インタビュー
13日前

筑波大学地域総合診療医学の吉本尚准教授は、 飲酒の悩みに対応する専門外来 「アルコール低減外来」 で患者と向き合う一方、 社会的な課題解決にも挑んでいる。 2022年に同大に設立した 「健幸ライフスタイル開発研究センター」 を拠点に飲酒関連の研究を推進しており、 世界初となる研究結果も発表した。
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「開発研究センター」 は、 同大が設置する研究組織の総称。 産官学連携での研究開発を目的とし、 運営は外部資金で賄われている。 吉本さんは企業との共同研究を本格的に進めていこうと、 副学長・産学連携本部長に提案して開設が実現、 センター長に就任した。 医学医療系だけでなく、 芸術系や体育系、 人文社会系などの教員・研究者約20人がメンバーに名を連ねる。

大手酒類メーカーなどと研究を行う中、 反響を呼んだのがノンアルコール飲料に関する研究だった。 2023年、 吉本さんらは日常的にお酒を飲む人にノンアルコール飲料を一定期間提供したところ、 飲酒量が有意に減少したことを示す結果を発表した。 減少した純アルコール摂取量は1日当たり平均11.5グラム。 これは、 アルコール度数5%の350ミリリットル缶ビール約0.8本分、 グラスワイン約1杯分に相当する。
「予想以上の結果でした。 アルコールの指導においては、 1日5グラム程度の減酒でも集団全体の健康増進効果が期待されるため、 11グラムという結果はインパクトがあります。 商品に置き換えるだけでこれだけ減ったことは、 大きな意義があると思います」

さらに、 興味深い発見もあった。 約3カ月の研究期間が終わってノンアルコール飲料を配らなくなっても、 飲酒量が減少した状態が維持された。 ノンアルコール飲料の提供による飲酒量への影響を示した研究は世界初であり、 論文の閲覧数は1万4000回を超えた。
吉本さんの知見は、 国のアルコール対策にも生かされている。 2024年に厚生労働省が発表した、 日本初となる国民向けの飲酒指針 「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」 の検討委員として参画。
過去の研究結果を踏まえ、 怪我などにつながる一時多量飲酒(ビンジドリンキング)への注意喚起を提案した。 さらに、 「休肝日」 という言葉は肝臓だけに効果があるような印象を与えかねないことから、 「飲まない日をつくる」 ことが脳を含む全身の臓器に良い影響をもたらすと伝わる表現への言い換えを求めた。 「肝臓の数値さえ良ければ飲んでもいい」 という誤解を防ぎ、 アルコール依存症などの予防につなげるためだ。

現在は、 紙媒体やウェブ、 アプリを活用した診療支援ツールの開発にも取り組んでいる。 目指すのは、 セルフケアがより行いやすい社会。 患者一人一人に説明を重ねなくても、 商品やデジタルツールが人々の行動変容を促し、 飲酒との付き合い方を見直せる社会が理想だ。
「医療者が暇になるくらいの状態こそ、 予防医療の観点からは望ましいでしょう」
東日本大震災をきっかけに展開してきた活動は、 15年に及ぶ。 古来より飲酒は人間の営みと深く結びついてきたが、 この領域を専門的に研究する医師は多くない。 だからこそ、 「人類にとって永遠の課題」 に挑戦する面白さを感じている。
「若い先生方には、 まだ光が当たっていない領域に自分なりのテーマを見つけ、 どっぷりはまってほしい。 一生をかけて追求できる『種』を見つけることは、 きっと大きな財産になるはずです」


編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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