Vlaarらは, 侵襲的人工呼吸管理を受けたCOVID-19患者を対象に, 標準治療に抗C5aモノクローナル抗体ビロベリマブを加えた場合の効果を検討する無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験を実施. その結果, ビロベリマブは侵襲的人工呼吸管理をうけた患者の生存率を改善し, 死亡率の有意な減少につながることが明らかとなった. 本研究は, Lancet Respir Med誌において発表された.
📘原著論文
Anti-C5a antibody (vilobelimab) therapy for critically ill, invasively mechanically ventilated patients with COVID-19 (PANAMO): a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Respir Med. 2022 Sep 7;S2213-2600(22)00297-1.PMID: 36087611
👨⚕️HOKUTO監修医コメント
COVID-19も終焉に近づいた時期において, 本研究成果はもちろんCOVID-19によるARDSの死亡率の減少ですが, 結論にあるように他のARDSを引き起こすウイルス感染症におけるビロベリマブとC5aの役割について光を当てた大きな意義のある研究成果です. ARDS全般の死亡率はいつまで経っても約40%なので, 今後他の原因のARDSに対しても30%に減少できることができれば, ものすごい成果と言えます.
背景
抗C5aモノクローナル抗体であるビロベリマブは, 侵襲的人工呼吸管理を受けているCOVID-19患者を対象とした第Ⅱ相試験で安全であることが示された.
研究デザイン
- 対象:侵襲的人工呼吸管理を受けているが, 初回注入時に挿管後48時間以内, PaO₂/FiO₂比が60~200mmHg, 過去14日間にいずれかの亜種でSARS-CoV-2感染が確認された18歳以上の患者.
- 患者は以下の群に1対1で無作為に割り付けられた.
- 標準治療+ビロベリマブ群:177名
ビロベリマブ800 mgを最大6回 (1, 2, 4, 8, 15, 22日目) 静脈内投与
- 標準治療+プラセボ群:191名
- 主要評価項目:28日目の全死因死亡率
研究結果
有効性評価
- 28日目までの死亡
- ビロベリマブ群:31% (177名中54名) ,
- プラセボ群:40% (191名中77名)
- 28日目の全死亡率
- ビロベリマブ群:32% (95%CI 25-39)
- プラセボ群:42% (95%CI 35-49)
HR 0.73, 95%CI 0.50-1.06, P=0.094
- 施設による層別化を行わない解析では, ビロベリマブは28日目の全死亡を有意に減少させた.
HR 0.67, 95%CI 0.48-0.96, P=0.027
安全性評価
- 最も多かった有害事象
- 急性腎障害
- ビロベリマブ群:20% (175例中35例)
- プラセボ群:21% (189例中40例)
- 肺炎
- ビロベリマブ群:22% (175例中38例)
- プラセボ群:14% (189例中26 例)
- 敗血症性ショック
- ビロベリマブ群:14% (175例中24例)
- プラセボ群:16% (189例中31例)
- 重篤な治療上緊急の有害事象は, ビロベリマブ群59% (175例中103例) , プラセボ群63% (189例中120例) で確認された.
結果の解釈
標準治療にビロベリマブを加えた治療は, 侵襲的人工呼吸管理を受けているCOVID-19患者の生存率を改善し, 死亡率の有意な減少につながった. ビロベリマブは, このような環境下にある患者への追加療法として検討することができる. 他のARDSを引き起こすウイルス感染症におけるビロベリマブとC5aの役割についてもさらなる研究が必要である.