HOKUTO編集部
5ヶ月前
ファーストインクラスのAKT阻害薬であるカピバセルチブ (商品名トルカプ) が、 フルベストラントとの併用療法で 「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、 AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術切除不能または再発乳癌」 を適応に、 2024年3月26日に本邦で承認、 5月22日に発売された。 6月に開催された製造販売元のアストラゼネカ社主催のメディアセミナーでは、 がん研究会有明病院乳腺センター長の上野貴之氏が、 世界初となるAKT阻害薬の作用機序等や内分泌療法後の進行乳癌治療における現状と課題について、 臨床医の立場から解説した。
ホルモン受容体 (HR) 陽性HER2陰性転移・再発乳癌に対しては、 現行の乳癌診療ガイドラインでは、 非ステロイド性アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬の併用が強く推奨されている。
一方、 同併用療法後に病勢進行 (PD) を認めた患者に対する2次治療については、 標準療法は確立されていない。 同併用療法の主要な耐性機序の1つにPI3K-AKT-PTEN 経路の活性化が報告されており、 内分泌療法やCDK4/6阻害薬に対する耐性を獲得した乳癌ではPI3K-AKT-PTEN経路の抑制が重要とされている。
カピバセルチブは、 PI3K-AKT-PTEN経路の活性化に関与しているPI3K・AKT・PTENの遺伝子変化 (活性型or機能喪失型) の1つであるAKT を選択的に阻害する世界初のAKT阻害薬である。
PI3K-AKT-PTEN経路を阻害するカピバセルチブと、 もう1つの主な乳癌の増殖・生存経路であるエストロゲン受容体 (ER) シグナルを阻害する抗エストロゲン薬フルベストラントを併用することで、 抗腫瘍効果の増強が期待される。
カピバセルチブの有効性および安全性については、 国際共同第Ⅲ相無作為化比較試CAPItello-291において、 HR陽性HER2陰性手術不能・再発乳癌708例 (日本人78例を含む) を対象に、 カピバセルチブ+フルベストラントの有効性および安全性がプラセボ+フルベストラントを対照に検証された。
同試験の結果、 主要評価項目であるPIK3CA / AKT1 / PTEN遺伝子変異が1つ以上認められる集団および全体集団における無増悪生存期 (PFS) のいずれにおいても、 カピバセルチブ+フルベストラント併用療法での有意な改善が認められた¹⁾ 。
PFS中央値 (95%CI)
PIK3CA / AKT1 / PTEN変異陽性集団
全集団
またCAPItello-291試験では、 米食品医薬品局 (FDA) の要求により中間解析の前ではあるがOSの解析が行われており、 その結果、 カプラン・マイヤー曲線のカーブはカピバセルチブ群が常にプラセボ群よりも上位にあり、 OSにおいても改善傾向が認められている。
OSのハザード比
CAPItello-291試験でのカピバセルチブ+フルベストラン群での主な有害事象 (全グレード、 グレード3以上) は、 以下などであった。
有害事象の初回発現の中央値 (四分位範囲) は、
であり、 上野氏は「投与開始後初期の段階で有害事象の管理をしっかり行っていれば、 あとは比較的安全に使えることが多いと思う」と述べた。
また同薬の用法は、 1日2回を4日間投与し3日間休薬する、 という乳癌ではあまりなかった用法となる。
上野氏は「最初に服用方法を間違えると副作用発現の懸念もあるため、 例えば投与する曜日を決めるなど、 患者とよく話をしたうえで、 投与を開始する必要がある」と指摘した。
なお、カピバセルチブの適応を判断するためにはコンパニオン診断 (CDx) が必要となるが、 現在承認されているCDxはFoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル (以下、 FoundationOne) のみである。
FoundationOneはCDxとがんゲノムプロファイリング検査 (CGP) の両方で用いられるが、 内分泌療法後に増悪したHR陽性HER2陰性手術不能または再発乳癌患者において、 CDxとしてFoundationOneで検査をした結果、 PIK3CA、 AKT1、PTEN変異が1つ以上認められれば、 エキスパートパネルを通さずに同薬の適応となる。
一方、 同じFoundationOneではあるが、 CGPとして検査をした結果、 PIK3CA、 AKT1、PTEN変異が1つ以上認められた場合には、 エキスパートパネルを通す必要がある。
なお、 FoundationOneによるCDxについては、 可能な施設が
に限られる。
これら以外の施設では、 自施設での検査オーダーができないため、 前述の1~3への紹介が必要となる。
上野氏は「FoundationOneの検査については、 まだ現在の日本では自施設でできない施設が多いのが問題の1つではある。 ただし、 拠点病院との連携も整備されてきてはいるため、 カピバセルチブによる治療においても、 この連携が重要となる」と指摘した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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