Beyond the Evidence
8ヶ月前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説となっておりますので、 是非参考としてください。
未治療HER2陰性・CLDN18.2陽性切除不能進行再発胃癌の薬物療法の第一選択は?
HER2陰性CLDN18.2陽性胃癌において、 HER2陰性の未治療切除不能進行・再発胃癌に対して、 2024年3月26日に抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブが承認された。 今後は未治療HER2陰性胃癌の化学療法において、 標準治療であるニボルマブ併用化学療法と、 ゾルベツキシマブ併用化学療法のいずれを選択すべきかということはクリニカル・クエスチョン(CQ) となる。
ゾルベツキシマブ併用とニボルマブ併用化学療法の前向き無作為化比較試験はなく、 このCQに対する決定的なエビデンスはない。
それぞれのエビデンスを紐解くと、 化学療法単独に対する全生存期間 (OS) のHRは、 SPOTLIGHT試験でHR 0.75 (95%CI 0.60-0.94)、 GLOW試験でHR 0.771 (95%CI 0.615-0.965)で、 第Ⅱ相無作為化比較試験FASTを含めた統合解析の結果では、 HR 0.72 (95%CI 0.61-0.86) となっている¹⁾²⁾。
ゾルベツキシマブの臨床試験のまとめ
一方で、 CheckMate649試験のintention to treat (ITT) 解析では、HR 0.80 (95%CI 0.68-0.94) のため、 点推定からはややゾルベツキシマブの方が上乗せ効果は良好にみえる³⁾。 ただし、 ゾルベツキシマブ投与初期の消化器毒性などを考慮したものではなく、 もちろん背景などが異なる試験間比較であるため、 治療選択の決定的根拠とはならない。
▼日本人サブセットでの結果
ニボルマブ併用化学療法がATTRACTION-4試験において本邦および東アジアではOSのベネフィットが示されなかったのに対し、 ゾルベツキシマブの日本人サブセットはSPOTLIGHT試験、 GLOW試験ともに少数例であるが無増悪生存期間 (PFS) 中央値が20ヵ月近くとなっている。 日本人のサブセットでも点推定値が非日本人よりもやや良好であり、 これまでの常識を覆す結果を示している¹⁾²⁾⁴⁾。
ATTRACTION4試験の結果から、 初回治療でゾルベツキシマブを先行し、 3次治療以降でニボルマブを先行するというのが最も受け入れやすいだろう。
MSI-H/dMMRにおけるニボルマブの非常に良好な効果を考えると、 dMMR/CLDN18.2陽性例に対してはニボルマブ併用化学療法を選択するのは理にかなっている。 CLDN18.2陽性胃癌のうちdMMRは5%程度と報告されている⁵⁾⁶⁾。
KEYNOTE-859試験の結果から、 ペンブロリズマブも初回化学療法で使用可能になる可能性があるが、 PD-L1 CPS10以上 (22C3) では化学療法単独に関するHRは0.65であり、 CPS10以上 (28-8) では、 ニボルマブのCheckMate-649試験におけるHRの点推定値も0.66であることから、 ゾルベツキシマブの毒性を考慮して、 CPS10以上ではニボルマブ (承認後、 ペムブロリズマブ) を選択した方がよい症例がいるかもしれない⁷⁾。
また、 SPOTLIGHT試験とGLOW試験では一貫して食道胃接合部では上乗せ効果がみられていない。 これを単純に解釈すると、食道胃接合部ではニボルマブを先行するという考えもあり得る。 しかし、 これはあくまでサブグループの結果であり、 他の交絡する要因もあり得る。
▼日本人サブセットでの結果 (食道胃接合部)
日本人サブセットは、 SPOTLIGHT試験で8例 (65例中)、 GLOWで4例 (51例中) という極めて限られた集団であり、 本邦での使い分けの議論では影響は限定的である。
ゾルベツキシマブの登場により、 これまでHER2陽性以外には初回で測定が必要となるバイオマーカーに、 CLDN18.2が加わった。 さらに上述のようにMMRの測定も必要であり、 PD-L1も含めた複数の免疫染色の同時施行は、切除不能進行・再発胃癌の薬物療法を行う上では必須要件になる。
pMMR、 PD-L1 CPS5以上 (28-8) かつCLDN18.2陽性まで絞り込んだ上で、 使い分けの議論をすべきと考える。
CLDN18.2を標的とした治療法は、 ゾルベツキシマブ以外のモノクローナル抗体だけでも10以上あり、 その他に二重特異性抗体や抗体薬物複合体、 CAR-Tなど多様なアプローチが試みられている。
CLDN18.2陽性胃癌は、 若年者やスキルス胃癌あるいは、 腹膜播種・腹水を伴う難治性胃癌の患者さんを多く含んでいる。 ここに新しい治療選択肢が出てきた意義は大きく、 さらに治療法が改善していくことを望む⁸⁾。
ゾルベツキシマブ vs ニボルマブといった議論に終始することなく、 ゾルベツキシマブの登場により、 今後発展性のある議論が行われることを個人的には願っている。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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