【NIHSS】評価方法と計算の注意点 (脳卒中、脳梗塞、脳出血)
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HOKUTO編集部

1年前

【NIHSS】評価方法と計算の注意点 (脳卒中、脳梗塞、脳出血)

【NIHSS】評価方法と計算の注意点 (脳卒中、脳梗塞、脳出血)
本記事では、 脳卒中患者の病状評価に用いられるNIHSSの概要、項目と評価方法、エビデンス、 特に既知の麻痺や失明、意識障害がある時の対応について医師向けに詳細に解説する (監修医師:聖路加国際病院 救急部 清水真人先生) 

NIHSSとは? (🔢計算する)

世界的に利用される脳卒中評価スケール

National Institutes of Health Stroke Scaleの略で、 アメリカ国立衛生研究所 (National Institutes of Health) が開発した脳卒中の評価スケールである¹⁾²⁾。脳卒中患者の症状の重症度を定量化し、 治療効果や予後を評価するための指標として広く使用されている。

改良版も報告されている

2001年に、 mNIHSS (modified NIHSS)³⁾として一部項目が削除されている (意識レベル、顔面麻痺、運動失調、構音障害)が、 本邦でのt-PA使用にあたっての根拠は古典的なNIHSSであり、 本稿ではこちらの評価方法を主に紹介する。

NIHSSの評価方法は? (🔢計算する)

NIHSSは、 意識水準、 意識障害(見当識・記憶)、 注視、 視野、 顔面神経麻痺、 両上下肢運動、 運動失調、 感覚、 発語、 消去現象と注意障害など全11項目から構成されており、 各項目は0点から4点までの範囲で評価される。 総得点は、最低0点から最高40点 (運動失調のスコアリング注意点参照) までとなり、 合計スコアが脳卒中の重症度を示す。

【NIHSS】評価方法と計算の注意点 (脳卒中、脳梗塞、脳出血)

算出方法

11の各項目について、患者の症状を観察し、最も適切なスコアを付ける。 スコアリングには、 共通して以下の基準が用いられる。

0点: 正常

1点: 軽度の障害

2点: 中等度の障害

3点: 重度の障害

4点: 最も重度の障害

スコアリングの注意点

臨床現場で判断しづらい特殊ケースついてポイントを補足する。 詳細については、NIHSSの公式サイトを一度確認しておくことをお薦めする。

①意識水準

  • 認知症患者でも清明であれば意識水準0点とする

①'意識障害(見当識・記憶)

  • 口腔や気管などの外傷で答えられないときは1点とする。 
  • 失語症で答えられなければ不正解とする。

②注視

  • 意識障害絵あれば、 眼球頭反射を用いても構わない。

③視野

  • 意識障害でも、 刺激が入った方を見ることができれば視野は正常とする。ただし、昏睡は3点となる。
  • 失明していたら、 残っている眼で評価する。 ただし、 全盲は3点となる。

④顔面神経麻痺

  • 認知症や意識障害は顔の対象性や痛み刺激で判断してもよい。

⑤両上肢運動

  • 手の平を下にする。 座位は90°、 仰臥位は斜め45°の方向で前に出し、10秒間その姿勢を維持する。
  • 少しでも動揺すれば1点とする。
  • 痛み刺激を加えて判定してはならない。
  • 肩関節の外傷などで検査肢位がとれないときはUNとする。

⑥両下肢運動

  • 仰臥位になり、 下肢を斜め30°挙上し、、 5秒間その姿勢を維持する。
  • 少しでも動揺すれば1点とする。
  • 痛み刺激を加えて判定してはならない。
  • 股関節の外傷などで検査肢位がとれないときはUNとする。

⑦運動失調

  • 麻痺があるときは 「できる」 とみなして0点とする
  • 理解できないときも 「できる」 とみなして0点する。
  • 四肢や関節の拘縮、外傷などがあればUNとする
  • 失明時は腕を伸展した状態から、 人指し指を自分の鼻に触れさせる、または踵ー膝試験で評価する。

⑧感覚

  • 明確に左右差を示したときだけ加算する。
  • 認知症や意識障害は顔のしかめ方で判断してもよい。

⑨言語

  • ①〜⑧までで失語症が疑われれば、 専用の絵カード、 呼称カード、 文章カードを用いて検査する。
  • これまでの情報で正常であれば、カードを用いなくても良い。

⑩構音障害

  • ①〜⑧までで構音障害が疑われば、 呼称カードを用いて検査する。
  • これまでの情報で正常であれば、カードを用いなくても良い。
  • 口の外傷で発声できなければUNとする。

エビデンスと臨床的意義

NIHSSは、 脳卒中の診断や治療効果の評価において重要な役割を果たす。 また、 予後判断やリハビリテーション計画の立案にも有用である。 さらに、医療従事者間での患者情報の共有や研究目的でのデータ収集にも活用される。

診断および予後評価

古典的なNIHSSは、脳卒中の診断および予後評価において、 高い相関性が報告されている。Brottらの研究では、NIHSSスコアが脳卒中の重症度と90日後の患者の機能的アウトカムに強い相関があることが示された¹⁾。 この結果は、 NIHSSが脳卒中の診断と予後判断に有用であることを初めて支持したものである。

Measurements of acute cerebral infarction: a clinical examination scale. Stroke. 1989 Jul;20(7):864-70. PMID: 2749846

治療効果の評価

NIHSSは、 治療効果の評価にも有用である。脳卒中治療のゴールドスタンダードである組織プラスミノーゲン活性化因子 (t-PA) の治療効果評価において、NIHSSの変化は重要な指標となる。 例えば、 The National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group (1995)の研究では、tPA投与群とプラセボ群の3か月後の機能的アウトカムを比較する際に、 NIHSSスコアの変化が評価指標として用いられた⁴⁾。

Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke. N Engl J Med. 1995 Dec 14;333(24):1581-7. PMID: 7477192

リハビリテーション計画立案

NIHSSは、 リハビリテーション計画立案においても役立つ。 脳卒中患者のリハビリテーション需要を判断する際に、 NIHSSは機能的アウトカム予測の指標として使用される。 例えば、 Kwakkelらの研究では、急性期脳卒中患者のNIHSSスコアがリハビリテーション治療による機能改善の予測に有用であることが示された⁵⁾。

Predicting disability in stroke--a critical review of the literature. Age Ageing. 1996 Nov;25(6):479-89. PMID: 9003886

臨床試験や疫学調査での利用

NIHSSは、 臨床試験や疫学調査においても一貫性と信頼性が高い評価ツールとされている。 多くの脳卒中研究において、 NIHSSスコアは症状の重症度、治療効果、予後等を評価する主要な指標として利用されている。 Lydenらの研究では、 NIHSSの信頼性と一貫性が高いことが報告されており、 研究分野での利用が支持されている⁶⁾。

Improved reliability of the NIH Stroke Scale using video training. NINDS TPA Stroke Study Group. Stroke. 1994 Nov;25(11):2220-6. doi: 10.1161/01.str.25.11.2220. PMID: 7974549

使用上の注意

本稿で用いる表現は、 臨床現場での利用最適化のため一部意訳となっている  NIHSSについては使用上の注意点も多く、概要や原著論文を一度参照いただくことを推奨する。 以下に注意点を抜粋する。
  • 必ずリストの順に施行すること。 逆に行ったり評点を変更してはならない。
  • 特に指示されている部分以外では、 患者を誘導してはいけない (患者の特別な努力を避ける)。
  • 既知の麻痺や失明、意識障害などがある場合、 測定方法は複雑になるため、 各項目の詳細については、NIHSSの公式サイトを一度確認しておくことをお薦めする。

参考文献

  1. Measurements of acute cerebral infarction: a clinical examination scale. Stroke. 1989 Jul;20(7):864-70. PMID: 2749846
  2. Improved reliability of the NIH Stroke Scale using video training. NINDS TPA Stroke Study Group. Stroke.1994 Nov;25(11):2220-6. PMID: 7974549
  3. A modified National Institutes of Health Stroke Scale for use in stroke clinical trials: preliminary reliability and validity. Stroke.2001 Jun;32(6):1310-7. PMID: 11387492
  4. Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke. N Engl J Med. 1995 Dec 14;333(24):1581-7. PMID: 7477192
  5. Predicting disability in stroke--a critical review of the literature. Age Ageing. 1996 Nov;25(6):479-89. PMID: 9003886
  6. Improved reliability of the NIH Stroke Scale using video training. NINDS TPA Stroke Study Group. Stroke. 1994 Nov;25(11):2220-6. doi: 10.1161/01.str.25.11.2220. PMID: 7974549

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最終更新:2023年4月5日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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