HOKUTO編集部
13日前
福井大学の今村善宣先生による連載「がん関連静脈血栓塞栓症 (CA-VTE)」、第3回はDOAC使用時の注意点について解説します!
前回説明した通り、 がんは種々の経路を介して血栓を誘発する”pre-DIC状態”にある。 そのため、 いったんVTEを発症したがん患者は、 発症していないがん患者と比較して、 VTE再発リスクのみならず出血リスクも高いことが繰り返し報告されている。
また、 がん患者は非がん患者と比較して、 抗凝固療法中のVTE再発率ならびに出血リスクが高いことは、 ワーファリン時代から繰り返し報告されてきたが、 直接経口抗凝固薬 (DOAC) 時代においても当てはまるようである。
つまり、 「VTEの再発を防ぐために行われる抗凝固療法が、 逆に出血を引き起こすリスクを高めてしまう」 というジレンマが、 がん患者では特に顕著である。
このジレンマは東アジア人で大きく、 ”East Asian Paradox”として知られている。 その結果、 例えば非弁膜症性心房細動に対するワルファリン療法では、 脳塞栓症予防として国際的にはPT-INR値2.0~3.0が推奨されているところ、 本邦では1.6~2.6が提案されている¹⁾。
こうした抗凝固療法のリスク・ベネフィットのバランスの兼ね合いから、 本邦ではCA-VTEの予防よりも、 早期治療に重点が置かれているようである。
したがって、 CA-VTEの抗凝固療法の適応を判断するには、 下記に示す血栓リスクと出血リスクを十分に見定める必要がある。
HOKUSAI-VTE cancer試験²⁾やSELECT-D試験³⁾の結果から、 「原発巣未治療の消化管がん」 「泌尿生殖器がん/腎瘻」 「活動性の消化管粘膜異常」 がDOAC使用時の出血リスク因子として同定されている。
また、 慢性心房細動時の減量基準や、 出血イベントの少なかったCaravaggio試験⁴⁾の適格・除外規準に採用されていたような項目群も参考になると考えられる。
DOACは、 活性体が消化管にある程度残ることが知られている。 したがって、 その消化管に粘膜破綻がある状況で全身作用と局所作用が重なった場合に、 (上部) 消化管出血が起こりやすいと考えられる。
このことは、 「原発巣未治療」 の消化器がんにリスクが限定されていることにも合致する。 なお、 非弁膜症性心房細動患者に関するメタ解析でも、 消化管出血はDOACの方がワルファリンよりも有意に多かったことが報告されている⁵⁾。
また、 DOACは肝代謝のみならず腎臓排泄も行われる。 そのため、 「局所濃度上昇+粘膜破綻」 が起こる泌尿生殖器がん/腎瘻でも、 出血リスクが高まっていると推定される。
現在、 本邦では3つのDOACがVTE治療薬として承認を得ている。
各DOACで細かい違いがあるが、 いずれも心房細動 (AF) に対する予防量とは異なり、 VTEではマクロな血栓が既に存在し血栓リスクが高いと判断されるため、 「減量規準がない、 もしくはより厳格である」 という点は共通している。
なお、 抗凝固薬、 血栓溶解薬、 血小板凝集抑制作用を有する薬剤、 非ステロイド性消炎鎮痛薬のほか、 選択的セロトニン再取り込み阻害薬、 P糖蛋白阻害作用を有する薬剤は併用注意に該当する。
具体的なVTE治療の流れについて、 神戸大学のプロトコルに則って要点を解説する。 なお、 神戸大学では総合内科にVTE外来が設けられているが、 各施設での院内フロー*を確認いただきたい。
❶ ショックや血圧低下を有するような肺血栓塞栓症の高リスク群では、 抗凝固療法ではなく血栓摘除術等が検討される。
❷ 非高リスク群では、 simplified pulmonary embolism severity index (sPESI)の 「悪性腫瘍」 を 「活動性がん」 と置き換えたものを用いてリスク評価を行い、 0点であれば低リスクとして外来でのDOAC治療を原則とする。
❸ sPESIが1点以上であれば入院治療を原則とし、 未分画ヘパリン 5,000U静注による初期治療を併用する。 また、 右心機能障害ならびに心筋障害/心不全マーカーを確認し、 抗凝固療法のみとするか、 呼吸循環管理や再灌流療法を併用するかを判断する。
❹ DOACの使い分けは、 血栓・出血リスクを1つの基準とするが、 ほかにも患者アドヒアランスなど種々の要素を加味して最終的に決定する⁶⁾。
❺ 画像評価は治療開始後1~4週間以内を急性期、 3ヵ月後を慢性期として行い、 抗凝固療法継続の適否を再検討する。
DOACはがん関連VTEの標準治療薬の1つとして位置づけられるが、 各薬剤の使い分けについては明確なルールは確立されていない。 それぞれの薬剤の特性を理解し、 個々の症例に応じて判断する必要がある。
リアルワールドデータの報告が増えているが、 その解釈は容易ではない。 例えば、 血栓リスクが高い症例にリバーロキサバンを、 出血リスクが高い症例にアピキサバンを、 低体重でfrailな症例にエドキサバンを使用するとなった場合、 それぞれの薬剤特性が相殺される可能性がある。 このような 「匙加減」 を明確に言語化することは難しく、 Propensity Score Matchingなどの補正にも限界があると考えられる。
直接比較試験であるDANNOAC-VTE試験 (NCT03129555) の結果が待たれる。
VTE再発リスクも出血リスクも、 診断早期が最も高いことが報告されている。 その間、 ヘパリンを使用するのか、 あるいは1週間ないし3週間の強化療法を行うのか、 初期治療の各臨床試験間のばらつきは、 各製薬会社のポリシーの違いに基づくものであり、 どれが最も科学的に妥当性があるかは検証されていない。
ヘパリン使用についても、 SELECT-D試験³⁾やADAM-VTE試験⁷⁾、 Caravaggio試験⁴⁾では 「省略可」 とされていただけで相当数が併用されていた。 一方エドキサバンは、 リアルワールドでは相当数が省略されているようである⁸⁾。
2024年4月に、 地元福井大学に異動しました。 臨床腫瘍学、 血液内科学、 腫瘍循環器学、 がんゲノム医療、 リアルワールド研究と多角的な活動をしています。 学生・初期研修医・後期研修医、 Uターンをご検討中の先生、 どなたでも大歓迎です。 ぜひお気軽にお問い合わせください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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