HOKUTO編集部
3日前
循環器領域における注目トピックやキーワードについて解説する連載。 今回は、 心房細動が及ぼす影響および治療について、 北海道大学循環病態内科学教室の上原拓樹先生に解説いただきます。
心房細動は特に高齢者で有病率も高いですが、 人によって症状や病態が異なり、 治療方針もさまざまです。
心房細動の治療は抗凝固療法、 レートコントロール、 リズムコントロールに大別されます。近年ではリズムコントロールの一環としてカテーテルアブレーションが盛んに行われています。
ところで、 そもそもなぜ心房細動は治療が必要なのでしょうか?まずは心房細動の悪影響を考えた上で、 治療法を解説します。
心房細動は、 心房が非常に速く不規則に興奮する"頻脈"の状態です。 その興奮が房室結節のブレーキを介して心室に伝わる際に、 心拍数も上昇することが多く、 これが動悸症状の原因となります。
一部の症例では徐脈性にもなりますし、 頻脈にならないこともあります。 頻脈にならなくても、 脈が不整となることで動悸を自覚することがあります。
頻脈による動悸であればレートコントロールを積極的に行います。 頻脈がなく脈が不整であることによる動悸であれば、 症状緩和を目的にリズムコントロールを行います。
頻脈誘発性心筋症 (TIC) とも呼ばれます。 頻脈が長時間続くと、 症状がなくても心室が弱ってしまい、 心不全となります。
そのため、 無症状であっても心不全の発症予防としてレートコントロールが必要となります。
仮に頻脈がなくても、 心房細動となると心房の収縮 (atrial kickとも呼ばれます) がなくなります。 そのため、 心室への血液流入が低下し、 心室の陰圧だけで心房から心室へ血液を送る必要があります。 これは一種の"心室の拡張障害"とも言えます。
また、 脈が不整となることで心室の拡張時間が不規則となり、 特に心拍数が早い周期では心室の充満が不十分となり、 非効率な心拍出となります。
そのほかに、 長期の心房細動は心房のリモデリングを引き起こし、 左房や右房の弁輪拡大はそれぞれ二次性の僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症を起こします。
このように、 さまざまな機序で心房細動は慢性心不全を起こし、 さらに増悪させる原因となります。
心房細動では、 心房 (特に左心耳) の血流がよどむことで血栓症リスクが上昇します。
左房内血栓が存在するだけでは無症状ですが、 塞栓症を起こすと脳梗塞やその他の臓器虚血という致命的な合併症に繋がります。
そのため、 塞栓症リスクが低くない場合においては抗凝固療法が必要です。
心房細動の血栓症予防としての第一選択はDOAC (直接作用型経口抗凝固薬) です。 DOACはダビガトラン、 リバーロキサバン、 アピキサバン、 エドキサバンの4種類があり、 若干効果が異なりますが、 原則どれを使用しても構いません。
心房細動における血栓塞栓症のリスク評価としてCHADS₂スコアが有名です。 それぞれに該当する心不全、 高血圧 (の既往)、 年齢 (75歳以上)、 糖尿病、 脳卒中/TIAの既往の1つでもあれば、 すなわちCHADS₂スコアが1点以上であれば、 抗凝固療法の適応です。
ワルファリンを使用中であれば無理にDOACに変更しなくても良いですが、 機械弁や僧帽弁狭窄症に合併した心房細動ではワルファリンを使用します。
安静時心拍数110bpm未満を目標に、 レートコントロールを行います。 第一選択はβ遮断薬ですが、 心機能が正常であればベラパミルやジルチアゼムなどの非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を選択しても構いません。
心不全に合併した心房細動のレートコントロールとして、 ジギタリス製剤やアミオダロンを使用することもあります。
洞調律維持を目指すことをリズムコントロールといいます。
心房細動中に電気的除細動を行うことも一種のリズムコントロールですが、 追加介入をしなければ心房細動の再発リスクは高いです。 薬理的除細動もしくは心房細動の再発予防目的に、 抗不整脈薬を使用します。
また、 近年広く施行されているカテーテルアブレーションは心房細動の起源と言われる肺静脈隔離を行う治療法で、 抗不整脈薬以上の洞調律維持効果が期待されます。
今回は心房細動の治療法について、 その目的に注目して解説しました。
心房細動はカテーテルアブレーションや左心耳閉鎖術など、 さまざまな治療法が広がっています。 しかし、 侵襲が大きいものもあり、 個々の症例に合わせた治療選択が必要となっています。 この記事が日々の診療に役立つものとなれば幸いです。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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