西日本がん研究機構(WJOG)
8日前

今年WJOG Boot Campに挑戦し、 幸いにもMVP賞およびベストコンセプト賞(グループチューター含む、 同率)をいただくことができました。 参加を通じて感じたこと、 得られたものをご報告したいと思います。

西日本がん研究機構 (WJOG) は、 呼吸器・消化器・乳腺領域のがん臨床試験を医師主導で推進する研究グループです。 そのWJOGが主催する 「Boot Camp」 (旧 「虎の穴」 ) は、 若手医師が臨床試験の立案を実践的に学ぶプログラムです。
参加への道のりは1月末の応募から始まります。 自分なりのClinical Questionを提出し、 書類選考を通過すると、 4月にチームの顔合わせが行われます。 2026年度からは従来の呼吸器・消化器・乳腺に臓器横断チームが加わり、 4チームでの活動となりました。 そこから8月の合宿までの約4ヵ月間、 オンラインで議論を重ねながら臨床試験のコンセプトを練り上げ、 合宿でブラッシュアップするコンセプトをチームごとに選定します。 合宿は3日間にわたり、 計4回のプレゼンテーションが行われます。 回を重ねるごとに発表時間も討論時間も長くなり、 議論は一層深まっていきます。
肺癌治療は近年、 目まぐるしい進歩を遂げています。 長らく標準とされてきた治療が新たな薬剤の登場や術式の進歩によって見直され、 日本からも診療を変えるような臨床試験が次々と世界に発信されています。 こうした変化の中で、 肺癌診療に携わる呼吸器外科医として、 まずは臨床試験そのものをきちんと理解したいという思いがありました。 臨床試験が何を明らかにし、 何を明らかにしていないのか、 その理解が曖昧なままでは得られた結果を目の前の患者さんの診療に正しく活かすことはできません。
勉強を進めるうちに、 治療や診断の技術がこれほど進歩してもなお多くのunmet needsが残されていることを実感するようになりました。 そして、 既存のエビデンスを理解するだけでなく、 自ら臨床上の疑問を研究の問いに変え、 それに答える試験を立案する方法を学びたいと考えるようになりました。 当院から過去に参加したフェローがいたことも興味を持つきっかけの一つでした。
自分から望んで飛び込んだとはいえ、 想像以上にタフなプログラムでした。 合宿の3日間が最大の山場だと思っていましたが、 実際にはその1週間前から準備に追われ、 合宿が始まる頃にはすでにかなりのエネルギーを消費していました。
何より印象的だったのは、 参加者のモチベーションの高さです。 それぞれ異なる背景や強みを持った参加者が本気で臨床試験を立案しようと議論を重ねる、 非常に刺激的な環境でした。 正直なところ議論についていくので精一杯の場面も少なくありませんでした。 全国から集まったこれほど多くの熱意ある同世代の医師と議論する経験は、 これまでにありませんでした。

チューターの先生方のサポートも非常に手厚いものでした。 呼吸器チームでは、 肺癌診療の第一線で活躍されている錚々たる先生方が、 私たちの未熟なアイデアにも真剣に向き合い忌憚のない意見をぶつけてくださいました。 夜遅くまで一緒に議論し悩んでくださったことには感謝しかありません。 興味深かったのは、 そんな先生方の間でも意見が分かれることがあったことです。 一つのClinical Questionに対しても、 何を重視するかによって試験の方向性は変わり得ます。 正解が一つではないからこそ議論を尽くす必要があるのだと、 肺癌診療の奥深さを改めて感じました。 一方で、 自分の勉強不足から議論を十分に理解できなかった場面もあり、 その悔しさは今も残っています。
また、 他チームからの指摘も鋭いものばかりでした。 専門領域が異なれば、 当然と思っていた前提にも疑問が投げかけられます。 しかし、 それらは決して私たちの提案を否定するためではなく、 より良い試験を作るための建設的な議論でした。 自分たちだけでは気づけない視点に触れられたことも、 大きな学びでした。

一つのチームとして、 このタフなBoot Campを乗り越えられたことは得難い経験でした。 臨床試験の立案は、 より良い治療を実臨床に届けるための入り口にすぎません。 それでも、 一つのコンセプトを形にすることがいかに難しいかを身をもって知りました。 そして、 何より大きな財産となったのは人とのつながりです。 合宿後もチューターの先生方とのやり取りは続いていますし、 他チームの同世代の医師たちとも専門の垣根を越えたつながりができました。 これからそれぞれの場所で研究や診療を続けていく中で、 今回出会った方々とまた一緒に仕事ができればこれほど嬉しいことはありません。
Boot Campへの参加を通じて、 そして参加を終えた今も考え続けているのが、 「良い臨床試験とは何か」 という問いです。
患者さんにとって意味のあるClinical Questionに信頼できる答えを出すこと、 それは臨床試験の根幹だと思います。 しかし、 医学的に重要な問いであっても、 実際に試験を実施できるとは限りません。 患者さんにとっての価値、 医療者が求めるエビデンス、 企業や行政を含めたさまざまな関係者の立場によって、 重視するものも少しずつ異なります。
さらに、 Boot Campで魅力的なコンセプトとして評価されることと実際に試験を遂行し結果を診療に還元できることも、 必ずしも同じではありません。 何を明らかにすべきなのか、 その答えは本当に患者さんのためになるのか、 そして結果が得られたとき、 実際の診療はどう変わるのか。 Boot Campを終えたからといって、 こうした問いに明快な答えを持てるようになったわけではありません。 むしろ考えるべきことの多さを知ったこと自体が、 今回のBoot Campで得た大きな収穫だったように思います。

ここまで読んで少しでも興味を持たれた方は、 ぜひ応募を検討してみてください。
Boot Campの募集は例年1月頃です。 臨床試験の経験や知識は問われません。 日々の診療で感じている素朴な疑問を自分なりのClinical Questionとして書き出してみること、 それが応募への第一歩になります。 詳細な募集案内については、 WJOGの公式サイトの関連情報も確認してみてください。 私自身、 参加を決めた時点では臨床試験立案の知識も経験も乏しく、 自信はほとんどありませんでした。 それでも思い切って参加したことで、 普段の診療だけでは得られなかった経験や出会いに恵まれました。
少しでも興味があればまずは応募してみてください。 いつか皆さんと合宿の場でお会いできることを楽しみにしています。

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。