本コンテンツでは原因不明で治療が困難な炎症性腸疾患 (IBD) について、 疫学・病態・治療などの観点から解説を行います。 最新のエビデンスを基にしておりますので、 是非臨床の参考としていただければ幸いです。
監修 : 阿曽沼邦央先生・小林 拓先生
北里大学北里研究所病院
作用機序
炎症性腸疾患では、 リンパ球が過剰に腸管組織に侵入する事で炎症を誘発すると考えられる。 腸管指向性リンパ球にはα₄β₇インテグリンという接着分子が発現しており、 腸の血管内皮に発現するMAdCAM-1と結合する事でリンパ球の腸管組織への侵入を亢進させる役割を担っている。 エンタイビオ®はα₄β₇インテグリンに結合することによりMAdCAM-1との結合を阻害し、 リンパ球の腸管組織への侵入を阻止する。
多発性硬化症治療として開発され、 欧米ではクローン病にも使用される抗α₄抗体ナタリズマブ (タイサブリ®) は腸管選択性が低いために、 進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy) 発症リスクの増加が報告されている¹⁾。 このため、 α₄β₇の抗体であるエンタイビオ®が開発され、 国際共同試験にて潰瘍性大腸炎・クローン病共に有効性と安全性が示されている²⁾³⁾。
適応
潰瘍性大腸炎
既存治療で効果不十分な中等度から重症の難治例の寛解導入及び維持療法が適応となる⁴⁾。
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 (久松班) 令和4年度分担研究報告書より引用
クローン病
既存治療で効果不十分な中等度から重度の活動期クローン病の治療および維持療法が適応となる⁴⁾。
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 (久松班) 令和4年度分担研究報告書より引用
用法用量
エンタイビオ®は1回300mgを30分以上かけて点滴静注し、 スケジュールは初回投与を0週とすると、 0、 2、 6週目に投与し、 その後8週間隔で投与する。
また2023年3月に皮下注射が承認され、 点滴を2回以上投与し効果が認められた場合に、 2週間隔の皮下注射に切り替える事が可能となっている。
有害事象 (添付文書より)
- Infusion Reaction
- 進行性多巣性白質脳症
- 感染症
- 頭痛
- 悪心
- 口腔咽頭痛、 咳嗽
- 発疹、 そう痒症
- 関節痛、 背部痛、 四肢痛
- 発熱 など
投与におけるワンポイント
有効性に関する補足
- 抗TNF-α抗体薬使用歴別での有効性に関して、 抗TNF-α抗体使用歴がある場合に有効性が低下する事や⁵⁾⁶⁾、 他の分子標的薬と比較して有効性が劣る可能性が報告されており⁷⁾⁻⁹⁾、 過去の治療歴をふまえての薬剤選択が重要であると思われる。
- インフリキシマブ (レミケード®) 単独治療とインフリキシマブ+免疫調節薬併用療法の比較では、 併用療法の優れた臨床症状改善や内視鏡的粘膜治癒達成、 抗薬物抗体産生低下といった有用性が潰瘍性大腸炎・クローン病共に報告されているが¹⁰⁾¹¹⁾、 α₄β₇インテグリン製剤においては明らかでは無い。
- 腸管外合併症に関して原疾患のコントロールで改善が得られる症例も多いが、 腸管選択的作用機序から有効性が劣る可能性が想起される¹²⁾。
安全性についての補足
- 腸管選択性からくる全身免疫抑制効果が乏しいことで安全性に対する評価が高いために、 感染リスクが高い高齢患者等への安全な治療が期待できる。 維持期においては点滴静注もしくは皮下注射を選択できることから、 患者のライフスタイルや嗜好を考慮しての治療継続が可能となっている。
- 妊娠中の投与に関する安全性も報告が増えつつあり、 先行して多く使用されている抗TNF-α抗体薬と同様に、 妊娠合併症や胎児感染症の増加の影響は無いとされている¹³⁾¹⁴⁾。
参考文献
- Risk of natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy. N Engl J Med. 2012 May;366(20):1870–80. PMID: 22591293
- Vedolizumab as induction and maintenance therapy for ulcerative colitis. N Engl J Med. 2013 Aug;369(8):699–710. PMID: 23964932
- Vedolizumab as induction and maintenance therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med. 2013 Aug;369(8):711–21. PMID: 23964933
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 (久松班) 令和4年度分担研究報告書. 2023
- Vedolizumab as Induction and Maintenance Therapy for Crohn’s Disease in Patients Naïve to or Who Have Failed Tumor Necrosis Factor Antagonist Therapy. Inflamm Bowel Dis. 2017 Jan;23(1):97–106. PMID: 27930408
- Efficacy of Vedolizumab Induction and Maintenance Therapy in Patients With Ulcerative Colitis, Regardless of Prior Exposure to Tumor Necrosis Factor Antagonists. Clin Gastroenterol Hepatol. 2017 Feb;15(2):229-239.e5. PMID: 27639327
- Singh S, Murad MH, Fumery M, Dulai PS, Sandborn WJ. First- and Second-Line Pharmacotherapies for Patients With Moderate to Severely Active Ulcerative Colitis: An Updated Network Meta-Analysis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020 Sep;18(10):2179-2191.e6. PMID: 31945470
- Systematic review with meta-analysis: the effectiveness of either ustekinumab or vedolizumab in patients with Crohn’s disease refractory to anti-tumour necrosis factor. Aliment Pharmacol Ther. 2022 Feb;55(4):380–8. PMID: 34854100
- Comparative Study Of The Effectiveness Of Vedolizumab Versus Ustekinumab After Anti-Tnf Failure In Crohn’s Disease (Versus-Cd): Data From Eneida Registry. J Crohns Colitis. 2023 Jul;jjad124. PMID: 37522878
- Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med. 2010 Apr;362(15):1383–95. PMID: 20393175
- Panaccione R, Ghosh S, Middleton S, Márquez JR, Scott BB, Flint L, et al. Combination therapy with infliximab and azathioprine is superior to monotherapy with either agent in ulcerative colitis. Gastroenterology. 2014 Feb;146(2):392-400.e3. PMID: 24512909
- ECCO Guidelines on Extraintestinal Manifestations in Inflammatory Bowel Disease. J Crohns Colitis. 2023 Jun;jjad108. PMID: 37351850
- Maternal and Neonatal Outcomes in Vedolizumab and Ustekinumab Exposed Pregnancies: Results from the PIANO registry. Am J Gastroenterol. 2023 Oct.5. PMID: 37796648
- Pregnancy and Neonatal Outcomes After Fetal Exposure to Biologics and Thiopurines Among Women With Inflammatory Bowel Disease. Gastroenterology. 2021 Mar;160(4):1131–9. PMID: 33227283
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