HOKUTO編集部
8ヶ月前
本稿では肺癌領域における注目キーワードについて解説していく。 第3回となる今回は、EGFR exon20挿入遺伝子変異について概説するとともに、 CHRYSALIS試験やPAPILON試験で良好な結果が示されている二重特異性抗体アミバンタマブを始めとする新規開発薬剤についても解説する (解説医師 : 国立がん研究センター中央病院呼吸器内科医長 吉田達哉先生) 。
EGFR exon19欠失変異、 exon21のL858R点突然変異などのEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌 (NSCLC) においては、 オシメルチニブ (タグリッソ®) などのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) が標準治療薬として推奨されている。
一方でEGFR遺伝子変異の中でも、 EGFR遺伝子変異の4~10%を占めるexon20挿入変異は、 従来のEGFR遺伝子変異に対する薬剤が有効ではないことが明らかにされている (図1)。
ただしEGFR exon20挿入変異の中で、 EGFR A763_Y764insFQEAだけは、 既存のEGFR-TKIに効果を示すことが知られている。
近年、 EGFR exon20挿入遺伝子変異を標的とした新規薬剤が複数開発されてきている。
CHRYSALIS試験
新規開発薬剤の中でも注目されているのが、 EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブ (RYBREVANT®) である。
同薬については、 プラチナ系抗癌薬による既治療NSCLC患者を対象とした第I/II相試験CHRYSALISにおいて、 単剤療法の奏効割合37%、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値6.9ヵ月、 全生存期間 (OS) 中央値23ヵ月と良好な治療成績を示し、 既に米国などで承認されている (本邦では未承認かつ2023年11に承認申請中) ¹⁾²⁾。
PAPILON試験
また2023年、 EGFR exon20挿入遺伝子変異を有する未治療NSCLC患者を対象とした第III相非盲検無作為化比較試験PAPILLONにおいて、 化学療法 (カルボプラチン+ペメトレキセド) +アミバンタマブ併用療法群は、 化学療法単独群と比較してPFSを有意に延長することが示された (HR 0.40 [95%CI 0.30–0.53]、 p<0.001) (図2) ³⁾。
OSの中間解析においても、 化学療法単独群と比較してアミバンタマブ併用療法群で良好な結果が示されており (HR=0.675 [95%CI 0.42–1.09]、 p=0.106) [3]、 EGFR exon20挿入変異を有する未治療NSCLC患者に対する新規治療法としての同併用療法の承認が期待されている。
アミバンタマブは有害事象対策が重要に
一方で同薬の有害事象としては、 爪囲炎や皮疹、 末梢性浮腫、 低アルブミン血症など、 EGFRおよびMET阻害に関連する副作用が高頻度に認められており、 臨床応用可能となった際には、 こうした有害事象への対策が必須となるであろう。
mobocertinib(EXKIVITY®)
もう1つの有望な治療法としては、 EGFR exon 20挿入遺伝子変異を選択的に標的とするEGFR-TKIの開発である。
米国においては、 mobocertinib (EXKIVITY®) が迅速承認されていたが、 1次治療例においてmobocertinib単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較した第III相多施設共同非盲検無作為化比較試験EXCLAIM-2において、 主要評価項目を達成することができず、 既に承認されている国においては自主的承認取り下げを開始する予定となっている。
その他のEGFR-TKIも開発進む
ただしその一方で、 mobocertinib以外にも数多くのEGFR exon20挿入遺伝子変異を標的としたEGFR-TKIが開発中である*。 早期臨床試験の段階では有望な治療成績を示しており、 さらなる結果が期待されている²⁾。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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