インタビュー
16時間前

2025年4月、鳥取大学医学部附属病院に開設された、国立大学初となる「児童・思春期病床」(6床)。この1年は満床が続き、精神行動医学分野の岩田正明教授はニーズの高さを実感している。アート制作やセラピードッグとの触れ合い、農作業などの多角的なアプローチを取り入れたことで、入院中の子どもと大人の交流が増加。「村で育てる」という理念の実現に向け、土台が築かれつつある。
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2026年6月までに受け入れた入院患者数は24人。年齢は13~19歳(平均16歳)で、平均在院日数は約50日だった。疾患別では摂食障害が約半数を占め、BMIが9~10台まで低下した重症例もあった。このほか、神経発達症(発達障害)を背景とした適応不全や強迫症、統合失調症、解離症、自殺企図後の救急搬送例にも対応してきた。

「ほぼずっと満床の状態が続いており、地域のニーズは確実にあります。入院できる環境があることは、地域医療の選択肢を広げるだけでなく、地域の外来を受診される患者さんやご家族の安心にもつながっています」
「村で育てる」という理念に基づき、多角的なアプローチも実践している。その中心となるのが、交流の場であるデイルームだ。開設当初から医学部のボランティアサークルが訪れ、現在は心理学を専攻する大学院生が、ゲームなどを通じて子どもたちと交流している。
また、病床に面した中庭では、キュウリやトマト、イモ、スイカ、メロン、イチゴなど多くの野菜や果物を栽培している。実家が農家だというスタッフの提案により、2026年には稲作も始めた。

同年5月には、セラピードッグが初めて病院を訪れた。警察犬訓練士のトレーニングを受けた犬を囲み、子どもたちのほか、医療従事者や保健学科の教員も加わって1時間にわたり交流した。今後は月2回の訪問を予定している。
岩田さんが手応えを感じているのが、病床開設に当たって導入した臨床美術だ。子どもたちは2週間に1回、臨床美術士とともに作品を制作する。一人一人に寄り添ったポジティブなフィードバックを受けながら、自己肯定感を育む。完成した作品は、院内の「アートロード」に展示される。
「退院後も制作を続けている子がいます。だんだん村が、社会復帰に向けた拠り所の一つになっていると感じています」

一方、新たな治療を実践する中で、課題も見えてきた。対話によって回復を目指す、フィンランド発祥の「オープンダイアローグ」だ。日本でも注目されつつあるこの手法を、大学病院としては先駆的に取り入れた。しかし、患者や家族、多職種がチームを組み、じっくりと対話するという特性上、日本の医療システムの中で継続的に実施する難しさに直面した。現在は、より少数の専門職で実施できるよう試行を重ねている。
取り組みは、院外にも広がり始めている。鳥取県から受託した「こどもと親の心の健康サポート事業」では、県内にある3カ所の児童相談所と連携し、緊急入院が必要な際にバックアップする体制を構築。児童相談所からの相談に応じるほか、ケースカンファレンスも行っている。地域への情報発信も始め、2026年3月に行った市民公開講座には100人以上が来場した。

病床開設のもう一つの目的である、専門医の育成も動き始めた。現在、1人の医師が専門医取得を目指し、鳥取県立総合療育センターに出向している。また、国立大初の取り組みに関心を寄せた医師や学生が、九州や中国、北陸地方など全国各地から見学に訪れた。
「専門医を増やしていくための第一歩を踏み出すことができました。将来的には、当院の研修でも専門医資格が取得できるような体制を整えるのが目標です」
開設から1年。病床は満床の状態が続き、「村で育てる」という理念も少しずつ形になってきた。
「子どもたちが人と関わりながら成長していける環境を、さまざまな専門家と一緒に育んでいきたい。鳥取から、新しい子どもの治療の形を発信できればと思います」


編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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