Cholesterol Treatment Trialists' Collaborationは, スタチン療法が筋症状に与える影響を無作為化二重盲検試験に記録された被験者データのメタ解析で検討. その結果, スタチン療法は軽度の筋肉痛を引き起こすが, スタチン治療を受けた患者から報告された筋症状の90%以上はスタチンに起因するものではなく, 既知の心血管系への利益に比べるとはるかに小さいことが明らかとなった. 本研究は, Lancet誌において発表された.
📘原著論文
Blazing M, et al, Effect of statin therapy on muscle symptoms: an individual participant data meta-analysis of large-scale, randomised, double-blind trials. Lancet. 2022 Sep 10;400(10355):832-845.PMID: 36049498
👨⚕️HOKUTO監修医コメント
長期にスタチンを投与されている患者におけるスタチン関連筋症状が出現した際には, そのほとんどがノセボ効果(服用した際に「薬を飲んでいるから副作用が起こるはず!」と思い込むことで, 心配している症状が実際に出現してしまう効果)やdrucebo効果(ランダム化比較試験において二重盲検下で使用した実薬の効果と, 非盲検下で使用した実薬の効果の差), 薬剤交互作用, スタチン忍耐性のリスク増加によるとのことです.
背景
スタチン療法は動脈硬化性心疾患の予防に有効であり, 広く処方されているが, しばしば筋肉痛や筋力低下を引き起こすのではないかと懸念されている.
研究デザイン
- スタチン対プラセボの二重盲検試験19件 (123,940名) , 強度の異なるスタチン療法を
- 比較した二重盲検試験4件 (30,724名) の参加者データを分析
- 事前に指定されたプロトコルに従って, 筋肉のアウトカムへの影響について逆分散法によるメタ解析が実施された.
研究結果
- 追跡期間中央値4.3年の間に, スタチン療法に割り当てられた参加者の27.1%, プラセボに割り当てられた参加者の26.6%に筋肉痛や筋力低下が報告された.
- RR 1.03, 95%CI 1.01-1.06
- 治療開始1年目は, スタチン群において筋肉痛または筋力低下が相対的7%増加していた (RR 1.07, 95%CI 1.04-1.10) . これは1000人年当たり11件の過剰絶対リスクに相当し, スタチン群の筋症状に関する報告のうち, スタチンに起因するものは1/15に過ぎないことを示していた.
- 1年目以降には, 筋肉痛または筋力低下の報告に有意な超過は見られなかった.
- RR 0.99, 95%CI 0.96-1.02
- 全期間では, 高用量スタチン群 (アトルバスタチン40〜80mgまたはロスバスタチン20〜40mgの1日1回) は, 低または中強度スタチン群よりも筋肉痛または筋力低下発現の率比が高く (RR 1.08 95%CI 1.04-1.13 vs. RR 1.03, 95%CI 1.00-1.05) , 1年後に高容量スタチン群で小さな超過が見られた (RR 1.05, 95%CI 0.99-1.12) .
- 筋肉痛または筋力低下発現の率比がスタチンによって, あるいは臨床状況によって異なるという明確なエビデンスはなかった.
- スタチン治療により, クレアチンキナーゼ値の中央値は, 臨床的に重要でない程度の小さな増加 (正常上限の約0.02倍) を示した.
結論
スタチン治療により, 軽度の筋肉痛がわずかに発生した. スタチン治療を受けた被験者の筋肉症状の報告のほとんど (90%以上) は, スタチンに起因するものではなかった. 筋肉症状のわずかなリスクは, 既知の心血管系への利益よりもはるかに低いものである. したがってスタチン服用患者における筋肉症状の臨床管理について見直す必要がある.