HOKUTO編集部
12ヶ月前

がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐 (chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV) は、 患者のQOLを大きく損なう副作用の一つであり、 その発現を適切に予防することが重要です。 特に高度催吐性リスクを有する化学療法に対しては、 複数の制吐薬を組み合わせた予防的アプローチが推奨されています。 本稿では、 CINV予防における5-HT₃受容体拮抗薬の役割にフォーカスし、 その作用機序、 エビデンスについて解説します (第3回解説医師 : 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 山本駿先生)。

抗癌薬により刺激されるセロトニン (5-HT₃) 受容体は、 主に消化管に発現しており、 これが悪心・嘔吐の主な発症機序とされる。 日本で使用されている5-HT₃受容体拮抗薬には、 第1世代のグラニセトロン (GRA)、 オンダセトロン、 ラモセトロン、 そして第2世代のパロノセトロン (PALO) がある¹⁾。 中でも実臨床で頻用されているGRAおよびPALOについて、 その基本情報を以下に示す。

TRIPLE試験²⁾およびNCT00359567³⁾はいずれも、 高催吐性レジメンにおける5-HT₃受容体拮抗薬の有効性を比較した国内第III相比較試験である。 TRIPLE試験では3剤併用 (NK₁受容体拮抗薬+5-HT₃受容体拮抗薬+デキサメタゾン [DEX])、 NCT00359567では2剤併用 (5-HT₃受容体拮抗薬+DEX) という投与設計の違いがあるが、 いずれの試験でも急性期 (0–24時間) の制吐効果に大きな差はみられなかった。 一方で、 遅発期 (24–120時間) の嘔吐抑制においてはPALOが一貫して有意な優越性を示している。
安全性については両群とも重篤な治療関連有害事象の頻度は低く、 臨床使用上の差異は限定的と考えられる。 これらの結果から、 遅発性嘔吐への対策を重視する場合には、 PALOの使用がより望ましい選択となりうる。 ただし、 これらの試験はいずれも現在標準とされる4剤併用療法⁴⁾ (NK₁受容体拮抗薬+5-HT₃受容体拮抗薬+DEX+オランザピン) 下での検討ではない点には留意が必要である。

中等度催吐性レジメンにおける第1世代5-HT₃受容体拮抗薬とPALOの比較については、 メタアナリシスが報告されている⁵⁾。 急性期の嘔吐完全抑制におけるオッズ比は1.43 (95%CI 1.10–1.86)、 遅発期は1.90 (95%CI 1.47–2.45)、 全期間では1.71 (95%CI 1.34–2.22) と、 いずれの期間においてもPALOの有効性が高いことが示されている。
このメタアナリシスには、 制吐薬としてDEXを併用していた試験が含まれているが、 NK₁受容体拮抗薬は併用されていなかった点に留意すべきである。 このことから、 中等度催吐性レジメンに対してNK₁受容体拮抗薬を使用しない場合には、 原則としてPALOの使用が望ましいと考えられる。

第1回 : 総論編
第2回 : 高催吐レジメン編
第3回 : 中催吐レジメン編
第4回 : 軽度・最小度催吐性レジメン編
第5回 : 新規開発薬ホスネツピタント
第6回 : 中催吐性レジメンで管理困難な場合の対応

第1回 : NK₁受容体拮抗薬のエビデンス
第2回 : NK₁受容体拮抗薬の使い分け
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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