IBDマニュアル
3ヶ月前
本コンテンツでは原因不明で治療が困難な炎症性腸疾患 (IBD) について、 疫学・病態・治療などの観点から解説を行います。 最新のエビデンスを基にしておりますので、 是非臨床の参考としていただければ幸いです。
杏林大学医学部消化器内科学
炎症性腸疾患 (Inflammatory Bowel Disease; IBD) の一つである潰瘍性大腸炎 (Ulcerative Colitis; UC) は、 原因不明の慢性炎症性疾患で指定難病に認定されている。 持続する腹痛や下痢などの症状により患者のQOLは著しく障害され、 特に20~30代での発症が多いため就学、 就労、 結婚、 妊娠・出産などさまざまなライフイベントが影響を受ける。 UCの診断・治療は難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班が作成している診断基準・治療指針¹⁾ に基づいて行われる (図1-3)。
UCの診断は、 臨床症状 (持続性または反復性の粘血便・血性下痢など)、 大腸内視鏡検査 (直腸から連続するびまん性炎症所見が典型的) や生検病理検査、 他疾患の鑑別除外 (感染性腸炎など) に基づいて行われる。 特に感染性腸炎の鑑別は治療方針決定の上で重要であり、 食事歴や海外渡航歴の聴取は必ず行い、 初診時には便培養検査を実施する。
病理所見では炎症性細胞浸潤、 陰窩膿瘍、 杯細胞の減少などが認められるがUCに特異的とされる病理所見はなく、 病理所見のみで診断することはできない。
【IBDマニュアル】潰瘍性大腸炎の診断フローチャートと検査 (適応・禁忌)
炎症の範囲によって直腸炎型、 左側大腸炎型、 全大腸炎型に分類される。
UCの治療は急性期の症状を改善することはもとより、 長期にわたって患者QOLを改善し、 全大腸切除術やUC関連大腸癌リスクを低下させることである。 治療目標を設定した治療戦略 (treat to target; T2T) が提唱されている。 T2Tストラテジーでは症状の改善、 バイオマーカーの改善など各段階での治療目標が設定されているが、 標準的な最終治療目標は内視鏡的寛解である。 近年ではさらに深い治療目標として病理学的治癒が議論されている。
治療指針¹⁾では病変範囲と重症度によって治療方針が提案されている。 UCの基本治療は5-アミノサリチル酸製剤である。 また直腸病変は臨床症状に直結するため局所療法 (坐剤や注腸) を併用する。 中等症以上では副腎皮質ステロイドの全身投与の適応となる。 副腎皮質ステロイドを繰り返し必要となる依存例、 副腎皮質ステロイドに抵抗性の症例は難治例として血球成分除去療法や分子標的治療薬などの適応となる。
図1 令和5年度潰瘍性大腸炎治療指針 (内科)
UCの薬物治療では、 寛解導入療法と寛解維持療法にわけて戦略をたてる必要がある。 5-アミノサリチル酸製剤や多くの分子標的治療薬は、 寛解導入・維持の両者に有用である。 例外として、 副腎皮質ステロイドは寛解導入にのみ使用する。 副腎皮質ステロイドの寛解維持効果は否定されており、 副作用の点からも維持療法として使用するべきではない。 アザチオプリンは副腎皮質ステロイド依存例に対する寛解維持療法に使用される。 α4インテグリン阻害薬であるカロテグラストメチルは寛解導入療法のみで認められている。
図2 潰瘍性大腸炎治療フローチャート
入院を必要とするような急性重症例の治療では全身状態の管理のもと、 外科手術を念頭に置いた上で副腎皮質ステロイド大量静注療法、 インフリキシマブ、 タクロリムス経口、 シクロスポリン静注 (保険適応外) などが行われる。 急性重症例の治療においては外科内科の連携が重要である。
図3 潰瘍性大腸炎 難治例の治療
近年、 患者の高齢化が問題となっている。 高齢患者では併存疾患や臓器機能の低下があり薬物治療や耐術能において注意が必要である。 特に高齢発症患者では入院率、 緊急手術率、 死亡率が高いという報告がある。
長期マネージメントではUC関連大腸がんのサーベイランスも重要な課題である。 全大腸炎型、 左側大腸炎型で罹患8年からサーベイランス大腸内視鏡を行うことが推奨されている²⁾³⁾。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。