【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)
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HOKUTO編集部

3年前

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)

本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。 この記事は【2022/02/11の情報】をもとに作成されています。 実際の使用においては、 個々の患者の病態や、 最新の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

第2の経口治療薬 パキロビッド®︎

2022年2月10日、 厚労省は新型コロナウイルスに対する新たな治療薬 「ニルマトレルビル/リトナビル (パキロビッド®)」を特例承認しました¹⁾.

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)

米製薬大手Pfizer社が開発した薬剤で、 米Merck社「モルヌピラビル (ラゲブリオ®)」に続いて2例目軽症者向け経口治療薬の承認となります.

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)
Pfizer社によると、 パキロビッドはCOVID-19による入院または死亡を89%減少させる画期的な治療薬であり、 軽症患者に対する治療のゲームチェンジャーになり得ると世界各国から期待されています²⁾.

作用機序について²⁾

パキロビッドはニルマトレルビルに、 その効果をブースター的に高めるリトナビルを加えた合剤です. それぞれについて以下に述べます.

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)

ニルマトレルビル

ニルマトレルビルは「メインプロテアーゼ (Mpro)阻害薬」という種類の薬剤です. 新型コロナウイルスは長いポリペプチドを合成し、これを使いやすく切断することで自らの構成タンパクとします. ニルマトレルビルは、 このメインプロテアーゼを阻害することで、 ウイルスが複製に必要なタンパク質を合成できなくするのです.

リトナビル

リトナビルは肝臓でのCYP3A4による薬剤代謝を阻害するため、 ニルマトレルビルなどの「プロテアーゼ阻害薬」と呼ばれる薬物群の血中濃度を高める働きがあります. なお、 リトナビルは、 以前新型コロナウイルスに対して効果がある可能性が指摘されていた(現在は否定) 抗HIV薬 「ロピナビル/リトナビル (カレトラ®)」にも使われています.

服用方法¹⁾

用量用法

成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、以下を1日2回5日間経口投与します.

⚫︎ニルマトレルビルとして1回300mg (2錠) 
⚫︎リトナビルとして1回100mg (1錠)

同時に食事の有無に関わらず投与できることも説明しておきましょう.

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)

対象患者

基本的に 「発症5日以内の有症状者」 が対象です.

添付文書では臨床試験における投与経験を踏まえるよう注意書きがあります(EPIC-HRなど).

添付文書 5. 効能又は効果に関連する注意
5.1 臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること。 また、本剤の投与対象については最新のガイドラインも参考にすること。 [17.1.1参照]
5.2 重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は確立していない。

服薬指導

シート1枚に朝夕の2回分が含まれているため、 患者に服用方法を確実に指導しましょう. また以下に述べるように腎機能障害を有する患者においてはニルマトレルビルの減量が必要なため、 あらかじめ2錠 (1回分)のうち1錠を抜いておきましょう.

とにかく併用禁忌薬が多い!¹⁾³⁾

本剤はCYP3Aを強く阻害するため、 併用禁忌薬が非常に多いことを必ず押さえておきましょう.禁忌薬リストから、特に日常診療でよく見かける薬剤を抜粋しました.

実際の使用においては必ず最新の資料、 電子添付文書をご確認下さい

降圧薬

✖️ アゼルニジピン(カルブロック®︎)

✖️ オルメサルタン メドキソミル/

アゼルニジピン(レザルタス®)

抗不整脈薬

✖️ アミオダロン塩酸塩(アンカロン®)

✖️ ベプリジル塩酸塩水和物(ベプリコール®)

✖️ フレカイニド酢酸塩(タンボコール®)

抗凝固薬

✖️ リバーロキサバン(イグザレルト®)

肺高血圧症治療薬

✖️ シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ®)

✖️ タダラフィル(アドシルカ®)

✖️ リオシグアト(アデムパス®)

脂質異常症治療薬

✖️ ロミタピドメシル (ジャクスタピッド ®)

抗菌薬

✖️ ボリコナゾール(ブイフェンド®)

✖️ リファブチン(ミコブティン®)

✖️ リファンピシン(リファジン®)

精神科領域

✖️ トリアゾラム(ハルシオン®)

✖️ ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®)

✖️ エスタゾラム(ユーロジン®)

✖️ ミダゾラム(ドルミカム®)

✖️ ブロナンセリン(ロナセン®)

✖️ ルラシドン塩酸塩(ラツーダ®)

抗けいれん薬

✖️ カルバマゼピン(テグレトール®)

✖️ フェノバルビタール(フェノバール®)

✖️ フェニトイン(アレビアチン®)

✖️ ホスフェニトインナトリウム (ホストイン®)

勃起不全治療薬

✖️ シルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ®)

✖️ バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ®)

その他

✖️ コルヒチン(コルヒチン®︎)

✖️ セイヨウオトギリソウ

(セント・ジョーンズ・ワート)

上記の薬剤以外にも多くの禁忌薬と併用注意薬が存在します. パキロビッドを使用する際は、 必ずお薬手帳を確認し、 併用禁忌薬や併用注意薬の有無を確認し、 投与が可能かを慎重に判断しましょう.

その他、使用を注意すべき患者層¹

△ HIV感染者

リトナビルはもともとHIVに対して使用される薬剤であるため、 本剤がプロテアーゼ阻害薬に対する耐性を誘発する可能性が指摘されています. 添付文書では、 リトナビルまたはコビシスタットを含むレジメンを服用中の患者では、 リトナビルの用量調整は不要とされています.

△ 腎機能障害(eGFR<60mL/min)

30≦eGFR<60mL/minの患者では、 ニルマトレルビルを1回あたり150mg (1錠) に減量します. eGFR<30mL/minの患者では使用は推奨されていません.

△ 肝機能障害

リトナビルは肝代謝される薬剤であり、 血中濃度が高く維持されてしまう可能性があります.

△ 妊婦

添付文書によると、 臨床曝露量 (AUC) の10倍に相当する用量のニルマトレルビルは、 妊娠ウサギにおいて胎児体重の減少を惹起したことが認められています. また、 リトナビルは妊娠ラットの胎盤を通過して胎児へ移行することが報告されています. このことから、 治療の有益性がリスクを上回ると判断される場合にのみ投与を考慮します.

△ 授乳婦

リトナビルは乳汁中に移行するため、 適宜授乳の継続または中止を検討します.

△ コルヒチン投与中の患者

投与は推奨されていません.

根拠論文¹⁾²⁾⁴⁾

EPIC-HR(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in High-Risk Patients) はPfizer社主導で行われた、 外来患者を対象とした第2/3相二重盲検ランダム化比較試験⁴⁾です.

研究デザイン

Patient

酸素需要のない(SpO₂≧93%) 、発症5日以内、かつ重症化リスク*を少なくとも1つ以上有する18歳以上の患者1,361名(詳しい組入れ基準、除外基準は文献4を参照)

*重症化リスク例
・60歳以上
・BMI 25kg/m²超
・喫煙者 (過去30日以内の喫煙、かつ生涯に100本以上の喫煙)
・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与
・慢性肺疾患(喘息は処方薬の連日投与を要する場合のみ)
・高血圧の診断を受けている
・心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中、TIA、心不全、狭心症など)
・1型又は2型糖尿病
・慢性腎臓病
・鎌状赤血球症
・神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)
・医学的複雑性を付与するその他の疾患 (遺伝疾患、メタボなど)
・限局性皮膚がんを除く活動性のがん
・医療技術への依存(コロナと無関係な持続陽圧呼吸療法等)

Intervention

ニルマトレルビル300mg及びリトナビル100mgを併用で1日2回5日間投与

Comparison

プラセボ投与

Outcome

無作為化28日目までのSARS-CoV-2による感染症に関連のある入院または理由を問わない死亡の発生率

研究結果

中間解析結果

主要評価項目 (28日目までの入院+死亡) は投与群0.8%(3/389) に対し、プラセボ群7.0%(27/385) であり(p<0.001) 、 死亡は投与群0%(0/389) 、 プラセボ群で1.8%(7/385) でした. この結果から、 パキロビッドはCOVID-19による入院または死亡を89%減少させると報告されています.

全患者解析結果

また、 全患者解析では主要評価項目(28日目までの入院+死亡)は投与群0.7%(5/697) に対してプラセボ群6.5%(44/682) であり(p<0.001)、 死亡は投与群0%(0/697)、 プラセボ群で1.3%(9/682) でした.

まとめ

パキロビッドは軽症〜中等症Ⅰの酸素需要のない患者に対して高い有効性を有し、 COVID-19治療のゲームチェンジャーになり得ます. 投与対象は外来患者が中心ですが、 他の治療薬の流通状況や地域性によっては、 入院患者に対しても投与する流れができていくかもしれません.

しかし、 ブースターであるリトナビルの影響で併用禁忌薬が非常に多いことが気がかりです. 重症化リスクを有するような患者は、 すでに何かしらの投薬がされている可能性が高いです. 本剤を投与する際は必ずお薬手帳を確認し、 相互作用を確認すべきです. 投与対象になり得る患者さんには、 来院前に必ず投薬内容がわかるものを持参するように医療サイドから働きかけることも重要でしょう.

また、 すでに承認されたモルヌピラビル (ラゲブリオ®) と比較しても非常に高い有効性が期待できるため、 すぐに流通が不安定になることが予想されます.この点にからも、 投与対象については慎重に判断すべき薬剤と言えるでしょう.

参考文献

  1. 厚生労働省:新型コロナウイルス治療薬の特例承認について
  2. Pfizer : Pfizer’s Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate Reduced Risk of Hospitalization or Death by 89% in Interim Analysis of Phase 2/3 EPIC-HR Study
  3. Pfizer : PAXLOVID™ (nirmatrelvir tablets; ritonavir tablets)
  4. Clinical Trials. gov : EPIC-HR: Study of Oral PF-07321332/Ritonavir Compared With Placebo in Nonhospitalized High Risk Adults With COVID-19

【速報】第ニの経口治療薬であるパキロビッド®の注意点 (新型コロナウイルス治療薬)
監修・図表作成:聖路加国際病院救急部 清水真人

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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