日本食道学会
3ヶ月前
本特集では、 第78回日本食道学会で京都大学腫瘍内科学講座教授の武藤学氏に取材した内容を再編し、 3回に分けてお届けします。 アルコールと食道癌リスクに関する医学的最新知見を整理したうえで、 安心して飲酒が楽しめる社会を目指した最新研究についても紹介していきます。第1回となる今回は、 「アルコールと食道癌リスクの関連について」 です。
世界保健機関 (WHO) はアルコールによる健康障害を世界共通の課題としており、 「The SAFER interventions*」 や 「Global alcohol action plan 2022–2030**」 などの活動を通じ、 有害な飲酒を削減する取り組みを進めている。
しかしながら、 日本ではアルコールによる疾病予防対策は⼗分ではない。 2018年のWHOの調査データによると、 日本における年間アルコール消費量は1人あたり7.9リットル/年と世界的にも多く、 日本人の4割が過去30日以内の大量飲酒 (1回あたり6杯以上) の経験者である。
一方で世界では10秒に1人、 日本では1日131人がアルコール飲料に関連した死亡が発生しており、 特に働き盛りの40~64歳ではアルコールが原因の癌による死亡割合が高いことが報告されている。
2024年2月19日に厚生労働省が発出した 「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」 では、 日本人を対象にした疾病別の発症リスクと飲酒量について、 わずか (0g<) な飲酒でも発症リスクが上昇する疾病に、 高血圧、 食道癌、 胃癌 (男性のみ)、 脳出血 (女性のみ) が挙げられている。
さらに、 アジア人の約半数はアルコール代謝酵素のアルデヒド脱水素酵素2型 (ALDH2) が不活性であるとされる (ヘテロ欠損型が40%/ホモ欠損型が10%)。 このうちALDH2ヘテロ欠損型では、 ALDH2が活性している野生型に比べてアセトアルデヒドが19倍血液中に蓄積し、 癌などの疾病にかかりやすい特徴がある。
例えば上表の通り、 ヘテロ欠損型の人がアルコールを1週間に大量摂取すると、 食道癌のリスクは野生型の人と比べ約89倍に上昇する。
これらより、 武藤氏は
「日本人は食道癌リスクが高いALDH2⽋損型が多く、 アルコール健康障害の解決は喫緊の課題であるにもかかわらず、 ⼗分な医療対策はされてこなかった。 食道癌発生予防のためには、 ALDH2ヘテロ⽋損者をより簡便に判別する手法の検討が重要である」
と指摘している。
(第2回に続く)
アルコールと食道がんに関する啓発活動部会 (部会長 武藤学) は、 アルコール関連食道癌の罹患・死亡を減らすことを目的として啓発活動を行っています。 この度 「アルコール飲料と食道がんリスクに関するポスター」 が完成しました。 是非、 ご活用ください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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