亀田総合病院
30日前
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 8月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。
J Infect Dis. 2024 Jul 12:jiae346.
背景 Respiratory Syncytial (RS) ウイルスは、 高齢者や基礎疾患を有する成人において、 重篤な急性呼吸器感染症を引き起こし、 しばしば入院を必要とします。 近年RSウイルスの成人における疾病負荷が注目され、 成人用RSウイルスワクチンも米国や日本で承認されています。 しかし、 従来の診断方法では、 成人におけるRSウイルスの検出が不十分であることが多く、 新しい診断アプローチの導入が求められています。
試験デザイン 本研究は、 米・ジョージア州アトランタの2つの病院で2018~20年に実施された前向き観察研究です。 対象者は、 50歳以上の急性呼吸器感染症患者および心不全やCOPD増悪による入院患者です。 鼻咽頭および口咽頭のスワブ、 急性および回復期の血清、 喀痰を収集し、 PCRやRSウイルス抗体を測定しました。
試験結果 最終的に、 1.558例の対象者が含まれ、 そのうち92例 (5.9%) がRSウイルス陽性と診断されました。 鼻咽頭と口咽頭の検体を合わせてPCR検査を行うと58例が陽性となり、 鼻咽頭と咽頭の検体を別々にPCR検査を行うと新たに11例が陽性となりました (18.9%の増加)。 さらに血清学的検査の追加で42.9%の検出率向上が確認されました。 また、 標準的な鼻咽頭スワブPCR (前述した研究用PCRより中央値で1日早く検体が採取されたもの) の追加によっても25.9%のRSウイルス検出率の向上が認められました。
これらの結果は、 複数の診断アプローチを組み合わせることで、 RSウイルスの診断精度が著しく向上する可能性を示唆しています。
複数の診断アプローチの組み合わせで検出精度が大幅に向上
RSウイルス感染症は、 高齢者や基礎疾患を持つ患者に重篤な合併症を来すとされますが、 日本国内での疾病負荷はまだ十分に把握されていません。 本研究は、 複数の検体を用いたPCRや血清学的検査を組み合わせることで、 RSウイルスの検出精度が大幅に向上することを示しています。 RSウイルスの実態を正確に評価するためには、 こうした複数の診断アプローチを組み合わせることが重要であり、 日本でも、 このようなアプローチを取り入れることで、 RSウイルス感染症の疾病負荷に関する過小評価を防ぐ必要があります。
CDCは高齢者、 60歳以上の慢性疾患患者にワクチンを推奨
米国疾病予防管理センター (CDC) のワクチン諮問委員会は、 75歳以上の高齢者、 60歳以上の慢性疾患のある患者に、 RSウイルスワクチンの接種を推奨しています。
Eur Respir J. 2024 Jul 18;64(1):2301612.
背景 COVID-19は、 肺に重篤な障害を引き起こし、 急性期を過ぎた後も長期間にわたって呼吸機能の低下が続くことがあります。 本研究では、 COVID-19感染後3年間の放射線学的および肺機能の変化を追跡調査し、 長期的な影響を評価しました。
試験デザイン 本研究は、 中国・武漢にある2つの医療機関で2020~23年にかけて実施された前向きコホート研究で、 退院時に残存する肺異常所見 (すりガラス影、 線維性変化) を示したCOVID-19生存者が登録されました。
追跡評価は退院後6ヵ月、 12ヵ月、 2年、 3年の時点で行われ、 肺機能検査、 6分間歩行距離 (6MWD)、 胸部CT、 症状アンケートが含まれました。 比較のために非COVID-19の対照群が後ろ向きに登録されました。
試験結果 728例のCOVID-19生存者と792例の対照群が研究に含まれました。 6ヵ月から3年にかけて、 疾患重症度に関係なく、 肺拡散能 (DLCO) 低下 (DLCO <80%予測値 : 49% vs 38%、 p=0.001)、 6分間歩行試験 (6MWD : 496m vs 510m、 p=0.002)、 残存する肺異常所見 (46% vs 36%、 p<0.001) の改善が徐々に見られました。
3年後に残存する肺異常所見があった患者は、 完全に改善した患者と比較して、 呼吸器症状 (32% vs 16%、 p<0.001)、 低い6MWD (494m vs 510m、 p=0.003)、 DLCO低値 (57% vs 27%、 p<0.001) の頻度がより多いことを認めました。
対照群と比較すると、 3年後の追跡調査でマッチングされたCOVID-19生存者では、 DLCO低値の割合 (38% vs 17%、 p<0.001) および呼吸器症状 (23% vs 2.2%、 p<0.001) が有意に高かったです。
大部分の患者はCOVID-19後に時間経過とともに放射線学的異常および肺機能が改善しました。 しかし、 1/3以上の患者が3年後にも持続する肺異常所見を認めており、 これは呼吸器症状およびDLCOの低下と関連していました。
COVID-19感染の3年後も1/3に肺の異常が持続
本研究は、 COVID-19感染後に肺異常所見を呈する患者について、 3年間の経過を追跡し、 1/3以上の患者に放射線学的および肺機能異常が持続することを示しました。
現在の変異株やワクチン接種者には当てはまらない可能性
研究対象が初期のウイルス株に感染したワクチン未接種者に限定されており,現在の変異株やワクチン接種者にそのまま当てはまらない可能性に注意する必要があります.それでも,本研究結果は、 COVID-19感染患者に対して回復後も長期的な管理を行うことの重要性を示しています。
Chest. 2024 Aug;166(2):123-131.
背景 非結核性抗酸菌症 (NTM) は、 結核と異なり、 環境中に広く存在する抗酸菌によって引き起こされる慢性呼吸器感染症です。 近年、 NTM感染症の発生率が世界的に増加しており、 その背景には高齢化社会の進展や基礎疾患の増加が関与していると考えられています。
本研究では、 デンマークにおける成人のNTM感染症の発生率と有病率の長期的な推移を明らかにするために、 18年間の全国規模の追跡調査を実施しました。
試験デザイン 本研究は、 デンマークの全国登録データを用いた後ろ向きコホート研究であり、 2000~17年にかけて成人のNTM感染症の発生率と有病率の変化を評価しました。
試験結果 研究の結果、 NTM感染症の発生率は2000年の10万人当たり0.4から2017年には1.3に増加しており、 有病率も同様に上昇傾向を示しました.肺外NTMの発生率も,2000~17年にかけて10万人当たり0.3から0.6人に増え,有病率も増加しました.
肺NTMの発生率は、 70歳以上の患者で最も高くなりました (10万人あたり19.3)。 肺NTM患者と比較して、 肺外NTM患者の方が雇用されている可能性が高く、 教育水準が高い傾向がありました。
デンマークのNTM発生率が18年間で顕著に増加
本研究は、 デンマークにおけるNTMの発生率が過去18年間で顕著に増加したことを示しています。 特に、 肺NTMは70歳以上の高齢者で高い発生率を示し、 早期診断と治療の重要性が強調されています。 また、 肺外NTMも増加傾向にあり、 肺NTMと社会的および経済的要因が異なることが指摘されました。
他国におけるNTM罹患率の増加とも一致
本研究の結果は、 日本を含む他国でのNTM罹患率の増加とも一致しており、 NTMが国際的な公衆衛生の課題となっていることを示しています。
中島啓が編著し、 全国のエキスパートの知と技を結集した新刊 「呼吸器内科診療の掟」 が7/1に発売となりましたのでぜひ診療の参考にされて下さい!
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一言 : 当科では教育および人材交流のために、 日本全国から後期研修医・スタッフ (呼吸器専門医取得後の医師) を募集しています。 ぜひ一度見学に来て下さい。
連絡先 : 主任部長 中島啓
メール : kei.7.nakashima@gmail.com
中島啓 X/Twitter : https://twitter.com/keinakashima1
亀田総合病院呼吸器内科 Instagram : https://www.instagram.com/kameda.pulmonary.m/
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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