【解説】PARP阻害薬 + ARSIのシナジー効果 (日本泌尿器科学会 アップデートシリーズより)
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HOKUTO編集部

4ヶ月前

【解説】PARP阻害薬 + ARSIのシナジー効果 (日本泌尿器科学会 アップデートシリーズより)

【解説】PARP阻害薬 + ARSIのシナジー効果 (日本泌尿器科学会 アップデートシリーズより)
2024年4月、 第111回日本泌尿器科学会で、 香川大学泌尿器・副腎・腎移植外科教授の杉元幹史氏が転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) の薬物療法について講演しました。 HOKUTO編集部では許諾を得て、概要をまとめました。

本稿の掲載内容

1. BRCA遺伝子変異

2. PARP阻害薬

3. PROfound試験

4. PARP阻害薬とARSI併用

5. PROpel試験


1. BRCA遺伝子変異

HRR遺伝子変異のひとつ

BRCA遺伝子変異は、 切断されたDNA二本鎖を修復する機能を担うHRR (相同組換え修復) 遺伝子の変異の一つである。 HRR遺伝子変異を伴う前立腺癌の予後は悪い¹⁾。

HRR : homologous recombination repair

BRCA変異が最も多く、特に予後不良

HRR遺伝子変異の中で最も多く、 BRCA変異を持つ前立腺癌はHRR遺伝子変異の中でも特に予後不良であると報告されている²⁾。

mCRPC患者 HRR変異保有状況 (スペインとイタリアの施設)²⁾
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文献2) より作図 : 13.2%がBRCA1または2変異を有した²⁾

2. PARP阻害

DNA修復に関わる酵素の作用を阻害

poly [ADP] -ribosepolymerases (PARP) と呼ばれる、DNA一本鎖切断を修復する酵素の作用を阻害する薬剤がPARP阻害薬 (PARP-i) である。 BRCA変異のある癌細胞に対する作用機序は以下のとおり。

BRCA変異のある癌細胞でDNA一本鎖切断が生じると、 PARPにより修復され元通りに

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❷PARP阻害薬を使用した場合、 一本鎖切断は修復されず、 細胞分裂の過程で二本鎖切断に

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BRCA変異があると二本鎖切断を修復できず最終的に細胞死に

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3. PROfound試験

PARP-阻害薬のオラパリブ (リムパーザ®︎) のキースタディである国際共同第Ⅲ相非盲検無作為化比較試験 PROfound³⁾を紹介する。

HRR変異ARSI治療歴ありのmCRPC患者

HRR変異陽性で 、 ARSI (アンドロゲン受容体シグナル阻害薬)であるアビラテロン (Abi) またはエンザルタミド (Enz) による治療を行い、 病勢進行を認めたmCRPC患者を対象とした。

ARSI : androgen receptor signaling inhibitor

2つのコホートで検証

以下の2つのコホートを設けた。

▼コホートA (245例)

BRCA1、 BRCA2、 ATM変異いずれか有する

▼コホートB (142例)

上記以外のHRR遺伝子変異を有する


各コホートで以下いずれかに2 : 1で割り付けた。

▼オラパリブ群

オラパリブ300mgを1日2回

▼ARSI群

担当医の裁量でEnzまたはAbiを投与

Enz 160mg1日1回 or Abi 1,000mg1日1回 + PSL5mg1日2回
ARSI群被験者は、 進行が認められた場合オラパリブ群へのクロスオーバー可能であった

BRCA1、 2変異のrPFSを有意に延長

▼コホートAの画像診断に基づくPFS

結果、 主要評価項目であるコホートAの画像診断に基づく無増悪生存期間 (rPFS)は、 オラパリブ群ではARSI群に比べ、 進行または死亡のHR 0.34という大きな差で有意に延長した。

 rPFS中央値
- オラパリブ群 : 7.4ヵ月
 - ARSI群     : 3.6ヵ月
 HR 0.34 (95%CI 0.25-0.47)、 p<0.001

▼遺伝子変異の状況別にみたrPFS

コホートAの被験者が有するBRCA1BRCA2ATM変異の保有状況別にrPFSのサブグループ解析を行った結果、 ATM変異陽性例では両群間に差がなく、わが国ではBRCA変異陽性例にのみに適応となった。

本邦の適応から、 ATM遺伝子変異陽性例は省かれた
 HR [95%CI] 
 - コホートA全体 : 0.34 [0.25~0.47]
 - BRCA1   : 0.41 [0.13~1.39] 
 - BRCA2      : 0.21 [0.13~0.32〕
 - ATM        : 1.04 [0.61~1.87]

▼BRCA1/2変異陽性例のrPFS

ATM変異陽性例を含めない、 BRCA1/2変異のみがある患者におけるrPFSは、 オラパリブ群ではARSI群に比べてHR 0.22とさらに大きな差で有意に延長した。

rPFS中央値 
- オラパリブ群 : 9.8ヵ月
 - ARSI群     : 3.0ヵ月
 HR 0.22 (95%CI 0.15-0.32)

💬PROfoundからわかること

以上より、 BRCA変異があり、 ARSI 1剤の使用歴のあるmCRPCに対する治療として、 PARP阻害薬は有効であることがわかる。


4.PARP阻害薬とARSI併用

理論的には以下のような背景から、 PARP阻害薬とARSIは併用することでシナジー効果が得られるとされてきた。
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❶ アンドロゲンレセプター (AR) による放射線抵抗性上昇⁴

放射線照射によりARが活性化し、 DNA修復遺伝子のアップレギュレーションにより、 放射線抵抗性が上昇するとされる⁴⁾。

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❷ AR経路の抑制による 「BRCAness」

BRCAnessとは、 BRCA遺伝子の変異はないが、 何らかの要因 (epigeneticなど) でBRCA遺伝子発現が抑えられている、 あるいはBRCA変異と同じような状況 (phenotype) になっていく状態である⁵⁾。

BRCA変異がなくても、 AR経路の抑制によりBRCAness 「仮想BRCA変異」を作り出すことで、 PARP阻害薬が効くようになる。

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PARP阻害薬によるAR経路の抑制

逆に、 PARPは (DNAの修復のみならず) ARの転写を調節してAR経路を活性化する。 つまり、 PARP阻害薬を使えばAR経路を抑制できるはずである。

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文献6) より作図 杉元 幹史氏 提供
実際に、 基礎実験でPARP-iによるARの減少が示されている⁶⁾。

5. PROpel試験について

上述の理論を基にしてファーストライン治療としてオラパリブにARSIのアビラテロン (Abi)を併用した群とAbi単独群とを比較検討した臨床試験PROpel⁷⁾を紹介する。

Abi前治療歴のないmCRPC患者

Abiの前治療歴のないmCRPC患者 (HRR変異の有無は問わない) を対象とした。  

オラパリブ+Abi併用の有効性は

国際共同第Ⅲ相二重盲検無作為化比較試験。 被験者を以下のいずれかの群に1 : 1で無作為に割り付け、 各治験薬を投与した。

▼オラパリブ+Abi群 399例

オラパリブ300mgを1日2回、 Abi1,000mgを1日1回 (+プレドニゾンまたはプレドニゾロン5mgを1日2回)

▼対照のAbi群 397例

Abi1,000mgを1日1回 (+プレドニゾンまたはプレドニゾロン5mgを1日2回)

主要評価項目のrPFSを有意に延長

▼HRR変異の有無は問わない

オラパリブ+Abiは、 HRR変異やBRCA変異の有無を問わないmCRPCにおいて、 rPFSまでの期間を有意に延長した。

rPFS中央値
 - オラパリブ+Abi群 : 24.8ヵ月
 - Abi群        : 16.8ヵ月
 HR 0.66 (95%CI 0.54-0.81)、 p<0.0001

▼HRR変異の有無別にみたrPFS

HRR変異の有無にかかわらず、 オラパリブ+Abi群のほうがAbi群よりも優れていた。

例数 : イベント発生率
■HRR変異あり
 - オラパリブ+Abi群 111例 : 38.7% 
 - Abi群        115例 : 63.5%
 HR 0.50 (95%CI 0.34-0.73)
■HRR変異なし
 - オラパリブ+Abi群 279例 : 42.7%
 - Abi群        273例 : 54.6%
 HR 0.76 (95%CI 0.60-0.97)

▼BRCA変異の有無別にみたrPFS⁸⁾

BRCA変異の有無にかかわらず、 オラパリブ+Abi群のほうがAbi群よりも優れていた。

例数 : イベント発生率 [rPFS中央値] 
■BRCA変異あり
- オラパリブ+Abi群 47例 : 25.5% [NR]
- Abi群        38例 : 81.6% [8.4ヵ月]
 HR 0.18 (95%CI 0.09-0.34)
■BRCA変異なし
- オラパリブ+Abi群 343例: 41.1% [27.6ヵ月]
- Abi群       350例: 52.3% [16.6ヵ月]
 HR 0.72 (95%CI 0.58-0.90)
OS最終解析時

副次評価項目のOSは以下のとおり

両群に有意差は認めないものの、 オラパリブ+Abi群でOS中央値がより長かった。

 OS中央値
- オラパリブ+Abi群 : 42.1ヵ月
 - Abi群        : 34.7ヵ月
 HR 0.81 (95%CI 0.67-1.00)、 p<0.054
事前に規定したOS最終解析

💬PROpelから分かること

HRR変異、 BRCA変異の有無にかかわらず、 PARP阻害薬+ARSIである"オラパリブ+Abi群"はAbi群に比べてrPFSは有意に延長し、 OSも改善傾向が見られた。

ただし、 上述の結果が得られたものの、 本邦では 「PARP阻害薬+ARSI」 を使用できる前立腺癌はBRCA変異陽性例に限られている。
日本泌尿器科学会の見解書
【解説】PARP阻害薬 + ARSIのシナジー効果 (日本泌尿器科学会 アップデートシリーズより)
「前立腺癌における PARP阻害剤のコンパニオン診断を実施する際の考え方 (見解書) 改訂第6版」 を基に編集部作成
欧州医薬品庁 (EMA) ではBRCA変異有無にかかわらず使用可

Takeaway

PARP阻害薬+AbiはmCRPC 1次治療として有効である。 本邦での適応はARSI治療歴のないBRCA変異前立腺癌である。

出典
1) Cancer Med. 2023 Mar;12(5):5265-5274.
2) Ann Oncol. 2024 May;35(5):458-472.
3) NEJM. 2020 May 382(22):2091-2102.
4) Cancer Discov. 2013 Nov;3(11):1222-1224.
5) Nat Rev Cancer. 2004 Oct;4(10):814-819.
6) Cancer Discov. 2012 Dec;2(12):1134-1149.
7) NEJM Evid. 2022 Sep;1(9):EVIDoa2200043.
8) Lancet Oncol. 2023 Oct;24(10):1094-1108.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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