HOKUTO編集部
3ヶ月前
7月17日に発刊された『大腸癌治療ガイドライン医師用 2024年版』 (以下、 2024年版) の改訂ポイントについて薬物療法中心に解説する¹⁾。 大きく分けて周術期*と遠隔転移再発それぞれにおいて重要な変更点があったが、 今回は後者に関しての改訂の注目ポイントを解説する。
*周術期療法編の解説はコチラ
切除を強く推奨する (CQ22)
卵巣転移に関してはこれまで記載がなかったが、 今回の改訂では根治切除可能な同時性および異時性卵巣転移に対しては、 切除することを強く推奨することが記載された。
原則薬物療法だが自覚症状がある場合には卵巣転移の姑息切除を弱く推奨(CQ22)
卵巣転移および卵巣転移以外の切除不能遠隔転移を同時に有する場合は、 原則的には全身の薬物療法が適応となるが、 卵巣転移は他の遠隔転移巣に比べて薬物療法の効果が低いことが指摘されており²⁾、 姑息的切除が予後延長に寄与する可能性が報告されている³⁾。 これらに基づいて、 薬物療法が第一選択であることは変わらないものの、 自覚症状を有し、 増大傾向である場合には姑息的な卵巣切除を行うことが「弱く推奨」された。
MSI‒H またはdMMRの切除不能大腸癌一次治療例にペムブロリズマブを強く推奨(CQ23)
高頻度マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復機能欠損 (MSI-H/dMMR) の切除不能大腸癌に対しては、 旧版のガイドラインでは「抗PD-1抗体」との推奨記載のみであったが、 2024年版では具体的には1次治療でのペムブロリズマブの投与を行うことが強く推奨された。
MSI‒H またはdMMR の切除不能大腸癌既治療例にペムブロリズマブ、 ニボルマブ、および併用 (Nivo+Ipi)を強く推奨(CQ23)
2次治療ではこれに加えてニボルマブ、 ニボルマブ+イピリムマブ療法を行うことが強く推奨された。
TMB-Highかつnon MSI-H切除不能大腸癌に対してPemを弱く推奨 (CQ23)
2024年版では、 Tumor mutation burden-high (TMB-High) に関しても追記がされた。 TMB-Highは腫瘍遺伝子変異量が高いことを示しており、 KEYNOTE-158試験において固形癌全体でペムブロリズマブ単剤の有効性が示されている⁴⁾。 KEYNOTE-158試験には大腸癌患者が含まれていないうえに、 TMB-Highが10mu/Mbというカットオフの問題や大腸癌に対しての有効性の問題に関しては不明点が多い現状があるものの、 標準治療に不応や不耐な状況であればペムブロリズマブ単剤の使用は考慮され、 2024年版では「弱く推奨」とされた。
また、 切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズムにもTMB-High陽性の項目が追加された。
フッ化ピリミジン、 オキサリプラチン、 イリノテカン、 血管新生阻害薬、 抗EGFR抗体薬に不応/不耐となった場合の後方治療としてFTD/TPI+BEVを推奨度1に記載 (CQ24)
第Ⅲ相試験であるSUNLIGHT試験により、 トリフルリジン・チピラシル (FTD/TPI) 単剤と比較してFTD/TPI+BEV (トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブ) 療法は全生存期間 (OS) の有意な延長を示した⁵⁾。 この結果を踏まえて、 CQ24では原則的な3次治療以降での選択肢としてFTD/TPI+BEV療法が推奨治療として追加された。
レゴラフェニブとFTD/TPIもしくはFTD/TPI+BEVのいずれの治療を先行していくのかに関しての前向き比較試験はないが、 レゴラフェニブとFTD/TPIに関しては後ろ向き研究などからそれぞれの有効性はほぼ同等と考えられている。 このことからFTD/TPI単剤に対して有効性を示したFTD/TPI+BEV療法が第一選択と考えられ、 推奨度1の治療とされた。 BEVの併用ができない場合にはレゴラフェニブもしくはFTD/TPIを検討するとされ、 推奨度2と記載された。
切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズムにおいてもFTD/TPI+BEV療法に記載が変更されている。
オキサリプラチン併用療法の導入後に患者のQOLなどを考慮してフッ化ピリミジン+BEVもしくは抗EGFR抗体薬による維持療法を行うことを推奨 (CQ25)
2024年版では、 維持療法に関してのCQが新設されたことも今回の注目点である。 FOLFOXIRI (レボホリナート+フルオロウラシル+オキサリプラチン+イリノテカン) に関して有効性を示したTRIBE試験⁶⁾やTRIBE2試験⁷⁾においては、 8~12コースでのオキサリプラチンとイリノテカンを中止してフルオロウラシル/レボホリナート (5-FU/l-LV) +BEVによる維持療法が行われていた。
また、 オキサリプラチンをベースにした治療においては、 一般的にオキサリプラチンの累積投与量が850mg/m²で生活に支障を及ぼすレベルの末梢神経障害が10%程度で出現することが報告されており、 中断後も患者さんのQOLに関わることが報告されている。 このことから"STOP and GO戦略*が行われ、 計画的なオキサリプラチンの中止はOSに差を及ぼさないことも示されている⁸⁾。
これらのことから、 オキサリプラチンによる導入薬物療法が奏効した一定期間後はその治療効果はプラトーとなり、 それ以上の腫瘍縮小効果が乏しいと考えられる。 以上より、 上記の治療で一定の効果が得られた場合にはフッ化ピリミジン+BEVでの維持療法ならびにフッ化ピリミジン+抗EGFR抗体薬での維持療法を行うことが推奨された。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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