寄稿ライター
3日前
こんにちは、 Dr.Genjohです。 財務省の資料から我々保険医の将来を占う短期集中シリーズ 「医師の黄昏~氷河期の到来~」。 第6回では、 いよいよメスが入る医療業界の歪みについてお話します。
財務省の資料 「社会保障」 はコチラ。
連載第5回で、 「医師多数区域」 は医師偏在指標を参考に決定していると紹介しました。 ただ、 よくよく考えてみると大きな欠点があることに気付きます。 以下の極端な例で考えてみましょう。
A医療圏 : 人口1万人。 内科医199人、 外科医1人
B医療圏 : 人口1万人。 内科医50人、 外科医50人
医師偏在指標は科を問わず人口あたりの医師数をカウントします。 つまり、 現行制度では一万人もの住人をたった一人の外科医で支えているA医療圏が、 B医療圏よりも医師多数区域と判断されてしまいます。
この点が問題視され、 今後は地域単位ではなく、 地域における診療科ごとに適正な医師数が設定されるようになっていくと考えられます【図1】。 人気のある都市部の、 人気診療科は間違いなく淘汰の対象となるでしょう。
財務省はなぜ、 医師偏在を殊更に問題視するのでしょう。
都市部の人気診療科に医師が集中するため、 医師の総数を増やしても地方の不人気診療科に携わる人員が一向に増えない現況に業を煮やした…というのは間違いなく理由の一つでしょう。
ただ、 実はもう一つの狙いがあります。 「医師が多い地域での過剰な検査や投薬を減らし、 地域全体での医療費を削減する」 ことです【図2】。
地域に医療を必要とする患者数は限られています。 同じ科の医師が大量に流入すると患者の取り合いが発生し、 必然的に医師一人当たりが診療出来る患者数は減少します。
そこで医師は 「需要の掘り起こし」、 すなわち本来必要な範囲を超えて過剰な検査や投薬をすることで患者一人当たりの単価を上げ、 収入の帳尻を合わせるのです。 (既に監査・指導という形で強力な抑制力が働いていますが…)
掘り起こしがない場合と比べると、 地域全体の医療費は増加してしまうというわけです。
今後は医師が多い地域・診療科で過剰な売り上げ (特定過剰サービス) が発生した場合、 アウトカム指標に照らしてコストに見合った十分な付加価値を生み出しているかが判断されることになります【図3】。
評価基準に満たない場合や、 売り上げが去年と比べて急増した場合には、 1点10円の保険診療単価が下げられたり、 払い戻しを請求されたりする懲罰的な対応が検討されています。
都道府県ごとにみると、 すでに 「特定過剰サービス」 が生まれているのかもしれません。 人口1000人当たり病床数で最小である神奈川県は8.0床。 一方、 最大である高知県は23.3床で、 2.9倍もの差があります【図4左下】。
つまり、 神奈川では外来で治療出来ている比較的軽症の症例を、 高知県ではわざわざ入院で治療していることを意味しています。
【図5】の右側のグラフを見ると、 入院医療費と病床数に明確な相関関係があることは一目瞭然です。
九州や四国、 北海道、 中国などは全体的に入院医療費と病床数が高く、 これらの地域で局所的に過剰となっている病床数の削減は積極的に進められていくでしょう。 病床数の削減に合わせ、 医療従事者の数も調整対象となると思われます。
地方ごとの医師偏在、 診療科ごとの医師偏在、 地方ごとの病床数の偏在…医療界には多くの歪みが存在しています。 しかし、 医療費削減が至上命題となった令和の時代において、 いよいよ適正化の嵐が吹き荒れることになります。
嵐を生き残るために最も効率的な方法は、 供給過剰な領域にあえて突っ込まないことでしょうか。 その中に飛び込むのであるならば、 生き残るために大きな努力を要することとなるでしょう。
次回は医師が選ぶべきステージについてお話します。
なお財務省の専門部会での検討内容を織り込んだ資料 「持続可能な社会保障制度の構築 (財政各論Ⅱ) 」 が公表されました (2025年4月23日)。 本シリーズ終了後、フォーカスアップデート版のミニ連載を予定しています。
Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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