亀田総合病院
1ヶ月前
2025年1月、『全身性強皮症診療ガイドライン2025年版¹⁾』 (編 : 厚労科研費事業強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン・疾患レジストリに関する研究班 / 協力 : 日本小児リウマチ学会、 日本皮膚科学会、 日本リウマチ学会) が発行されました。 前版からの主な改訂点を全3回 (皮膚・腎・肺) に分けて解説する本企画の第2回は、 腎障害の診療アルゴリズムから重要なポイントをお伝えします (解説 : 亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科部長代理 葉末亮氏)。
全身性強皮症診療ガイドライン2025年版の解説の第2回は 「腎」 についてです。 同ガイドラインで示されている腎病変の診療アルゴリズムより、 各クリニカル・クエスチョン (CQ) のポイントを整理してご紹介します。
CQ1では 「全身性強皮症 (SSc) に合併する腎障害=強皮症腎クリーゼ (SRC) ではない」 という点が強調されています。 SRCはまれな合併症であることを考慮すると、 日常臨床において腎障害を認めた際は、 まず他の原因を検討することが重要です。
なお、 上記のポイントは、 2024年に改訂された英国リウマチ学会 (BSR) の 「The 2024 British Society for Rheumatology guideline for management of systemic sclerosis²⁾」 でも言及されています。 一方、 2023年に改訂された欧州リウマチ学会 (EULAR) の 「EULAR recommendations for the treatment of systemic sclerosis: 2023 update³⁾」 では、 SRCの治療面のみが言及されています。
EULARやBSCのガイドラインでは、 抗好中球細胞質抗体 (ANCA) の扱いが非常に限定的ですが、 日本のガイドラインでは強皮症とANCAの関係についても解説されている点が特徴です。
SScのANCA陽性率は10%前後⁴⁾ と考えられており、 実際にANCA関連血管炎 (AAV) を発症する例はさらに少数です。 また、 過去にSSc治療薬として使用されていたD-ペニシラミンは、 AAVとの関連が示唆されている薬剤であり、 既報の解釈には注意が必要です。
SSc診断時においてANCAのスクリーニング測定は必須ではありませんが、 腎障害発生時には積極的に測定し、 可能な場合には腎生検も検討しましょう。
SRCの主な発症リスク因子としては以下の4点が挙げられています。
また、 詳細解説部分では以下の4点もその他のリスク因子として取り上げられています。
BSRのガイドラインでも 「ARA陽性、 TFRおよびESR上昇を伴う初期のびまん性活動性疾患、 高用量副腎皮質ステロイド (PSL) 投与の既往、 蛋白尿、 高血圧症」 がリスク因子として挙げられており、 日本のガイドラインとも整合性がある内容となっています。
上記のうち抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は、 急速進行のびまん皮膚硬化型SSc (dcSSc) に伴ったSRCを引き起こすだけでなく、 限局皮膚硬化型SSc (IcSSc) や皮膚硬化を伴わないSScでもSRCを発症する要因になる場合があるため、 注意が必要です。
PSLの高用量投与やタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬はいずれもSRC発症リスク因子として考えられており、 使用には注意が必要です。 PSLのリスクは周知が進んでいる一方で、 日本では間質性肺炎にタクロリムスを使用する機会が諸外国に比して多いため、 高リスク症例では他の薬剤も含めて慎重に検討する必要があります。
現時点でSRC治療に有効性が示されている唯一の薬剤はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬です。 ただし、 その予防効果は否定されています。 ACE阻害薬のみで降圧が不十分な場合にはカルシウム拮抗薬 (CCB) やアンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB) の併用も検討されます。
このほか、 近年注目されている治療薬としては、 抗C5抗体エクリズマブが挙げられます。 筆者は、 SRCに血栓性微小血管障害 (TMA) が合併している際に、 エクリズマブが特に有効になるのではないかと考えています。
TMAはさまざまな疾患が背景となって起こりますが、 TMA (特に急性TMA) によって溶血が起こると、 血管内皮のグリコカリックス (glycocalyx) が分解されます⁵⁾。 グリコカリックスの構成成分であるヘパラン硫酸は補体制御因子であるfactor Hを動員するため、 「グリコカリックスの分解=血管内皮上における補体活性化の制御異常 (促進) 」 を意味します。 また、 活性化した補体はグリコカリックスの分解をさらに促進することも示唆されています。
このような病態を合併しているSRCではエクリズマブが特に有効となる可能性があり、 さらなる研究が期待されます。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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