HOKUTO編集部
10ヶ月前
1月31日、 日本臨床腫瘍学会はプレスセミナーを開催し、 2月22~24日に名古屋市で開催される第21回日本臨床腫瘍学会学術集会 (JSMO 2024)で講演予定となる会長企画シンポジウムの概要について発表した。 ここでは、 愛知県がんセンター薬物療法部・部長兼副院長の室圭氏らが司会を務める会長企画シンポジウム 「新規薬剤開発における新しいドラッグロス」 の概要を紹介する。
昨今の日本では、 「ドラッグ・ラグ」 ならぬ 「ドラッグ・ロス」 が喫緊の課題になっている。
ドラッグ・ラグは、 日本ではまだ未承認だが開発中、 あるいは開発検討中であり、 欧米から数年遅れで国内承認される、 新規有効成分を含む医薬品関連の問題を指す。 本邦においては、 2000年代前半に社会問題化した。
一方、 ドラッグ・ロスは、 欧米では承認されているものの、 日本では開発の見込みすらない、 新規有効成分医薬品を含む医薬品関連の問題を指す。
ドラッグ・ラグの原因は大きく3つに分類できる。
1、 治験着手までに時間がかかる
施設面などの体制が未整備のために国際共同治験を実施できる状況ではなかったことや、 金銭的負担、 臨床応用までの関門の多さも課題となった。
2、 治験に関する人員不足
実施施設、 審査側、 および企業の国際共同試験への経験数が少なく、 人手も足りていなかった。
3、 承認システムの問題
国内での承認に必要なプロセスが膨大かつ煩雑であり、 承認までに時間を要した。
2000年代前半にドラッグ・ラグが課題視された後、 国際共同治験の参加推進や、 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) の審査の迅速化、 人員補充など、 さまざまな取り組みが行われた。 その結果、 2012年頃には大腸癌治療薬の一部が世界で先駆けて日本で承認されるなど、 ドラッグ・ラグの改善傾向が認められている。 2015年時点では、 欧米の既承認医薬品における国内未承認薬の割合は56%まで低減した。
しかし2016年以降、 国内未承認薬数および比率が再び増加に転じ (62%)、 2020年末時点では欧米の既承認医薬品72% (243品目のうち176品目) が国内未承認となっている。 そのうちドラッグ・ラグに該当する薬剤は81品目、 ドラッグ・ロスに該当する薬剤が95品目であった。
疾患領域別に国内未承認薬数を比較すると、 最も多いのは抗悪性腫瘍薬である。 次点で全身抗感染症薬、 神経系用剤と続く。 これら3疾患領域が国内未承認薬全体の半数を占め、 特に抗悪性腫瘍薬に関しては2016年末時点で21品目であったものが2020年末に44品目と、 倍増している。
最大の要因は新興 (ベンチャー) 企業開発の未承認薬が顕著に増加したことである。
近年ではかつてのように、 グローバル企業が薬を直接新規開発し、 国際共同治験も行うことはなくなりつつある。 グローバル企業に代わり、 ベンチャー企業が新規薬剤を開発し、 グローバル企業がそれを買う流れに変化している。 日本ではまだ、 この流れに乗れていない。
実際に、 2011-15年のデータでは国内未承認薬27品目のうちベンチャー企業の割合は6品目にしか満たなかったが、 2016-20年の米食品医薬品局 (FDA) 承認の60品目を見ると、 国内未承認薬41品目のうちベンチャー企業の割合は22品目と、 半数以上を占める結果となっている。
このような状況に至った要因としては、 ベンチャー企業のほとんどが日本法人や国内管理人を持たない企業であることや、 日本の承認システムは全て日本語対応で海外の申請を受け入れづらい仕組みになっていることなどが挙げられる。
さらには、 特に未承認薬でピボタル試験に日本が組み入れられなくなっているという問題がある。 人口減少が加速する現在、 かつての古典的な方法では国内で第Ⅲ相試験が実施できず、 患者数が少ない希少癌や小児癌の開発が世界的に増えている中で、 日本はそれらに対応できていない。
承認薬・未承認薬別でピボタル試験への組み入れ状況をみると、 承認薬には組み入れられているものの、 未承認薬では他のアジア諸国に比べても圧倒的に組み入れが少ない。 ベンチャー企業開発の未承認薬が非常に多く、 かつ未承認薬のピボタル試験への組み入れがなされていないため、 日本は試験に参加すらできず、 承認にも繋がらないという問題が浮き彫りになっている。
特に癌領域においては、 ベンチャー企業と希少癌のドラッグ・ロスは大きな問題といえる。
ドラッグ・ラグとドラッグ・ロスの問題は明るい未来に影を落としている。 ドラッグ・ラグ期間は短縮してきたものの、 ラグ期間は平均16.4ヵ月、 海外と国内で企業が異なる場合は44.9ヵ月と、 依然として長いラグが残る。
また、 国内だけでは治験が行えない希少疾患や小児適用薬の開発、 および日本独自の薬価システムなどを起因とした国際共同治験への日本外しにはどのように対応すべきか等に関して、 課題が山積している。
今月開催予定のJSMO2024では、 この喫緊の問題に関する会長企画シンポジウム 「新規薬剤開発における新しいドラッグ・ロス」 が行われる。
開催日時は3日目の2月24日 (土) 9:50~11:50、 会場は1号館4Fレセプションホール。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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