HOKUTO編集部
14日前
例年11月は院外での業務が立て込む時期であり、 その際に日中の寒さを感じる今日この頃である。
今月は、
❶第Ⅲ相無作為化比較試験ARMANI
HER2陰性の進行胃癌に対する初回薬物療法の継続と、 パクリタキセル (PTX) +ラムシルマブ (RAM) 療法への切り替えを比較
❷第Ⅱ相無作為化比較試験VESTIGE
切除可能胃癌の再発高リスク症例に対する術後ニボルマブ (Nivo) +イピリムマブ (Ipi) 療法と、 術後化学療法を比較
❸進行食道扁平上皮癌に対するリポソーマルエリブリン+Nivoを検討した第Ib/Ⅱ相試験
――の3論文を取り上げる。
▼背景
HER2陰性の切除不能な進行胃癌に対する標準的な2次治療として、 PTX+RAM療法が確立されている。 しかし、 標準的な1次治療であるプラチナ系製剤であるオキサリプラチンとフッ化ピリミジン系薬剤の併用療法の継続と、 PTX+RAM療法への早期切り替えを直接比較したデータは乏しいため、 ARMANI試験が行われた。
▼試験デザイン
多施設共同非盲検第Ⅲ相無作為化比較試験ARMANIの対象は、 HER2陰性の切除不能な進行胃癌または食道胃接合部癌で、 1次治療としてFOLFOX (レボホリナート+フルオロウラシル+オキサリプラチン) またはCAPOX (カペシタビン+オキサリプラチン) が行われ、 3ヵ月の腫瘍制御が得られた患者280例だった。
患者は1次治療を継続する対照群 (136例)、 PTX+RAMへの早期切り替えを行う試験治療群 (144例) に1 : 1で無作為に割り付けられた。 患者背景は両群間で同様であり、 主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) だった。
▼試験結果
PFS中央値 (追跡期間中央値 : 43.7ヵ月) は以下の通りであり、 試験治療群の優越性が証明された。
HR 0.61、 同0.48-0.79
治療関連有害事象としては、 以下のものが報告された。
好中球減少 (Grade 3-4)
末梢神経障害 (Grade 3-4)
高血圧 (Grade 3-4)
重篤な有害事象は試験治療群で20%、 対照群で11%に報告された。 そのうち治療関連有害事象は試験治療群で1%(肺塞栓)、 対照群で1%(粘膜炎、 貧血) であり、 治療関連死は認められなかった。
▼結論
ARMANI試験の結果から、 免疫療法や分子標的薬の投与が不適な、 HER2陰性の切除不能な進行胃癌に対しては、 PTX+RAM療法への早期の切り替えが重要な治療戦略となり得ると考えられた。
💬My Opinions
PTX+RAMへの早期切替えでOSも良好
本試験は、 胃癌の1次治療中に、 2次治療の標準治療であるPTX+RAM療法への早期切り替えの意義を検証したイタリアの第Ⅲ相試験である。 今回の研究では、 PFSの延長のみならず、 全生存期間(OS)に関する検討も行われ、 HR 0.75(95%CI 0.58-0.96)と、 こちらもPTX+RAM療法への早期の切り替えで良好な結果が報告されている。 また有害事象に関してもRAINBOW試験等と同様の傾向であり、 管理可能と考えられる。
ICI投与例でも効果が再現されるかが焦点
ただ、 本論文の考察にも記載されているが、 現在ではCheckMate 649試験やKEYNOTE-859試験などでHER2陰性胃癌においても1次治療で免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が用いられ、 さらにはSPOTLIGHT試験やGLOW試験の結果から、 CLDN18.2陽性例では抗CLDN 18.2抗体ゾルベツキシマブも本邦では使用可能となっている。 そのため現在の実臨床においては、 HER2陰性の多くの症例がこれらのICIや分子標的薬を実臨床で投与されていると推察され、 ARMANI試験の結果が、 これらの対象においても再現されるか否かは不明であり、 さらなる検討が必要であろう。
▼背景
切除可能な胃癌や食道胃接合部癌に対して、 術前化学療法の後に手術を行った後の病理所見で、 リンパ節転移陽性または手術マージンが陽性(R1)の場合、 再発高リスクと考えられている。
現在、 CheckMate 577試験の結果から、 術前化学放射線療法 (CRT) 後の手術時の病理所見でnon-pCRと判定された場合、 術後Nivo療法の有効性が確立されており、 切除不能例においてもICIの有効性が証明されている。 そのため、 再発高リスク症例において、 術後Nivo+Ipi療法が予後を改善する可能性が考えられ、 術後化学療法と比較したVESTIGE試験が行われた。
▼試験デザイン
第Ⅱ相国際共同非盲検無作為化比較試験VESTIGEでは、 再発高リスク因子(病理学的リンパ節転移陽性またはR1切除)を有する切除後の胃癌や食道胃接合部癌を対象として、 術後化学療法を対照群、 術後Nivo+Ipi療法を試験治療群と設定された。 主要評価項目は無病生存期間 (DFS) だった。
▼試験結果
VESTIGE試験は189例が登録された段階で、 独立データモニタリング委員会より中止が勧告された。 最終解析の段階で、 追跡期間中央値は25.3ヵ月であり、 98例が試験治療群に、 97例が対照群に割り付けられた。 患者背景は両群で同様だった。
試験結果は以下の通りであり、 DFS中央値に関しては、 試験治療群の優越性は示されなかった
HR 1.55、 同1.07-2.25
12ヵ月時点のDFS割合は以下の通りであった
なお、 新たな有害事象の懸念や早期中止などは認められなかった。
▼結論
VESTIGE試験では、 再発高リスク因子を有する胃癌、 食道胃接合部癌に対する術後療法としてのNivo+Ipi療法は、 術後化学療法と比較してDFSの改善を認めなかった。
💬My Opinions
周術期ではICI上乗せの効果が証明されていない
本試験は、 胃癌術後療法としてのニボルマブとイピリムマブ併用療法の有効性を検討した第Ⅱ相無作為化比較試験である。 切除不能な進行胃癌におけるICIの有効性は証明され、 実臨床でも使用されているが、 胃癌の周術期治療においては、 ATTRACTION-5試験やKEYNOTE-585試験等において、 ICI上乗せの有効性が証明されていない。 唯一、 CheckMate 577試験で術後Nivo療法の優越性が報告されているが、 こちらの試験は食道扁平上皮癌も含まれており、 純粋な腺癌の試験ではない。 そのため、 今後の胃癌の周術期治療にICIが導入されるか否かは、 MATTERHORN試験の結果次第である。
PD-L1陽性例ではICI上乗せが有効な可能性も
ただ上記のように試験結果がネガティブであった試験でも、 サブ解析ではあるが、 PD-L1陽性例などの特定の集団ではICI上乗せの有効性が示唆されている。 そのため、 今後の開発の際には、 バイオマーカーで有効性が期待され得る集団に限定する等の方向性が考えられる。
▼背景
食道癌は本邦で発生頻度の高い癌種の一つであり、 進行期の予後は今でも限定的な疾患である。 そのため、 2次治療の標準治療であるNivoと、 エリブリンのリポソーム製剤 (E7389-LF) との併用療法を検討した第Ib/Ⅱ相試験が実施された。
▼試験デザイン
本試験では、 1次治療でフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系製剤を投与された進行食道扁平上皮癌または腺癌の日本人症例 (35例) を対象に、 NivoとE7389-LFとの併用療法が試験治療として実施された。 主要評価項目は奏効割合(ORR)と設定された。
▼試験結果
試験の結果は以下の通りであった。
頻度の高い治療関連有害事象は以下の通りであった。
▼結論
本試験の結果から、 E7389-LF+Nivo療法は既治療の進行食道癌において、 一定の抗腫瘍効果を示した。 今後さらなる検討が望まれる。
💬My Opinions
Nivoへの新規薬剤の上乗せ効果は乏しい可能性
本試験は、 既治療の進行食道癌において、 Nivoにエリブリンリポソーム製剤を上乗せする新規併用療法を検討した第Ib/Ⅱ相試験である。 2次治療のNivo療法は、 ATTRACTION-3試験の結果から、 ORRは約20%と報告されており、 この点を考えると新規薬剤の上乗せの効果は乏しい可能性が考えられる。 さらに現在では、 食道癌の1次治療でICIを含むレジメンが標準治療として確立されていることから、 本試験と同様の対象における効果は限定的と考えられる。 そのため、 この薬剤が食道癌においてどのように開発がすすめられるのか、 注視する必要がある。
2024年もあと1ヵ月であり、 来月も興味深い論文に出会えることを期待している。
Zolbetuximab+CAPOXでClaudin18.2陽性胃癌の予後改善 : 第Ⅲ相GLOW
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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