【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」
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HOKUTO編集部

10日前

【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」

【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」
新進気鋭の専門医に、 肺癌領域の注目論文を紹介・解説いただく連載です。 今回は、益田 武先生 (広島大学呼吸器内科 特定准教授) にNEJM誌の注目論文を解説いただきました。 

今回の注目論文

First-Line Zongertinib in Advanced HER2-Mutant Non-Small-Cell Lung Cancer

N Engl J Med. 2026; 394: 1675-1684.

概要

HER2変異陽性の非小細胞肺癌 (NSCLC) に対しては、 承認された1次治療の標的薬がこれまで存在しなかった。 ゾンゲルチニブは、 野生型EGFRへの影響を最小限に抑え、 HER2を選択的に阻害する経口不可逆性チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であり、 下痢や皮膚毒性の軽減が期待される。

本論文は、 HER2変異陽性の進行・転移性非扁平上皮NSCLCに対するゾンゲルチニブの有効性を評価した、 第Ia/Ib相多コホート試験Beamion LUNG-1における前治療なしコホート (コホート2) の主解析、 および活動性脳転移例を対象とした探索コホート4の結果である。

コホート2では前治療未施行の74例にゾンゲルチニブ120mg/日が投与され、 主要評価項目は盲検下独立中央判定による客観的奏効率 (ORR)、 副次評価項目は奏効期間 (DOR) および無増悪生存期間 (PFS) であった。 コホート4では活動性脳転移を有する30例における頭蓋内奏効が評価されている。

主な結果

有効性 (コホート2)

1次治療としてゾンゲルチニブ120mgを投与した74例において、 高い奏効率と持続的な効果が認められた。

【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」

安全性 (コホート2)

有害事象は多くの患者で発現したが、 治療関連有害事象の多くはGrade 1~2であった。

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頭蓋内奏効 (コホート4)

活動性脳転移を有する30例においても、 頭蓋内病変に対して奏効が認められた。

【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」

エキスパートの視点

ゾンゲルチニブが1次治療を変える可能性

HER2変異陽性NSCLCは長らく 「初回標的治療の空白領域」 であったが、 今回のBeamion LUNG-1試験コホート2により、 ゾンゲルチニブは1次治療において高い奏効率と長期PFSを示し、 HER2変異陽性NSCLCの治療戦略を大きく変える可能性を示した。

また、 コホート4において活動性脳転移症例に対する有効性が示された点に加え、 EGFR阻害に伴う皮膚障害や下痢が比較的少なく、 薬剤性肺障害の頻度も低いことが示唆された点は、 実臨床上大きな利点と考えられる。

HER2変異全体への外挿には注意が必要

今回の1次治療データの中心はHER2 exon20 insertionを含むtyrosine kinase domain (TKD) 変異症例であり、 その結果をHER2変異全体へそのまま外挿する際には注意が必要である。

HER2変異の一部はextracellular domain (ECD) 変異やtransmembrane domain (TMD) 変異として存在し、 これらを含むnon-TKD変異群は生物学的に不均一な集団である。 実際、 Beamion LUNG-1の既治療患者コホート1では、 non-TKD変異群の奏効率はTKD変異群より低い傾向を示した (ORR 30% vs 71%) ¹⁾。

ただし、 これは探索的解析であり、 「non-TKD変異に対するゾンゲルチニブの有効性が低い」 と結論付けることはできない。 むしろ、 S310F (ECD変異) やV659E (TMD変異) などの活性化変異では、 HER2依存性が高く、 ゾンゲルチニブが有効である可能性も考えられる。

HER2変異陽性NSCLCはサブタイプ別治療の時代へ

HER2変異陽性NSCLCにおける今後の標準治療について考えてみたい。 Beamion LUNG-1試験は単群試験であり、 ゾンゲルチニブと標準化学療法、 あるいは抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) との直接比較は行われていない。 そのため、 ゾンゲルチニブが1次治療の新たな標準となるかについては、 今後の比較試験による検証が必要である。

ただ、 現時点では、 ゾンゲルチニブは高い抗腫瘍効果に加えて毒性が比較的軽く、 特に薬剤性肺障害の頻度が低い可能性が示されている。 一方、 T-DXdは高い抗腫瘍効果を有するものの、 薬剤性肺障害への十分な注意が必要である。

したがって、 TKD変異や一部の活性化non-TKD変異症例では、 「初回にゾンゲルチニブを導入し、 その後T-DXdへつなぐ」 という治療戦略は、 有効性と安全性の両立という観点から有力な選択肢となる可能性がある。 一方で、 活性化の意義が明確でないnon-TKD変異症例では、 リアルワールドデータや探索的解析によるさらなる知見の蓄積により、 治療選択を個別に検討する必要があるだろう。

HER2変異陽性NSCLC診療は、 ようやく 「HER2変異陽性」 という単一カテゴリーから、 「HER2変異サブタイプ別治療」 へ進化する段階に入りつつある。

【解説】広島大・益田氏 「HER2変異NSCLCは”サブタイプ別治療”の時代へ」

<出典>

1) N Engl J Med. 2025 Jun 19;392(23):2321-2333.


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海外ジャーナルクラブ:N Engl J Med. 2026; 394: 1675-1684.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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