヒネ全身投与/オキシコドン全身投与 → ベンゾジアゼピン系薬追加
コルチコステロイド適応なし
モルヒネ全身投与/オキシコドン全身投与 → ベンゾジアゼピン系薬追加
以下、 上記に沿い薬物治療について概説する。
<推奨引用> 肺病変があるがん患者の呼吸困難に限定して、 コルチコステロイドの全身投与を行うことを提案する(推奨度2C;弱い推奨,エビデンスの確実性は低い)
コルチコステロイドについては、 「肺病変がある」場合に限り用いるよう「提案」されている。 これは、 呼吸困難を改善する主な作用機序は抗炎症作用による浮腫軽減だと考えられるためであり、 ルーチンに全例投与すべきものではないとのメッセージが含まれています。 推奨としては前回に比べシンプルになった。
◆モルヒネ
<推奨引用> がん患者の呼吸困難に対して、 モルヒネ全身投与を行うことを推奨する(推奨度1B;強い推奨,エビデンスの確実性は中程度)
がん患者の呼吸困難に対するオピオイドの第一選択としてはモルヒネが「推奨」されている。 既報の臨床試験の結果では、 モルヒネはプラセボを有意に上回る呼吸困難改善作用が示されているためである。 一方で、 他のオピオイドよりも有効性が高いかに関しては十分な知見は得られていいない。
◆オキシコドン
<推奨引用> がん患者の呼吸困難に対して、 オキシコドン全身投与を行うことを提案する(推奨度2C;弱い推奨,エビデンスの確実性は低い)
モルヒネの代替薬として、 オキシコドンが「提案」されている。 小規模ランダム化試験において統計学的な有意差あるいは非劣性の証明はできていないものの、 がん患者においてオキシコドンが第一選択薬のモルヒネと同程度の呼吸困難改善作用が示唆されたことを根拠にしている (Jpn J Clin Oncol 2018;48:1070-1075)。
◆ヒドロモルフォン
<推奨引用> がん患者の呼吸困難に対するヒドロモルフォン全身投与に関しては明確な推奨ができない(推奨度-C;推奨の強さなし,エビデンスの確実性は低い)
ヒドロモルフォンはプラセボとの比較試験で優越性が証明されていないため(J Pain Symptom Manage 2008; 36: 29-38)、 有効であるという根拠が現時点で乏しいと判断され、 今回のガイドラインでは「明確な推奨ができない」とされた(新規)。
◆フェンタニル
<推奨引用> がん患者の呼吸困難に対して、 フェンタニル全身投与を行わないことを提案する(推奨度2C;弱い推奨,エビデンスの確実性は低い)
フェンタニルは運動負荷下の呼吸困難に関するデータしかなく、 かつメタ解析ではプラセボと有意差を示せなかったため(Int J Clin Oncol 2023年6月20日オンライン版)、 「行わないことを提案する」と記された。
なお上記推奨は、 ヒドロモルフォンを除き、 前回から基本的に変更はない。 またコデインとジヒドロコデインに関する推奨が削除された。
<推奨引用> がん患者の呼吸困難に対して、 ベンゾジアゼピン系薬の単独投与を行わないことを提案する(推奨度2C;弱い推奨,エビデンスの確実性は低い)がん患者の呼吸困難に対して、 ベンゾジアゼピン系薬をオピオイドに併用することを提案する(推奨度2C;弱い推奨,エビデンスの確実性は低い)
ベンゾジアゼピンの単独投与の呼吸困難改善作用はプラセボと有意差が示せていない一方、 不十分なエビデンスながら、 モルヒネへの追加併用では有意な呼吸改善作用増強が報告されている(Jpn J Clin Oncol 2023; 53: 327-334)。
そのためガイドラインでは、 単独投与は「行わないことを提案」とする一方、 オピオイドへの併用は「提案する」という位置づけである。 この点も旧版ガイドラインと基本的に変更はない。
最後に山口氏は、 HOKUTOの取材に対し、 「呼吸困難は、 がん患者だけでなく多くの進行性疾患(心不全、 慢性呼吸器疾患、 神経変性疾患など)で頻度が高く、 患者さん(そしてそのご家族も)を苦しめる重要な症状です。 現実的にはすべての呼吸困難を改善させるのは難しいですが、 それでも呼吸困難緩和のための薬物療法・非薬物療法を適切に行うことで、 症状をやわらげ、 生活の質を高めることができることは多いです。 今回のガイドラインでは薬物療法に関してはがん患者を対象としたものとしましたが、 日々の診療で呼吸困難の対応に困る際に役立てていただければと思います。 将来的にはがん以外の多くの疾患に関する内容にガイドラインを広げていくとともに、 より明確な臨床の道標を示すためにこの分野の臨床研究を進めて行きたいと思います」と述べた。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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