本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではございません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
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概要
寒冷凝集素症 (cold agglutinin disease:CAD) は、 冷式抗体による自己免疫性溶血性貧血 (AIHA) の一型. 寒冷凝集素のサブクラスは通常IgMである.
特発性慢性と続発性
- 特発性慢性CAD:多くは血中に単クローン性IgMが検出され、 通常軽鎖はκ鎖である.
- 続発性CAD:悪性リンパ腫 (リンパ形質細胞性リンパ腫) や、 感染症 (マイコプラズマ、 EBウイルス、 サイトメガロウイルスなど) が原因となる. 通常、 リンパ形質細胞性リンパ腫による寒冷凝集素は単クローン性で、 感染症による寒冷凝集素は多クローン性である.
低温環境下で発症
- 四肢末端などの低温環境下で寒冷凝集素が赤血球表面に結合し、 赤血球凝集を引き起こし末梢循環障害をきたす.
- 四肢末端などの低温環境下で赤血球に結合した寒冷凝集素に補体C1qが結合する. 体幹部で加温されると寒冷凝集素は赤血球表面より遊離するが、 補体の古典的経路の活性化が持続することで血管内溶血をきたしたり、 肝臓で血管外溶血をきたす.
症状
溶血性貧血に伴う症状
末梢循環障害に伴う症状
- 先端チアノーゼ (四趾、 踵、 鼻尖、 耳介)
- 網状皮斑
※これらの症状は、 加温により消失.
血栓塞栓症
※冬のみならず夏においても高かったことが報告されている。
検査・診断¹⁾²⁾
血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑う.
- 広範囲直接クームス試験を行い、陽性の場合は免疫性溶血を疑い、特異的直接クームス試験で赤血球上のIgGと補体成分 (C3d) を確認する. C3dが陽性 (IgGも弱陽性の場合がある) の場合にはCADを疑う.
- 寒冷凝集素価が64倍以上であればCADと診断される.
- 寒冷凝集素価の上昇が顕著ではない (64~128倍) 場合など、 判断に 迷う場合にはDAggTを行う. DAggTが陽性であれば病的意義のある寒冷凝集素の可能性が高くなる.
DAggT:直接凝集試験 (CADスクリーニング、 病的意義確認)
予後と血栓症発症リスク
デンマークの患者レジストリーを用いたコホート解析 (CAD患者72例 vs 対照群720例).
- 生存率 (CAD患者 vs 対照群):1年 83% vs 97%、 3年 76% vs 90%、 5年 61% vs 82%.
- 続発性CADを除外した特発性CADにおける死亡調整ハザード比:2.35 (p=0.003、 95%CI 1.34-4.13).
- 血栓症発症率 (CAD患者 vs 対照群):1年 7.2% vs 1.9%、 3年 9.0% vs 5.3%、 5年 11.5% vs 7.8%.
- 結論:CAD患者は生存率が低く、 血栓塞栓症発症率が高い.
日本人のCAD患者におけるコホート解析.
- CAD患者 (特発性CADと続発性CAD合わせて) 344例 vs 対照群 3,440例.
- 全ての血栓塞栓症発症割合:CAD患者 34.9% vs 対照群 17.9% (p<0.0001).
- 動脈系の血栓塞栓症発症割合:CAD患者 25.0% vs 対照群 4.6% (p<0.0001).
- 静脈系の血栓塞栓症発症率:CAD患者 8.4% vs 4.0% (p<0.0001).
※血栓塞栓症の発症率:特発性CAD患者 38.6% vs 対照群 18.0% (p<0.001)、 オッズ比 3.4 (95%CI 2.6-4.4、 p<0.0001).
治療 ¹⁾²⁾
- 寒冷暴露の回避と保温が最も重要.
- 副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤に不応のことが多い.
- 続発性CADの場合、 原疾患 (悪性リンパ腫や感染症) の治療を行う.
- リツキシマブは有効なことが多いが、 本邦では保険適用外である.
- C1sモノクローナル抗体である、 スチムリマブ (エジャイモ®) が保険承認され利用可能となった.
※エジャイモ®の名称は、 Enjoy Moreに由来しているらしい.
参考文献
- 自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド 令和 1年改訂版.
- Blood. 2021 Mar 11;137(10):1295-1303.
- Blood Adv. 2019 Oct 22;3(20):2980-2985.
- Int J Hematol. 2020 Sep;112(3):307-315.
最終更新:2022年7月6日
監修医師:伊勢原協同病院血液内科 扇屋大輔