【解説】地域枠違約金に差止め判決
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7日前

【解説】地域枠違約金に差止め判決

【解説】地域枠違約金に差止め判決
医療訴訟が珍しくなくなった今、 医師も法律と無関係ではいられない。 連載 「臨床医が知っておくべき法律問題」 第26回では、 地域枠プログラムを巡る裁判に関連した法律、 訴訟制度を取り上げる。 

山梨県の地域枠プログラムを巡る裁判の甲府地裁判決が2026年1月にあった。 医師免許取得後9年間、 県内の医療機関で勤務すれば修学資金の返済を免除する制度について、 違約金条項の差し止めを認めたのだ。

この裁判では、 地域医療確保を目的とする制度と、 消費者契約法との関係が問題となった。

地域枠プログラム

制度自体は違法ではない

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山梨県の 「地域枠等医師キャリア形成プログラム」 は、 医学部学生に対して約936万円の修学資金を貸与し、 医師免許取得後9年間、 県内で勤務すれば返済が免除される。 一方、 条件を満たさない場合には、 貸与金に加えて利息10%を付けて返還し、 さらに違約金も課される仕組みになっていた。

最大で約842万円の違約金が設定されており、 甲府地裁は、 この違約金条項について差し止めを認めた。

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誤解されやすいが、 地域枠制度そのものが違法とされたわけではない。

地域枠は、 医療法に根拠を持つ制度である。 同法では医師不足地域の医師確保を目的とする 「キャリア形成プログラム」 を都道府県が策定できると規定しており、 同法施行規則では、 ①一定期間、 都道府県内の医療機関で勤務すること②あらかじめ定めたコースに従うことーーなどの条件を設定できるとされている。

つまり、 制度自体は法令上認められており、 問題は違約金の金額が過大ではないかという点であった。

消費者契約法の適用

医療機関と患者の間でも適用

この裁判で用いられたのが、 消費者契約法である。

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消費者契約法は、 事業者と消費者の契約において、 情報量や交渉力の格差があることを前提に、 消費者を保護するための法律である。 医療機関と患者の契約関係にも適用されることがある。

今回は同法9条が適用された。 契約解除時の損害賠償予定や違約金が 「事業者に生じる平均的損害」 を超える場合、 その超過部分は無効とする、 と定めている。

地域枠プログラムに置き換えると、 途中離脱があれば代替医師の確保などに費用がかかるため、 一定の損害賠償を予め設定しておくこと自体は合理性があるだろう。

しかし、 消費者契約法は 「平均的損害」 を超える損害賠償の予定は無効としている。

裁判の争点

平均損害額を超えているか

裁判では、 その金額が 「平均的損害」 を超えているかが争点となった。 山梨県側は、 途中離脱した場合、 代替医師確保などの費用は年間750万円以上かかると主張した。

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裁判所の判断

① 「利息返還で」 補填される

しかし甲府地裁は、 修学資金と利息の返還で十分に補填されるとして、 この主張を認めなかった。

この判断には議論の余地もある。医療機関でも、 急な退職によって医師や看護師を派遣会社などで確保する場合、 非常に高額なコストが生じることは珍しくないからである。

② 「労働契約ではない」

もう一つ重要なのは、 この契約を労働契約ではないと判断した点である。

消費者契約法は、 法律の規定上、 原則として労働契約には適用されない。 労働契約には労働基準法などの特別規定があるためである。

しかし裁判所は、

  • 医学生の段階で修学資金を貸与される
  • まだ勤務関係は発生していない

という点から、 これは労働契約ではなく、 一般の契約として消費者契約法が適用されると判断したようである。

このように裁判所は、 契約の性質を状況に応じて柔軟に判断する。

場合によっては、 契約関係を 「くっつけたり離したり」 するようなロジックが用いられることもある。

消費者団体訴訟という制度

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今回の裁判でもう一つ注目すべき点がある。 消費者団体訴訟制度が利用されたことである。

通常の民事訴訟では、 被害を受けた個人が自ら訴訟を起こさなければならない。

しかし消費者問題では、 個々の被害額が小さく、 裁判まで至らないケースも多い。

そこで、 内閣総理大臣が認定した 「適格消費者団体」 に特別な権限を与え、 事業者に対して差し止め請求などを行える制度が設けられている。 個別に弁護士を雇って委任しなくても、 「俺も乗った」 と意思表示すればよいというわけである。 比較的少額の消費者被害の救済に役立つということで定められた制度である。

今回の裁判では、 消費者機構日本がこの制度を利用して提訴している。 なお、 この判決については上訴される見込みとされており、 今後の司法判断にも注目が必要である。

医師が押さえておくべきポイント

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  1. 地域枠制度自体は法的根拠があるが、 違約金条項の内容は別途審査される
  2. 違約金は 「平均的な損害の額」 を超えれば無効となる
  3. 契約の性質次第で消費者契約法が適用され、 団体訴訟で条項自体が争われ得る

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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