【専門医解説】実臨床で難渋するirAE<1型糖尿病>
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HOKUTO編集部

5ヶ月前

【専門医解説】実臨床で難渋するirAE<1型糖尿病>

【専門医解説】実臨床で難渋するirAE<1型糖尿病>
本稿では仮想の症例における 「経過」と「判断のポイント」を提示しながら、 irAEによる1型糖尿病の特徴や対応法について概説する (解説医師:国立がん研究センター中央病院 小倉望先生)

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症例:55歳男性 食道扁平上皮癌術後

💡 ECOG PS 0

💡 特記すべき既往歴、 生活歴なし

1.初期対応までの経過とポイント

経過

食道扁平上皮癌 pStageⅢの術後化学療法として、 ニボルマブ (480mg/body 4週毎) による治療を開始した。 4回目投与終了後 (治療開始後13週目) より口渇、 多飲、 多尿、 全身倦怠感が出現し、 その後、 意識障害も認めたため救急受診をした。 ④血液検査にて血糖値上昇 (随時血糖 632mg/dL) を認め、 精査・加療目的に緊急入院した。

判断のポイント

➀免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による1型糖尿病の頻度

ICI単剤療法に起因する1型糖尿病は、 抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体により発症することが多く、 その発生頻度 (全Grade)は、 抗PD-1抗体で2~3%、 抗PD-L1抗体では約1%と報告されている¹⁾。 一方、 抗CTLA-4抗体においては、 抗CTLA-4抗体単剤の治療を受けた311例で1型糖尿病の発症が0例と報告されている²⁾。 このように発生頻度は限定的であるが、 1型糖尿病は速やかなインスリン補充療法が必要な病態であることから、 日々の診療において常に意識すべき有害事象の一つである。

②ICIによる1型糖尿病の出現時期

ICIによる1型糖尿病を発症した計71例の解析では、 抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体開始後5~448日 (中央値:49日) で1型糖尿病を発症したと報告されている³⁾。そのため、 ICI開始後1~2ヵ月は特に注意が必要であるが、 その後も発症のリスクを有することから、 ICI投与後も注意が必要な病態である。

③ICIによる1型糖尿病の症状

血糖値の上昇に伴う症状が多く、 口渇、 多飲、 多尿が代表的である。 もし、 ケトーシスやケトアシドーシスを合併すると全身倦怠感や体重減少、 感冒様症状 (発熱や咽頭痛)、 消化器症状 (上腹部痛や悪心・嘔吐)、 意識障害などの症状が出現する。 症例数は限られているが、 ICIによる1型糖尿病時の症状に関して、 本邦からの報告は以下の通りである⁴⁾。

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④ICI開始前・投与中・投与後の確認項目

ICI治療開始前にベースラインとして血糖値、 HbA1cを測定する。 治療開始時には患者に対して1型糖尿病のリスクを説明し、 高血糖症状を疑う場合は直ちに受診または担当医に相談するよう指導を行う。 なお、 ICI投与中は診察毎に高血糖症状の有無を確認し、 血糖値を毎回測定する。 さらにICI投与終了後に1型糖尿病の発症も報告されており、 別の治療に移った場合や経過観察時でも、 ICI治療歴がある場合には、 適宜血糖値やHbA1cをチェックする必要がある。

2.1型糖尿病の治療開始までの経過とポイント

経過

HbA1c、 血中Cペプチド、 抗GAD抗体、 尿検査、 血液ガスの測定を行いつつ糖尿病専門医へコンサルトを行った。 上記検査よりICIによる1型糖尿病およびケトアシドーシスと診断した。 インスリン持続静脈内投与と生理食塩水の輸液による脱水、 高浸透圧の補正と電解質の補正を開始した。

判断のポイント

⑤ICIによる1型糖尿病の検査所見

診断時の随時血糖値 (平均値±SD) は617±248mg/dL、 HbA1cは8.1±1.3%と報告されている³⁾。 また、 内因性インスリンである血中Cペプチドは中央値で0.46ng/mL (基準値:1.1-4.4ng/mL) であり、 膵島関連自己抗体である抗GAD抗体の陽性率は4.8%であった。 尿検査でケトン陽性であればケトーシスを考え、 加えて血液ガスでアシドーシスの進行 (pH<7.30) を認めればケトアシドーシスの合併が疑われる。

⑥糖尿病専門医へのコンサルト

急激な高血糖を認めた場合、 速やかに糖尿病専門医へコンサルトを行い、 必要な検査や入院後の治療法などについて相談する。

⑦治療ストラテジー

ケトーシス、 ケトアシドーシス合併例では、 必要に応じて生理食塩水を用いた輸液による脱水、 高浸透圧の補正と電解質の補正を行いながらインスリン持続静脈内投与を検討する。 他の免疫関連有害事象とは異なり、 1型糖尿病ではステロイドの投与はエビデンスがなく、 血糖値を悪化させる可能性があることから行わない。

3.その後の経過とポイント

経過

インスリン持続投与、 輸液を行い、 血糖値、 電解質、 アシドーシスの改善を認めた。 ➇インスリン持続投与を強化インスリン療法に切り替え、 血糖値の安定を確認し退院となった。 退院後も上記治療を継続し、 入院前に施行していたニボルマブによる術後化学療法を再開する方針となった。

判断のポイント

➇インスリン持続投与後の治療

血糖改善後は皮下注射による強化インスリン療法を行う。 基本的にインスリンを分泌する膵β細胞の機能障害は不可逆的であり、 強化インスリン療法は終生にわたり必要となる。 退院に際しては、 血糖の自己測定やインスリン注射の手技、 低血糖時やシックデイの対応についての指導も必要である。

1型糖尿病の治療⁵⁾
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⑨ICIの再投与

血糖コントロールが安定するまではICIは休薬するが、 インスリン導入により血糖値が安定すればICIの再開は可能となり得る。 1型糖尿病の発症後、 化学療法再開時の制吐薬としてステロイドを使用する場合、 血糖値が著しく上昇する可能性があることから注意を要する。

参考文献

  1. Predictors of the Onset of Type 1 Diabetes Obtained from Real-World Data Analysis in Cancer Patients Treated with Immune Checkpoint Inhibitors. Asian Pac J Cancer Prev. 2020;21 (6) :1697-9. PMID: 32592366
  2. Nivolumab plus ipilimumab or nivolumab alone versus ipilimumab alone in advanced melanoma (CheckMate 067): 4-year outcomes of a multicentre, randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2018 19 (11) :1480-1492. PMID: 30361170
  3. Immune checkpoint inhibitor-induced Type 1 diabetes: a systematic review and meta-analysis. Diabet Med. 2019 36 (9) :1075-81. PMID: 31199005
  4. Characteristics and clinical course of type 1 diabetes mellitus related to anti‑programmed cell death‑1 therapy. Diabetol Int. 2018 10 (1) :58-66. PMID: 30800564
  5. 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2022-2023.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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