栄養療法マニュアル
1年前
本コンテンツは造血幹細胞移植時の栄養療法について、 専門医の視点からわかりやすい解説を行う企画です。 是非とも臨床の参考としていただければ幸いです。
高カロリー輸液は経腸栄養と比して肝障害のリスクが高いことは古くから知られている¹⁾²⁾。 組織学的には脂肪肝を呈する。 Grauらの報告によると経腸栄養群と比して高カロリー輸液群ではさまざまなパターンの肝障害が多く、 検査結果にて高カロリー輸液に伴うものかどうかを判別するのは難しいことがわかる¹⁾。
▼高カロリー輸液の減量
高カロリー輸液に伴う肝障害 (parenteral nutrition-associated liver disease ; PNALD) を認めた場合には、 経口摂取もしくは経腸栄養を増やして高カロリー輸液を減らすのが原則である。
▼脂肪乳剤の投与状況の確認
輸液の減量が難しい場合には脂肪乳剤が投与されているかどうかを確認することも重要である。 脂肪乳剤自身も高カロリー輸液であり肝障害時には投与を控えることも考慮すべきであるが、 これまでの報告では高カロリー輸液に占める脂肪乳剤の割合が低い場合に肝障害が出現しやすいとされている³⁾⁴⁾⁵⁾。 つまり、 過剰なブドウ糖の投与が脂肪肝を招きやすいことを示唆している⁶⁾。 その為、 無脂肪での高カロリー輸液は避けなければならない。
本邦においては脂肪乳剤が肝障害のリスクを増やすように理解されている場合もあるが、 これまでの臨床試験の結果からは必ずしもそうではない。
▼利胆薬
PNALDに対する薬物療法としては確立されたものはない⁷⁾。 ただし、 少数例の検討では、 ウルソデオキシコール酸は有効であるとされており、 著者の経験でも同種移植後のウルソデオキシコール酸は有用である⁸⁾⁻¹¹⁾。 ウルソデオキシコール酸は肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候 (VOD/SOS) 予防目的で内服されていることが通常であるが¹²⁾¹³⁾、 VOD/SOSに限らず移植後の肝障害を軽減することが報告されている¹⁴⁾。 ウルソデオキシコール酸自体の毒性は軽微でさらに非常に安価である為、 もし使用されていない例や少量の場合にはウルソデオキシコール酸の追加や増量は試みる価値がある。
▼肝機能改善薬
L-システイン塩酸塩水和物/グリシン/グリチルリチン酸一アンモニウム配合剤 (強力ネオミノファーゲンシー®)、 内服ではDL-メチオニン/グリシン/グリチルリチン酸一アンモニウム配合剤 (グリチロン®) に関しても同種移植後に有効である印象はあるがデータはない。 その他、 あまり報告はないが著者の経験ではベザフィブラートも有用である。 多くの場合ベザトール®SR錠 200mg/日で十分効果が得られる。 おそらく脂肪肝の要素に効果があるものと考えているが、 効果が比較的早く観察される点が興味深い。
▼脂肪乳剤
欧州などでは脂肪乳剤にもさまざまな種類がある。 例えばω-3系脂肪酸も有用である可能性が高いが¹⁵⁾¹⁶⁾、 本邦では内服薬 (イコサペント酸エチル ; エパデール®) しかなく、 その効果に関しては今後検証する必要がある。
▼カルニチン製剤
その他に、 カルニチン製剤 (レボカルニチン ; エルカルチン®) が本邦でも使用可能となっている。 新生児など小児領域では脂肪肝に対して有用であったとする報告もあり、 米国静脈経腸栄養学会 (ASPEN) のガイドラインでも中心静脈栄養 (TPN) 使用時にはカルニチン製剤の使用が勧められている¹⁷⁾。 成人においては脂肪肝に関しては長期投与にて有用性が示されているが、 PNALDではない点は注意が必要である¹⁸⁾。 成人のPNALDにおいても理論的には有用である可能性があるが、 今後の検討課題である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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