HOKUTO編集部
2ヶ月前
近畿大学皮膚科学教室 主任教授の大塚篤司先生による連載です。 第4回はアトピー性皮膚炎治療で用いる外用薬について、 基本と使い方を解説いただきます。
アトピー性皮膚炎治療の第一選択薬はステロイド外用薬である。 適切なランクのステロイド薬を選択し、 病変の性状と部位によって剤型を使い分け、 炎症を十分に抑制するよう使用することが重要である。
なお、 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」¹⁾でも、 この原則は変わっていない。
ステロイド外用薬は、 副腎皮質ホルモンを化学的に合成・修飾した薬剤である。 強力な抗炎症作用と免疫抑制作用をもち、 アトピー性皮膚炎の炎症や痒みを抑えるのに有効である。
ステロイド外用薬は、 その効力の強さによってランク分けされている。 日本では、 ストロンゲスト (最強)、 ベリーストロング (非常に強い)、 ストロング (強い)、 ミディアム (中程度)、 ウィーク (弱い) の5段階に分類される。 適切なランクの選択は、 皮疹の重症度に基づいて行う。
関連ツール : ステロイド外用薬の相対的力価
乾燥、 軽度の紅斑、 鱗屑が主体の場合、 ミディアム以下のランクを選択する。
中等度までの紅斑、 鱗屑、 少数の丘疹、 掻破痕が主体の場合、 ストロングまたはミディアムランクを選択する。
高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅斑、 丘疹の多発、 高度の鱗屑・痂皮の付着、 びらん、 多数の掻破痕、 痒疹結節などを主体とする場合、 ベリーストロングランクを第一選択とする。
ベリーストロングでも効果不十分な場合は、 ストロンゲストを選択する。
ステロイド外用薬には軟膏、 クリーム、 ローション、 テープ剤などの剤型がある。 剤型の選択は、 病変の性状と部位を考慮して行う。
油脂性で保湿力が高く、 乾燥した皮疹に適している。 刺激が少ないため、 顔面や乳幼児にも使用できる。
水分と油分が混ざった乳剤性で、 べたつきが少ない。 ジュクジュクした皮疹にも使用できる。
水分が多く、 さらっとした使用感である。 頭部や体毛の多い部位に適している。
薬剤が一定の速度で放出されるため、 効果が持続しやすい。 掻破を防ぐ効果もある。 痒疹や苔癬化病変に適している。
ステロイド外用薬は1日1~2回、 適量を患部に塗布する。
塗布量はFinger-tip unit (FTU) を目安とする。 FTU は大人の人差し指の先端から第一関節まで押し出した量 (約0.5g) で、 大人の手のひら2枚分 (体表面積の約2%) をカバーできるとされる²⁾。
例えば片腕全体 (前腕~上腕) で約3FTU、 片脚全体 (大腿~下腿) で約6FTUが目安など、 身体の部位ごとにおおよそのFTU数が示されている。
なお、 小児は指の太さや体格が異なるため、 医師の指示に合わせて調整することが望ましい。
外用回数は、 皮疹の重症度に応じて調整する。 急性増悪期には1日2回、 症状が落ち着いてきたら1日1回に減量する。
1日1回の外用でも効果が期待できるため、 外用アドヒアランス向上のためにも、 急性期以外は1日1回とするのが望ましい。
プロアクティブ療法
炎症がある程度コントロールされた後も、 再燃しやすい部位に対して週に1~2回程度ステロイド外用薬を塗布し続ける 「プロアクティブ療法」 が推奨されることがある。
これは、 症状が強くなるのを待ってから集中的に塗る方法 (リアクティブ療法) ではなく、 あらかじめ炎症を抑える目的で間欠的に塗布を行うことで、 再燃を予防し、 病勢を安定してコントロールしやすくする治療戦略である。
外用部位には注意が必要である。 顔面や陰部、 間擦部など皮膚の薄い部位や、 皮膚が擦れやすい部位は、 ステロイド外用薬の吸収率が高いため、 副作用が生じやすい。
関連ツール : ステロイド外用薬の部位別吸収率
顔面には、 原則としてミディアム以下のランクを使用する。 眼周囲に使用する際は、 眼圧上昇や緑内障などのリスクを高める可能性があるので、 漫然と長期使用せず、 症状改善後はタクロリムス軟膏などの非ステロイド系外用薬で維持する。
ステロイド外用薬は、 症状が消失したあと急激に中止するのではなく、 徐々に減量するか、 間欠的に使用していく。 可能であればステロイド外用薬を中止し、 保湿剤のみのケアに移行する。
ステロイド外用薬を長期間使用した後に突然中止すると、 リバウンド現象が生じることがある。 リバウンド現象とは、 ステロイド外用薬を中止した後に、 紅斑、 丘疹、 掻破痕などが再発または増悪する現象である。 このような場合は、 皮膚科専門医に相談する。
プロアクティブ療法を併用する場合には、 症状の増悪を抑えながら外用薬の使用量を徐々に減らしていくことが可能である。
再燃を繰り返す部位に対しては、 急に外用をやめるよりも、 週1~2回のステロイド外用やタクロリムス軟膏の使用で予防的に管理し、 最終的に保湿剤のみのケアへ移行できるように進めていく。
ステロイド外用薬には、 全身性副作用と局所副作用がある。 適切なランクの選択、 適切な外用量と外用方法、 適切な外用期間を守ることによって、 副作用は最小限に抑えることができる。
全身性副作用は、 ステロイドが血中に吸収されることによって生じる副作用で、 成長抑制、 骨粗鬆症、 感染症などがある。
発現リスク
ステロイドのランク、 塗布量、 塗布期間、 塗布部位、 年齢などに影響される。 高ランクのステロイド外用薬を大量かつ長期にわたって使用すると、 副作用が生じやすくなる。
また、 皮膚の薄い部位や皮膚が擦れやすい部位は、 ステロイドの吸収率が高いため、 副作用が生じやすい。
局所副作用は、 ステロイドを塗布した部位に生じる副作用で、 皮膚萎縮、 毛細血管拡張、 皮膚線条などがある。
発現リスク
ステロイドのランク、 塗布期間、 塗布部位、 年齢などに影響される。 高ランクのステロイド外用薬を長期間使用すると、 皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用が生じやすくなる。
副作用の懸念から、 ステロイド外用薬の使用をためらう患者や家族もいる。 ステロイド外用薬に対する不安を軽減するためには、 医師が患者や家族に対して、 ステロイド外用薬の作用機序、 効果、 副作用、 使用方法などを丁寧に説明することが重要である。
また、 ステロイド外用薬に関する正しい知識を提供するウェブサイトやパンフレットなどを活用することも有効である。
ステロイド外用薬は、 アトピー性皮膚炎治療の基本となる薬剤である。 適切なランクのステロイド薬を選択し、 病変の性状と部位によって剤型を使い分け、 炎症を十分に抑制するよう使用することが重要である。
塗布量の目安にFTUを活用すると、 適切な外用量を保ちやすい。 さらに、 再燃を繰り返す場合にはプロアクティブ療法が有効であり、 症状を安定してコントロールしやすくなる。
ステロイド外用薬の使用に際しては、 患者や家族に丁寧に説明し、 不安を軽減することが重要である。 症状をコントロールしつつ、 必要最小限の使用に留めるための適切な方法を指導することで、 アトピー性皮膚炎の日常管理をより良いものにしていくことが期待できる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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