メイヨークリニック感染症科 松尾貴公
2日前
Osteomyelitis Complicating Sacral Pressure Ulcers: Whether or Not to Treat With Antibiotic Therapy
検索方法
PubMed、 Google Scholar、 Web of Scienceを利用して"sacral osteomyelitis" "decubitus AND osteomyelitis" "pelvic osteomyelitis"で1975年以降の文献を検索し、 30報を分析。
除外基準
根治的切除に関する報告 (hemipelvectomyなど)、 骨髄炎に特化しない報告。
評価項目
骨生検所見、 画像検査の診断精度、 微生物学的データ、 治療法と転帰 (再発、 治癒、 死亡など)。
「骨露出=骨髄炎」 ではない
Stage IVの仙骨部褥瘡において、 骨が露出しているからといって必ずしも骨髄炎が存在するとは限らない。
Türkらの病理解剖研究¹⁾では、 28例中13例 (46%) が慢性骨髄炎と診断されたが、 残る15例 (54%) では骨に炎症所見を認めなかった。
Darouicheら²⁾やSugarmanら³⁾の研究でも、 褥瘡に露出した骨のうち骨髄炎と診断されたのはそれぞれ17% (6/36例) および43% (6/14例) にとどまっていた。
骨髄炎の病変は表層に限局することが多い
骨髄炎が存在した場合でも、 そのほとんどは皮質骨や表層部に限局しており、 髄腔にまで及ぶものは少なかった。
また、 骨髄炎と確定できなかった症例でも、 骨線維化や反応性骨形成、 骨髄浮腫といった非感染性の変化は広く認められた。
画像検査では非感染性変化との鑑別が困難
MRIは感度94%と高いものの、 特異度はわずか22%であり、 骨髄炎と非感染性の骨変化を区別するには不十分であった。
また、 CTや単純X線も感度・特異度ともに低かった。
嫌気性菌の検出率は過小評価されやすい
骨生検または深部組織培養により分離された菌種では、 Staphylococcus aureusやStreptococcus属、 Enterobacteriaceae、 Peptostreptococcus、 Bacteroidesなどの混合感染が多かった。 嫌気性菌は検出頻度が過小評価されている可能性がある。
なお、 骨培養陽性率は約50%にとどまり、 陰性であっても感染の有無は否定できない。
抗菌薬の有無や経路・期間と転帰に関連なし
複数の研究で、 抗菌薬治療の有無や投与経路 (静注・内服)、 治療期間 (2週未満~6週超) と褥瘡の治癒・再発率との間に明確な関連は見られなかった。
術後に骨髄炎と診断された例でも、 創部が適切に閉鎖されていれば、 抗菌薬が短期であっても治癒率に差は見られなかった。
「期間が長い=治療成績が良い」 とは限らない
Jugunらの報告⁴⁾では、 抗菌薬治療期間と再発率には有意な関連が認められなかった。 それどころか、 6週間以上の長期治療群で創傷破綻などの合併症が多かった。
「創部閉鎖の有無」 が治療成功の鍵
Marriottらの研究⁵⁾では、 創部をフラップなどで閉鎖した群では治癒率が高く、 骨髄炎の有無にかかわらず予後は良好だった。
逆に、 創部が開放のままでは抗菌薬の効果は限定的で、 慢性排膿や再発のリスクが高まる。
日常臨床で遭遇することの多い仙骨部褥瘡ですが、 本研究では 「骨が露出していても、 すぐに骨髄炎と診断して抗菌薬を開始する必要はない」 というメッセージが示されています。
抗菌薬以上に創部閉鎖の有無が重要であり、 外科的な介入を積極的に検討する必要があります。 また、 創部閉鎖が不可能な症例に対しては、 他の骨髄炎のような抗菌薬の長期継続はエビデンスが乏しく、 副作用や耐性菌リスクの観点からも慎重な判断が求められます。
今後、 仙骨部褥瘡に伴う骨髄炎に対して、 抗菌薬の要否・期間・投与経路などを明確にするための前向きランダム化比較試験の実施が期待されます。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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