海外ジャーナルクラブ
3ヶ月前
米国心臓協会 (AHA) や米国心臓病学会 (ACC) などによる 「肥大型心筋症 (HCM) の管理に関するガイドライン2024年版*¹」 ¹⁾²⁾が同年5月に発表された。 同ガイドラインについては、 その主要な変更点などについてACCの委員会が 「一目で分かる、 2024肥大型心筋症ガイドライン*²」 ³⁾でまとめている。 本稿では、 その要点を一部紹介する。
推奨クラスごとに"Benefit>>>Risk(Class1)からBenefit>>Risk, Benefit≧Risk, Benefit=Risk, Risk>Benefit(Class3)"と、 大変わかりやすく書かれています。
また、 最初に"What is new"、 その後に"Top 10 Take-home messages"と、 読者が使いやすいよう配慮されています。
「HCMの管理に関するガイドライン2024年版」 には、 「Top 10 Take-Home Messages」 が記載されている。
①shared decision-makingは、 最善の臨床的ケアを提供する上で不可欠である
②適切な専門知識を有する集学的HCMセンターへの紹介が重要になり得る
③家族歴を注意深く確認し、 HCM患者に遺伝的なカウンセリングや遺伝学的検査の選択肢提示を行うことが治療の基本である
④心臓突然死 (SCD) リスクの評価は管理の重要な要素である
⑤小児HCM患者では、 SCDのリスク因子が成人患者とは異なる
⑥心筋ミオシン阻害薬は、 症候性の閉塞性HCMの治療に使用可能となった
⑦侵襲的な中隔縮小療法は、 専門施設の経験豊富なHCMチームによって実施されれば、 薬剤抵抗性または重症の流出路閉塞患者に安全で効果的である
⑧心房細動を合併したHCM患者では、 経口抗凝固療法を既定の治療選択肢と考えるべきである
⑨運動負荷試験は、 運動耐容能や運動誘発性左室流出路閉塞の判定に有用である
⑩運動の健康への効果はHCM患者でも得られる
10のメッセージのなかでも、 より影響が大きく、 実臨床との乖離に取り組んでいるものとして、 ⑤ 「小児・青年期の心臓突然死リスク」、 ⑥ 「心筋ミオシン阻害薬」、 ⑩ 「運動」 についての3メッセージを選択している。
各メッセージのポイントとそれに紐づく推奨の変更を以下に示した。 なお、 詳細は同ガイドラインを参照されたい。
「一目で分かる、 2024年肥大型心筋症ガイドライン」 で選ばれた3つのTake-Home Messagesの1つは、 小児・青年期のSCDのリスク評価に関するものである。
Take-Home Message (一部抜粋)
小児HCM患者では、 SCDのリスク因子が成人患者とは異なる。 また、 小児でのリスク層別化は年齢によって異なり、 体格の違いも考慮しなければならない。
成長が予測されデバイスによる合併症リスクがより高い若年患者では、 植え込み型除細動器 (ICD) の植え込みの閾値は成人とは異なる。 こうした違いに対しては、 小児HCMの治療に精通した総合的なHCMセンターで対処するのが最善である。
同ガイドラインの2020年版では、 小児・青年期におけるSCDのリスク評価に関する推奨はなかったが、 2024年版で新たに盛り込まれた。 概要は以下の通りである。
推奨クラス1 (強い) Benefit >>> Risk
小児および青年期のHCM患者に対しては、 初回評価時およびその後1~2年ごとに包括的、 系統的で非侵襲的なSCDリスク評価を行うことが推奨される。 心停止または持続性心室性不整脈の既往をはじめとする危険因子の評価が含まれるべきである。
推奨クラス1 (強い) Benefit >>> Risk
以下のいずれかに該当する小児および青年期のHCM患者に対しては、 心臓MRI (CMR) 画像診断が遅延造影 (LGE) 所見で心筋線維化の程度を評価するのに有益である。
推奨クラス2a (中等度) Benefit >> Risk
16歳未満のHCM患者に対しては、 心エコーパラメータおよび遺伝子型などによって推計5年間突然死リスクを算出することが妥当であり、 ICD植え込みに関するshared decision-makingに有用である可能性がある。
次に紹介する主要なTake-Home Messageは、 心筋ミオシン阻害薬に関するものである。
Take-Home Message
心筋ミオシン阻害薬は、 症候性の閉塞性HCMの治療に使用可能となった。 この新しいクラスの薬剤は、 アクチンとミオシンの相互作用を阻害することで心筋収縮力を低下させ、 左室流出路閉塞 (LVOTO) を軽減する。 mavacamtenは、 現在FDAに承認されている唯一の薬剤である。 心筋ミオシン阻害薬は、 第1選択薬による治療で十分な症状緩和が得られない閉塞性HCM患者にとって有益となり得る。
同ガイドライン2020年版では言及のなかった心筋ミオシン阻害薬であるが、 2024年版では追加された。
▼推奨クラス1 (強い) Benefit >>> Risk
β遮断薬または非ヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬にもかかわらずLVOTOに起因する症状が持続する閉塞性HCM患者には、 心筋ミオシン阻害薬の追加 (成人患者のみ)、 またはジソピラミド (房室結節伝導抑制薬との併用)、 または経験豊富な施設での中隔縮小治療 (SRT) が推奨される。
3つ目の主要なTake-Home Messageは運動に関するものである。
Take-Home Message
運動の健康への効果はHCM患者でも得られるというデータが増えている。 健康的なレクリエーション運動 (強度 : 軽い [3METs未満]、 中等度 [3~6METs]、 激しい [6METs超] ) は、 短期間の研究では心室性不整脈のリスク上昇との関連は示されていない。
患者がパフォーマンスや競技を目的として激しい運動トレーニングを行う場合は、 包括的な議論を行い、 潜在的なリスクと利益に関するHCM専門家の意見を求め、 個別のトレーニング計画を作成し、 定期的な再評価のスケジュールを立てることが重要である。
同ガイドライン2020年版では、 推奨クラス2b (弱い) で 「HCM患者の高強度のレクリエーション活動や中~高強度の競技スポーツ活動への参加は、 突然死などのリスクが高まる可能性を伝える専門家との包括的評価と話し合いを毎年繰り返した上で、 検討可能である」 とされていた。
2024年版では、 これが 「激しいレクレーション活動」 と 「競技スポーツ」 に関する2つの推奨になったほか、 運動の全面的制限が有益ではない旨の推奨が新たに追加された。
推奨クラス2a (中等度) Benefit >> Risk
HCM患者が激しいレクリエーション活動に参加することは、 毎年の包括的評価と、 潜在的な利益とリスクのバランスとる専門家とのshared decision-makingの後には妥当である。
推奨クラス2b (弱い) Benefit ≧ Risk
高い身体能力を有するHCM患者については、 HCMのアスリートの管理経験があり、 毎年の包括的評価のほか、 潜在的な利益とリスクのバランスをとるshared decision-makingを行う専門家による審査後に、 競技スポーツへの参加を検討可能である。
推奨クラス3 : 有益性なし (中等度) Benefit = Risk
ほとんどのHCM患者では、 激しい運動や競技スポーツの全面的な制限は適応とならない。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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